第473話 ゴブリンエンペラー
入り口から中を覗くと、ゴブリンエンペラーの姿が見えた。身長は二メートルほどだろう。凄まじい筋肉を持つ存在だった。
「手強そうだな」
「見た目から判断すると、知性が高いようです。だから、召喚術もできるのかも」
アリサが難しい顔でゴブリンエンペラーを観察している。
俺は衝撃吸収服のスイッチを入れ、いくつかの指輪を嵌めてから、中ボス部屋に入った。俺に続いてアリサ・亜美・フランシーヌ・エルモア・為五郎も中に入る。それを見ていたゴブリンエンペラーが不気味な笑みを浮かべる。
俺は『韋駄天の指輪』に魔力を注ぎ込む。それと同時にゴブリンエンペラーが召喚術を使った。二匹のゴブリンジェネラルを召喚したのである。
アリサと為五郎がチームを組み、亜美とエルモア、フランシーヌがチームを組んでゴブリンジェネラルと戦うために進み出る。一方、俺は神剣グラムを構えてゴブリンエンペラーに向かう。
これは事前に話し合っていたチーム分けである。俺はゴブリンエンペラーに近付きながら、指輪の力を借りて思考速度を上げていく。
いきなりゴブリンエンペラーが走り出した。それはレッドオーガよりも速く、シルバーオーガよりも少し遅いという感じだ。
A級の魔装魔法使いじゃないと倒すのが難しいと言われる訳である。ゴブリンエンペラーが飛び込んでロングソードを振り下ろす。
俺は神剣グラムで受け流しながら踏み込み、ゴブリンエンペラーの脇腹に神剣グラムを叩き込む。何かゴムのような弾力のあるもので阻まれたような気がしたが、神剣の刃は簡単に切り裂いて魔物の肉体に傷を負わせる。
但し、その傷は浅かった。途中でゴブリンエンペラーが後方に跳躍したのだ。その動きで風が巻き起こる。
素早さを何倍にも上げて戦う者にとって、空気は重いと感じてしまう。普段なら何の抵抗もないと思われる空気が、水のように動きに抵抗するのだ。ゴブリンエンペラーはそれをパワーで打ち破り動く。
一方、俺はそれほどのパワーはない。なので、工夫して抵抗が減るような動きで戦う。それがナンクル流空手の『疾風の舞い』に秘められている奥義である。
『ガイディドブリット』を発動しD粒子誘導弾でゴブリンエンペラーの頭を狙う。飛翔するD粒子誘導弾に気付いたゴブリンエンペラーは、剣の側面で弾き飛ばした。
激しい高速戦闘が俺とゴブリンエンペラーで繰り広げられる一方、アリサたちもゴブリンジェネラルと戦闘を始めていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ゴブリンジェネラルはエンペラーほど素早くないが、それでも速い動きで攻撃を仕掛けてきた。風が巻き起こるほどに速い剛槍の突きを、為五郎が円盾で受け止める。
アリサは『大威徳明王の指輪』に魔力を注ぎ込んで素早さを上げて見ていたが、手は出さない。接近戦は為五郎に任せる事にしたのだ。その代わりに隙が有れば、生活魔法を撃ち込もうと観察する。
ゴブリンジェネラルが何度も剛槍の突きを放つが、為五郎は確実に円盾で受け止めた。ゴブリンジェネラルが剛槍を振り上げ、為五郎に叩き付けようとする。
為五郎はスナップを効かせて素早く雷鎚『ミョルニル』を投げる。クルクルと回転したミョルニルが、ゴブリンジェネラルの胸に命中し火花を散らす。
チャンスだと感じたアリサが、セブンスコールドショットを発動しD粒子冷却パイルをゴブリンジェネラルの腹に向かって放つ。
D粒子冷却パイルはゴブリンジェネラルが纏っている魔力障壁によって阻まれた。為五郎のミョルニルが命中したのは、魔力障壁よりパワーが勝っていたからである。
ゴブリンジェネラルがアリサに向かって跳躍した。アリサは冷静に『ティターンプッシュ』を発動しティターンプレートで迎撃する。魔力障壁とティターンプレートが空中で衝突しゴブリンジェネラルの跳躍を止めた。
そこに為五郎がミョルニルを投げる。頭を狙って投げられたミョルニルが、ゴブリンジェネラルの後頭部に命中し火花を飛ばす。ゴブリンジェネラルが白目を剥いて床に座り込むように落下。
それを見たアリサは『クラッシュボールⅡ』を発動し高速振動ボールを飛ばす。高速振動ボールはゴブリンジェネラルの少し手前で効果を発揮するように時間指定されていた。魔力障壁に命中する直前に空間振動波が放射され破壊空間が形成される。
その空間内にはゴブリンジェネラルの肉体も含まれており、ゴブリンジェネラルの胸が抉られ致命傷を与えた。
亜美たちはエルモアが中心になって戦っていた。ゲイボルグと剛槍が交差し、目まぐるしいほどの攻防が繰り広げられる。
フランシーヌはシャドウパペットの強さに驚いていた。戦闘用シャドウパペットと言っても、自分より弱いと思っていたのだ。
だが、明らかにフランシーヌ自身より強い。難しい高速戦闘も問題なく行っている。攻防が速すぎて手を出せないと悟り、悔しい思いを抱いた。
「こんな戦いができるシャドウパペットが作れるのなら、冒険者なんて要らなくなるんじゃないの」
フランシーヌが思わず声を上げた。
亜美は魔力障壁で魔法のほとんどが通用しないと分かったので、マグニハンマーを握り締めてチャンスを狙っていた。エルモアがゲイボルグでゴブリンジェネラルの足を薙ぎ払うような攻撃を行う。
ゴブリンジェネラルは跳躍し、真上から剛槍をエルモアに叩き付けようとする。そこに亜美がマグニハンマーを投げた。ハンマーがゴブリンジェネラルの顔面に命中する。
マグニハンマーも魔力障壁を突き破ったようだ。ゴブリンジェネラルが床を転がる。そこに走り込んだフランシーヌがバトルアックスを叩き込んだ。
ゴブリンジェネラルは左肩に深い傷を負う。それでも素早く起き上がり、エルモアへ跳躍し足に向かって剛槍を振る。エルモアは跳躍して避けた。
ニヤリと笑ったゴブリンジェネラルが、落下してくるエルモアに向けて片手で剛槍を突き出した。エルモアは腰に埋め込んだ浮遊球と足の浮遊骨に魔力を送り込みながら空中を蹴るような動作をする。
フランシーヌには、エルモアが空中を足場にして跳躍したように見えた。
「そんな馬鹿な……」
エルモアは上空でゲイボルグを振りかぶり投げ下ろす。ゲイボルグの穂先は、ゴブリンジェネラルの頭を貫通し床に突き立って消えた。エルモアの手元に戻ったのだ。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺はゴブリンエンペラーと睨み合っていた。予想以上にゴブリンエンペラーの剣の腕が卓越しており、戦いが長引いているのである。
俺が魔法を使おうとすると、それを読み取ったかのようにロングソードで攻撃してくる。しかも、そのロングソードは魔導武器らしい。
剣の切っ先がダンジョンの壁を切り裂いたのを見たのだ。神剣グラムでなかったら、武器ごと斬り裂かれていただろう。
ロングソードの斬撃が俺の首を目掛けて攻撃してくる。その攻撃を避けて、神剣グラムで反撃する。ゴブリンエンペラーはロングソードで受け止め、前蹴りを放った。
俺の腹に当たったが、衝撃吸収服の効果で無効化される。ゴブリンエンペラーは俺が跳ね飛ばされると思っていたようだ。そこに隙が出来て神剣グラムの攻撃が足に命中して切り裂いた。
ゴブリンエンペラーの動きが遅くなった。怪我の影響も有るだろうが、神剣グラムの斬撃を受けてゴブリンエンペラーに掛かる重力が増加したのである。
ゴブリンエンペラーがよろめいた。俺は踏み込んで神剣グラムで胴を薙ぎ払うように振る。ゴブリンエンペラーが片足で後ろに跳んだ。俺は神剣グラムの振りを引き金にして『クラッシュソード』を発動し、空間振動ブレードで追撃する。
まだ跳躍中だったゴブリンエンペラーの胴体を空間振動ブレードが薙ぎ払い、真っ二つにする。この一撃で勝負が決まった。中ボスが消えるのを確かめて、『韋駄天の指輪』に注ぎ込んでいた魔力を止める。
「ふうっ」
素早さを上げている状態で、動作を引き金に魔法を発動するというやり方は、まだ五割の確率でしか成功していないものだ。成功して良かった。
アリサや亜美たちもゴブリンジェネラルを倒した直後らしい。皆で顔を見合わせ、無事なのを確かめて喜んだ。
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