第476話 ブランド化
グリーン館にアリサたちと亜美が集まった。フランスのシャドウパペット産業を見た俺は、ブランド化の件で相談しようと思ったのだ。
「シャドウパペットのブランド化を、進めようと言うんですね」
天音が面白い事を聞いたという顔をする。
「でも、ブランド化と言っても、どうするんですか?」
由香里が疑問に思って尋ねた。
「ブランド化というのは、他のメーカーのものと差別化する必要がある。フランスではデザインで差別化するつもりらしい」
フランスはデザインを意匠登録して、他のメーカーには真似できないようにするつもりらしい。俺たちも優秀なデザイナーを雇って、使えそうな模様を考え出す必要がある。
「デザインだと、フランスに負けそうな気がします」
アリサがそう言った。俺もそんな気がする。
「そこで猫語や熊語を標準装備するシャドウパペットを考えている」
熊語や猫語はメティスが完成させたのだが、よく出来ていると思う。そこでブランド化の一つとして標準装備にしようと考えたのだ。もちろん、犬語も作るつもりでいる。
「執事シャドウパペットや警護用シャドウパペットはどうしますか?」
千佳が質問する。
「執事シャドウパペットは、どこまで教育するのか、という問題が有るので保留だ。警護用シャドウパペットは、シャドウクレイ四十キロを使ったものを考えている」
「待ってください。シャドウクレイ四十キロを用意できるのは、グリム先生だけです」
亜美が指摘する。それを聞いて、俺は頷いた。
「そこで、皆にも大型のシャドウパペットを作れるように、『プチクレイニード』の魔法を習得してもらう事にした」
『プチクレイニード』は試しにアリサが『クレイニード』の劣化版としてアレンジしたものだ。七十キロまでしかシャドウクレイを処理できないという制限が有るが、機能は『クレイニード』と同じだった。
俺が『プチクレイニード』の説明をすると亜美が目を輝かせた。
「でも、教えてもらってもいいんですか? 大型のシャドウパペットは危険だから、今まで秘密にしていたのですよね」
「この五人は信用している。タイチやシュン、カリナ先生にも教えるつもりだ」
鉄心を除いたのは、鉄心チームのメンバーをC級にするために忙しいらしいからだ。俺は『プチクレイニード』の事は秘密にするように約束させた。
「最初は小さな工房を設立して、シャドウパペットの販売をするそうよ」
アリサが俺に代わって説明する。俺は小規模な会社を設立して始めようと思ったが、まずは小さな工房から始めた方が良いとアリサがアドバイスしてくれたのだ。
「でも、私たちはまだ学生ですから、そんなには働けませんよ」
亜美が確認するように言った。
「来年の春に魔法学院を卒業する生活魔法使いを募集するつもりだ。それと美術系の人材も確保する」
俺とアリサは設立する工房について話し合っていたので、二人で説明した。
それが終わった後、亜美が新しく作製したワーベア型の執事シャドウパペットであるセバスの自慢を始めた。金剛寺に教えてもらいながら、執事としての仕事をできるようになったのが嬉しかったようだ。
天音たちを見ていて、執事シャドウパペットが欲しいようだったので、作ったらどうだと提案する。
「私は猫人型がいいです」
アリサは猫型シャドウパペットのモヒカンを猫人型に作り変えたいようだ。シャドウオーガの影魔石から作った魔導コアと融合させたいらしい。
他の三人も猫人型が良いと言うので、ブランド化に協力する報酬として引き受けた。報酬がなくても協力してくれただろうが、報酬を決めておいた方が良いと思ったのだ。
シャドウクレイは九十キロ、暗視機能付きソーサリーアイを含むソーサリー三点セット、コア装着ホールを三個、魔力バッテリーを一個、マジックポーチというセバスと同じ性能にした。
但し、アリサの執事シャドウパペットだけは、『魔物の眼』を使う。これで高速戦闘もできるようになるはずだ。亜美ももう一組の『魔物の眼』を持っているが、もう少し後になってから改造するという。
ちなみに、アリサが手に入れたダークファングの影魔石は、一個ずつ天音たちに配ったようだ。それで犬型シャドウパペットを作るらしい。
翌日から執事シャドウパペットを作り始め、翌々日に四体が完成した。四人が猫型シャドウパペットのモヒカン・ハンク・ブチ・タイガを改造する形で、執事シャドウパペットにしたのは、記憶を継承させるためだった。
地理や味方が誰かという記憶は、便利だったからだ。但し、名前は変える事にした。アリサの執事シャドウパペットは『サクラ』、天音は『ナデシコ』、千佳は『カンナ』、由香里は『ボタン』に変える。
名前から分かるように猫人型の顔は女性らしい優しい顔になっている。シャドウパペットに性別はないのだが、何となく女性だと分かる感じの顔だ。
執事としての仕事を仕込むのは大変だとは思うが、きっと役に立つだろう。
それから数日後、冒険者ギルドへ行くと鳴神ダンジョンの十六層で動きがあったと耳にした。
「十六層の氷の迷路には、アイスワームの群れが棲み着いている空間があって、その群れを掃討した『麒麟児』チームが、十七層へ下りる階段を発見したのだよ」
「十七層はどういうエリアだったのです?」
「森の中に大きな湖があったそうだ」
『麒麟児』チームは、その湖を『ネズ湖』、湖に未発見の恐竜型魔物が居たので『ネズッチー』と名付けようとしたらしい。だが、冒険者ギルドが問題有りとして却下したようだ。
近藤支部長が説明してくれたが、鳴神ダンジョンの攻略は順調に進んでいるようだ。
「そう言えば、フランスの賢者テオドール・エミリアンが大怪我をして入院したそうだぞ」
支部長の言葉を聞いて、俺は驚いた。エミリアンはA級三十番代の強者だったからである。それにエミリアンの傍にはA級七位のクラリス・レアンドルが付いていたはずなのだ。
「どういう状況で怪我をしたんです?」
「イタリアのベスビオダンジョンに潜り、カメガル文章を調査していたところを襲われたらしい」
カメガル文章というのは、ベスビオダンジョンの十九層で発見された遺跡の壁に書かれていた文章で、神の言葉が書かれているのではないかと噂されているという。その噂は文章が書かれていた壁に、神らしい絵と神が従える三匹の巨獣の姿が描かれていた事から連想されたようだ。
巨獣というのは、空の『ジズ』、海の『レヴィアタン』、陸の『ベヒモス』になる。強さも、この順番らしい。巨獣の中で最強なのは、陸の『ベヒモス』という事だ。
そんな情報を聞いた翌日、クラリスから電話が掛かってきた。事情を聞くとエミリアンが曲者に襲われてナイフで刺され、そのナイフに毒が塗られていたらしい。
「その毒を解毒する方法が見付からないのです」
電話口から必死な感じのクラリスの声が聞こえた。俺に電話してきたのは、解毒の手立てを持っていないかと確認するためだった。
解毒の手段として、俺が所有しているのは『解毒の指輪』と霊薬ソーマの原料であるシルバーオーガの角である。その角を粉にしたものは、解毒作用があると言われているのだ。
それを聞いたクラリスは、エミリアンと一緒にプライベート機で日本に来ると言って電話を切った。
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