第481話 パルミロの監視
A級魔装魔法使いのクラリス・レアンドルが来日した。空港から渋紙市へ向かい、冒険者ギルドへ入る。
クラリスが冒険者ギルドに入ると、寛いでいた冒険者たちが気付いてざわざわとした空気が広がる。
「おい、あれはA級七位のクラリス様じゃないのか?」
「マジか。本物だよ」
クラリスはカウンターへ行って、支部長に面会を申し込んだ。ところが、支部長は出掛けていた。受け付けたマリアは、申し訳なさそうに不在だと伝える。
「それなら、グリム先生の家に案内してくれないかしら」
それを聞いたマリアは、先輩たちと相談して案内する事にした。
マリアとクラリスはグリムに電話してからグリーン館へ向かった。
「ここがグリム先生の家です」
マリアが呼び鈴を鳴らす。すると、何かが駆けて来る気配がして、門の前で止まる。
「どなたですか?」
「冒険者ギルドのマリアです」
門が開いて二人は中に入った。クラリスは猫人型シャドウパペットを見て驚いた顔をする。
「このシャドウパペットは?」
「警備用シャドウパペットです」
クラリスには入館許可証が渡された。<反発(水)>の特性が付与された入館許可珠ではなく、入館許可証なのはクラリスが一時的に入館を許可されたという事である。
マリアは案内の仕事が終わったので冒険者ギルドへ戻り、クラリスは屋敷に入る。すると、トシゾウが出て来て、作業部屋に案内した。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「ようこそ、グリーン館へ」
俺が挨拶すると、クラリスが微笑んで挨拶を返す。
「クラリスさんがわざわざ来日するなんて、エミリアン殿に何かあったのですか?」
クラリスが否定するように首を振った。
「今日はパルミロの件で来ました」
エミリアンはフランスへ帰ってから人を雇って、パルミロとその一味を尾行させていたらしい。
「パルミロは四人の冒険者とチームを組んで、ギリシャのミケーネダンジョンに潜り、巨竜バハムートに戦いを挑んだようです」
クラリスが俺の顔をジッと見た。
「驚かないんですね?」
「もしかすると、バハムートに挑戦するんじゃないかと考えていました」
俺は巨竜バハムートをソロで倒すと、『試練の間』という場所へ通じる入り口が開き、その試練に耐えれば神になる事ができるかもしれないと教えた。
「なるほど、神への道ですか。パルミロは本気で神を目指しているのですね?」
「そのようです」
「但し、その挑戦は失敗したようです。エスケープボールを使って戻ってきました。バハムートとの戦いで武器も失くしたようです」
「ザマアミロです。でも、諦めないんでしょうね」
「その通りです。A級八位のゴルトベルクが爆死した事を知っていますか?」
知らないと答えると、教えてくれた。エミリアンが雇った者たちが調べた結果によると、パルミロは自分の名前を使って、ゴルトベルクに仕事を依頼したらしい。だが、結果としてゴルトベルクは爆死した。何らかの罠が仕掛けられていたというのだ。
「魔法による爆発だったら、ゴルトベルクも気付くと思うので、爆弾を使った罠だと思います。目的はゴルトベルクが所有していた『ブリューナク』だったようです」
意思のない爆弾なら、殺気も漏らさないのでゴルトベルクも気付けなかっただろう。冒険者は魔物と戦うプロであり、こういう人の企みに関するものは専門外なのだ。
トシゾウがコーヒーを淹れて持って来た。
「どうぞ」
俺とクラリスの前にコーヒーを置く。クラリスはトシゾウの顔をジッと見ていた。
「何体のシャドウパペットを持っているの?」
「十四体かな」
クラリスが呆れたような顔をする。
「そんなに必要なんですか?」
「ほとんどが警備用や執事シャドウパペットです」
「執事シャドウパペットは、私も欲しいかも」
「クラリスさんなら、作製を引き受けますよ」
嬉しそうに笑ったクラリスが一体注文した。仕様はトシゾウと同じで良いらしい。ただ色だけ桜色にして欲しいそうだ。
「そう言えば、ディアスポラという組織も、賢者の誘拐をしていましたね。パルミロと関係するんでしょうか?」
俺が尋ねるとクラリスは首を傾げた。
「ディアスポラは賢者を
クラリスは俺にパルミロの情報を教えるために来日したのかと思っていたが、違うと言う。不変ボトルを手に入れたので万能回復薬を入れるために来たらしい。
話が終わりクラリスが帰った。
「パルミロが『ブリューナク』を手に入れたか。もう一度バハムートに挑戦するだろうか?」
『すると思います。但し、自分を鍛えてからでしょう』
それから何日か経った。クラリスからの連絡だと、パルミロはダンジョンに潜って鍛えているらしい。
「なるほど、武器だけでは勝てないと分かったか。馬鹿ではないな」
パルミロは当分の間修業に打ち込むだろう。短期間で鍛え直す事はできないからだ。
俺はシャドウパペットの工房を立ち上げるために、魔法学院や美術大学などを回って人材を募集した。その結果、五人の生活魔法使いとデザイナー志望の二人を雇う事が決まった。
経営は近藤支部長が紹介してくれた営業のノウハウを持つ人材を入れた。但し、正式に工房の活動が始まるのは四月からになる。
パルミロはエミリアンたちが監視しているので、俺は久しぶりに魔法を創ろうかと考え始めた。創ろうと考えたのは、『オートシールド』の強化版である。
『オートシールド』が上級ダンジョンで遭遇する強い魔物には通用しなくなっているからだ。そのためにアリサにも手伝ってもらって『オートシールド』を分析する。
その結果、『オートシールド』は<電磁波感知>の特性を使って敵の攻撃を感知していると分かった。電磁波は赤外線や可視光線も含むので、それらにより敵の攻撃を感知して動いているらしい。
<電磁波感知>の他に<手順制御>と<演算コア>が組み込まれているようだ。もちろん、その<手順制御>で使う自動防御機能も組み込まれていた。
ただ九枚のD粒子シールドを長時間維持する方法だけが分からなかった。それで魔力のコーティングで代用する事にした。
「D粒子二次変異の特性だけで四つが必要か」
今まで特性三つを<編成>の機能で一つに纏めるのが限界だった。だが、『干渉力鍛練法』『霊魂鍛練法』に従い鍛錬を続けてきたので、四つでも可能なような気がしている。
俺は賢者システムを立ち上げ、開発中の新魔法をチェックした。そして、<編成>の機能を使って<電磁波感知><手順制御><演算コア><衝撃吸収>を一つに纏めようとする。
かなりの抵抗があったが、何とか一つに編成する事ができ、新しい魔法に付与する。
「成功した」
『おめでとうございます。地道に鍛錬を続けた甲斐がありましたね』
メティスが成功を祝ってくれた。これで創れる魔法の範囲が広がる。
この魔法は攻撃を吸収するシールドという意味で『アブソーブシールド』と名付けた。『オートシールド』に<衝撃吸収>の特性を加えた魔法になっている。但し、魔力のコーティングも加えているので、D粒子シールドが少し赤みを帯びているように見える。D粒子赤色シールドと呼ぶ事にする。
『アブソーブシールド』を習得できるのは魔法レベル15である。
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