第474話 フランス観光

「ドロップ品を探そう」

 俺の声でドロップ品の捜索が始まった。まず自分たちが倒した魔物のドロップ品を探し始める。俺はまず黒魔石<大>を見付けて拾い上げた。その近辺を探すとドロップ品を発見する。


「あれは……やっぱり、マジックポーチだ」

 俺はマジックポーチを拾い上げる。その周囲を見回してゴーグルも見付けた。ちょっと期待しながら鑑定モノクルでゴーグルを調べてみる。


 すると、モノクルのレンズに『マルチ鑑定ゴーグル』と表示。ダンジョン産のアイテムと魔物、それにダンジョン自体も対象になるらしい。


 鑑定モノクルを外して、マルチ鑑定ゴーグルを目に当てると、ピタリと皮膚に張り付いた。そして、マジックポーチを調べてみる。


 マルチ鑑定ゴーグルのレンズに鑑定結果が浮かび上がる。それによると『マジックポーチⅧ』というものらしい。容量は八千リットルほどで、今使っているマジックポーチより時間遅延機能が強力なようだ。


 もう一つ機能があった。最初に使った者しか使えないようにするというものである。しかし、それは正確ではなく使用者を限定するという機能の他に、その登録情報を初期化する機能もあったのだ。


 確かめてみると、今使っているマジックポーチにも同じ機能があった。長年使っていたが、全く気付かなかった。マルチ鑑定ゴーグルはかなり強力な鑑定機能を持っているらしい。


 それをアリサたちに教えると感心していた。

「私も『アイテム・アナライズ』の上位魔法を習得しないと」

 アリサは変な競争心に火が点いたようだ。


 ゴブリンジェネラルのドロップ品は、『魔物の眼』だった。『悪魔の眼』と同じく高速戦闘が可能になるソーサリーアイだ。但し、『悪魔の眼』とは違いD粒子は見えないようである。


「さて、次はオリハルコンの採掘だ」

 広大なエリアの中で、オリハルコンの鉱床を発見するのは難しい。だが、俺たちにはマルチ鑑定ゴーグルがある。怪しいと思う場所をマルチ鑑定ゴーグルで調べて、鉱床を探した。


 試し堀りするという手間が要らないので、短時間でオリハルコンの鉱床を発見する事ができた。エルモアと為五郎が掘り、俺とアリサ、亜美が『ピュア』を使ってオリハルコンだけの粒にする。


 御蔭で仕事が捗り、二十キロのオリハルコンを手に入れる事ができた。

「よし、オリハルコン二十キロを三等分すると……」

 フランシーヌは最初から要らないと言っていたので、三人で分けようと提案するとアリサが要らないと言い出した。必要ないというのだ。


「それなら、私も遠慮します」

「亜美は、もらって換金すればいいのよ」

 アリサが言ったが、亜美は要らないという。フランスに連れてきてくれただけで、十分だというのだ。


「そうだ。亜美にはオークジェネラルゾンビを倒した時に、手に入れた収納ブレスレットを代わりにあげよう。アリサには、俺が使っているマジックポーチを譲る」


 オリハルコンは、収納系魔導装備に匹敵するほどの価値がある。この金属は魔導装備やソーサリーアイなどを作る時に必要となる素材だからだ。


 遠慮する二人に、収納系魔導装備は邪魔にならないからと受け取らせた。

 少し休憩してから地上に戻る事にした。トンネルを通って四層に戻ると、冒険者たちが集まって海を見ていた。フランシーヌが駆け寄って事情を聞く。


「この近くの海にレヴィアタンが姿を現したそうです」

「へえー、俺も見たいな」

 三大巨獣の一つであるレヴィアタンは、見る価値があると思ったのだ。三十分ほど海を眺めながら待っていると、レヴィアタンが姿を現した。


 全長六十メートルの水龍だ。胴体の幅が三メートルほどもあり、その巨大な口から水流ブレスを吐くという化け物である。その水流ブレスを受けると、岩山でも崩壊すると言われている。


 レヴィアタンが海面から飛び上がり、空中に姿を現すとその巨大さが分かった。それだけではなく、その巨体から放たれる覇気が凄まじく、遠くから見ていた冒険者たちの中にも地面に膝を突いて祈りを捧げ始める者が居たほどだ。 


 その凄まじい覇気から純粋で神々しいほどの力を感じたのだろう。正直、今戦ったら勝てないと思った。それほどの力をレヴィアタンから感じたのである。


 レヴィアタンが去り、海が静かになると俺たちは地上に戻った。冒険者ギルドへ行って報告すると、すぐにホテルに戻って寝た。さすがに疲れたのだ。


 それからフランス観光を楽しんだ。それにフランシーヌがエルモアと為五郎の活躍を報告したので、マスコミから取材を受けるという事もあった。


 B級冒険者に匹敵する戦力を持つシャドウパペットという存在が、評判になった。そして、それを作製した俺も有名になったようだ。


 フランス滞在中に賢者のエミリアンから連絡が有るかもしれないと思っていたが、なかった。用心しているのかもしれない。


 俺たちはフランス旅行を楽しんでから日本へ帰国し、それぞれが自宅に戻り普段の生活に戻った。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 フランスから戻ったアリサは、お土産を持って千佳の家に行った。千佳は道場で子供たちに指導しているというので、道場へ向かう。小学生らしい子供たちと練習している千佳の姿があった。


「千佳先生、ありがとうございました」

 その練習が終わると、子供たちが大きな声で挨拶しながら帰っていく。

「お疲れ様、楽しそうね」

「子供たちに教えるのは楽しいよ。それより、フランスはどうだったの?」


「美味しいフランス料理とワイン、それに観光も楽しかった」

 アリサが幸せそうに笑う。

「ダンジョンは?」

「凄い収穫があったの。フランスのダンジョンにダークファングという犬のシャドウ種が居て、その影魔石を手に入れたのよ」


 アリサは一番に犬のシャドウパペットを作製できるようになったと伝えた。それからゴブリンエンペラーやレヴィアタンの事も話す。


「私も行きたかったな」

 千佳が羨ましがった。

「今回はモンタニエ氏の招待だったから、大勢では行けなかったけど。次は四人で行きましょう」

「いいねぇ。本場のフランス料理か。楽しみ」


 アリサがお土産を渡して帰ると、千佳は母屋おもやへ行き着替えた。

「千佳、来週大阪で大会がある。一緒に行かないか?」

 父親の剣蔵は、その大会で審判員を頼まれているらしい。大会には剣術連盟の覇者緋崎ひざき孝之たかゆきが出場するという。


 剣術連盟というのは、ダンジョンで活躍する冒険者が習う剣術道場が、加盟している集まりである。そこでは年に一度、剣術大会を開催していた。


 緋崎というのは、B級冒険者で昨年の優勝者だ。千佳にも出場しないかという話が来たが、その頃はナンクル流空手の道場に通って高速戦闘の基礎を習っている最中だったので断っている。


 三橋師範が剣術大会などを見学するのも勉強になると言っていたのを思い出した千佳は、一緒に行く事にした。

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