第480話 パルミロの挑戦

 パルミロはギリシャのミケーネダンジョンへ来ていた。四人の冒険者と組んで、彼らの力を借りて三十層の中ボス部屋まで到着する。


「やっと到着ですね。疲れました」

 パルミロが大きく深呼吸をする。ここまで来る途中、ほとんどの魔物をパルミロ以外の四人が倒した。

「本当に一人で大丈夫でございますか?」

 冒険者の一人がパルミロに尋ねる。


「中ボスの巨竜バハムートは、私一人で倒さねば意味がないのです」

「しかし、危険でございますよ」

「その危険を冒さねば、道は開けないのです」


 パルミロはC級にまでなった冒険者でもある。但し、C級になった直後に特別な力を得て、ヴァチカンの後ろ盾を手に入れたのだ。


 ただそれを機会にダンジョンへ潜る事がほとんど無くなった。今回は数年ぶりのダンジョンである。休憩して疲れを取ってから、パルミロは一人で中ボス部屋に入る。


 広い空間の中に巨大な竜が立っていた。体長が二十メートルほどで、大きな翼を持つ竜である。その巨竜と目が合っただけで、パルミロの身体が震えた。


「何を恐れる事がある。私は不老不死となったのです。私に死は訪れない」

 パルミロは神話級の魔導武器である神槍グングニルを握り締めた。そして、その槍に魔力を注ぎ込む。その時、バハムートが目を見開き大口を開ける。


 青い炎のブレスがパルミロに向かって吐き出される。その凄まじい熱の奔流は、大気を焼き焦がしながらパルミロに迫った。


 パルミロは『ホワイトアーマー』を発動して白い魔法の膜で身体を覆うと走り出した。青炎ブレスを避けながら、魔力を込めるとグングニルを投擲する。


 グングニルはバハムートの胸に命中し心臓を貫いた。普通のドラゴンなら死なないまでも大きなダメージを負っただろう。だが、巨竜バハムートは巨体に血を巡らすために三つの心臓を持つドラゴンだった。


 パルミロの手に戻って来たグングニルにまた魔力を流し込み、投擲しようとした。バハムートは巨大な翼を羽ばたかせ飛び上がる。


 あれほど重そうな巨竜が翼の羽ばたきだけで飛び上がれるはずがないので、魔法が関係しているのだろう。


 パルミロはグングニルを投擲する。それに気付いたバハムートは、青炎ブレスをグングニルに向かった吐き出した。パルミロはミスを犯した事に気付いた。投擲するタイミングが早すぎたのである。もう少し近付いてから投擲するべきだった。


 グングニルは青い炎の中を飛翔する事になり、注ぎ込まれた魔力が急速に消耗する。それでも青炎ブレスを突き抜けバハムートの眼に飛ぶ。


 もう少しで眼にグングニルが命中しようという時、バハムートがブレスを止めてグングニルに噛み付いた。脳を貫通しようとするグングニルとバハムートの牙が力比べを始め、グングニルの魔力が尽きた。


 バハムートの牙により砕かれるグングニル。それを見たパルミロが唇を噛み締めた。メイン武器を失ったパルミロは絶体絶命である。


「仕方ありませんね」

 パルミロは迫ってくるバハムートを睨みながら、エスケープボールを作動させる。パルミロは一瞬で中ボス部屋の外に放り出された。


「パルミロ様、お怪我はありませんか?」

 起き上がったパルミロは、珍しく渋い顔をしていた。

「心配ない。戻りますよ」


 イタリアに戻ったパルミロは、別荘へ向かった。別荘に入ると、従者のルベルティを呼ぶ。

「パルミロ様、首尾は如何でしたか?」

「失敗です。あのグングニルでは倒せませんでした。あれ以上の魔導武器が必要です」


 それを聞いたルベルティが頷いた。

「神槍グングニル以上の神話級魔導武器となりますと、入手が困難になります」

「どんな魔導武器が有るのです?」


「勇者シュライバー様の『カラドボルグ』、A級四十五位になられたサカキ様の『光剣クラウ・ソラス』、賢者エミリアン様の『フラガラッハ』、A級八位ゴルトベルク様の『ブリューナク』が挙げられます」


 他にも強力な魔導武器は有るだろうが、名前が知れ渡っているものはこれくらいなのである。グリムの『光剣クラウ・ソラス』はアユタヤに現れたヴァースキ竜王に大ダメージを与えた事で有名になっていた。


「私の精神攻撃を見抜いたサカキは、除外するしかありません。サカキと接触した賢者エミリアンも除外しよう」


「そうなりますと、勇者シュライバー様とゴルトベルク様になりますが、勇者シュライバー様からは『龍王ナマズの髭』を盗んでおりますので、警戒されているでしょう」


「ならば、ゴルトベルクですね。彼の行動を調べてください」

「畏まりました」


「しかし、サカキが魔法庁に登録した『鋼心の技』は邪魔ですね」

 『鋼心の技』は一万円程度の安い価格で気軽に手に入れられるようになっていた。ただ精神攻撃を防ぐ方法としては、防御用の指輪が主流となっている。なので、まだ『鋼心の技』は広まっていないが、パルミロからすれば邪魔だった。


 それから一ヶ月が経過した頃、ドイツの攻撃魔法使いゴルトベルクが、ダンジョン内で謎の爆発に巻き込まれて死亡した。彼が所有していたはずの魔導武器『ブリューナク』は発見されなかったようだ。


 パルミロの別荘に届いた細長い木箱を担いだ従者のルベルティが、パルミロの前に現れた。

「ドイツより荷物が届きました」

「ようやく届いたか」


 珍しく笑顔を見せたパルミロが、木箱を開けさせた。中を確認すると、凄まじい力を秘めていると思われる槍である。

「これが『ブリューナク』ですか。素晴らしい」

「これならば、バハムートを倒せますか?」


 パルミロはバハムートとの戦いを思い出し、渋い顔となる。

「このままでは、『ブリューナク』を使い熟せない。ダンジョンで鍛える必要が有るようです」


「ならば、これをお使いください」

 ルベルティがゴルトベルクの血から作った霊薬を取り出した。

「ゴルトベルクの攻撃魔法の魔法レベルは、『32』でしたね。すると、魔法レベル31で取得できる『ブラックホール』が覚えられますね」


 疑似ブラックホールを作り出す魔法である『ブラックホール』は、魔王さえ倒した事のある魔法だった。


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