第472話 ヴェルサイユダンジョン

 俺たちはダークファング狩りを続けた。ダークファングは潜んでいる影に近付くと飛び出してくるようだ。D粒子センサーでダークファングを探し、俺たちが近付くと影に潜る。


 ダークファングは影から飛び出して奇襲するという方法が得意なようだが、ワンパターンだと倒しやすい。……ダークファングは犬の魔物なので、ワン、パタンとダジャレを言いそうになってやめた。アリサにオヤジギャグだと言われそうだからだ。


「あの岩の影にダークファングが潜ったようだ」

「私が仕留めます」

 亜美がマグニハンマーを構えながら、慎重に前に進む。その前方には岩があり、その影にダークファングが潜んでいる。


 亜美が岩から五メートルのところまで近付いた時、その影からダークファングが飛び出した。亜美は用意していた『クラッシュソード』を発動し、横に跳びながら空間振動ブレードでダークファングを薙ぎ払う。


 『クラッシュソード』は射程が短いので接近戦になるが、その分威力は強力だ。ダークファングが胴体を切り裂かれ真っ二つになる。


「お見事、一撃で仕留めるとは凄いな」

「新しく登録された『クラッシュソード』の御蔭です。でも、この魔法は射程が短すぎるんですよね」


 俺は苦笑いした。『クラッシュソード』は習得できる魔法レベルを『10』にした事で、射程が三メートルと短くなった。それに大量の魔力を消費するので、多用できない切り札的存在になっている。


 亜美が影魔石を拾い上げた。それを見詰めてから、ニコッと笑ってマジックポーチに仕舞う。

 それからダークファング狩りを続け、俺が六匹、アリサが四匹、亜美が三匹を倒した。シャドウクレイも手に入れたが、その量は合計で百五十キロほどである。


 その狩りの様子を見ていたフランシーヌが驚いていた。

「ダークファングは、一日三匹ほど倒せれば、運がいいと言われているのに」

 シャドウ種であるダークファングは、発見するのが難しい魔物である。それを簡単に発見してしまう俺に驚いているのだ。


「そういうスキルを磨いた結果です」

「それは魔装魔法使いでも、身に付けられるスキルなのですか?」

「残念ながら、生活魔法の才能がないと難しいですね」


 フランシーヌがガッカリしたようだ。

「そう言えば、ダークユニコーンが居るダンジョンも有るそうですね?」

 俺が尋ねると、ダークユニコーンが居るダンジョンは、スペインに近いガスコーニュ地方に有るらしい。ちょっと遠いので、ダークユニコーン狩りは難しいようだ。


「そろそろ戻ろうか」

 俺が提案すると、三人が頷いた。俺たちは地上に向けて戻り始め、その途中でブラッドコングと遭遇した。ブラッドコングは身長が二メートル半ほどで、真っ赤な毛並みをした大猿である。武器として棍棒を持っているのが特徴だ。


「これは私に倒させてください」

 案内人の役目を果たしていたフランシーヌが、俺たちの狩りを見ていて戦いたくなったらしい。フランシーヌの武器は、両手持ちのバトルアックスだ。


 インド神話に出て来るシヴァ神が英雄パラシュラーマに授けた斧で『パラシュ』という魔道武器らしい。そのバトルアックスを構えたフランシーヌは、魔装魔法を発動する。


 それはパワーアップ系の魔法だったらしく、重そうなパラシュを軽々と操り、ブラッドコングを叩き切った。何だか天音の戦い方に似ているような気がする。


 地上に戻り冒険者ギルドへ行く。報告とヴェルサイユダンジョンの様子を聞くためである。ヴェルサイユダンジョンの四層の海面が下がり始めたという。


「それじゃあ、ヴェルサイユダンジョンへ行って、待機していた方がいいんですね?」

 俺が英語で尋ねると、支部長が頷いた。

「そうです。A級の冒険者なら、是非ゴブリンエンペラーを倒して欲しいです」


 ゴブリンエンペラーは、レッドオーガよりもスピードがあるらしい。しかも、ゴブリンジェネラル二体を召喚できるという。


「ゴブリンエンペラーとゴブリンジェネラルか。厄介そうだな」

 前回は誰がゴブリンエンペラーを倒したか聞くと、A級の魔装魔法使い三人がチームを組んで倒したらしい。しかし、今回は参加しないそうだ。


 俺たちはヴェルサイユダンジョンへ行って、近くにあるホテルに宿泊した。ダークファング狩りの疲れを取りながら、五層への道が開通するのを待つ。


 翌日になって、冒険者ギルドの職員から開通しそうだという連絡を受けたので、ダンジョンへ向かう。大勢の冒険者が集まっていた。


 これらの冒険者は、ゴブリンエンペラーを倒そうと思い集まっている訳ではない。目的はオリハルコンの鉱床なのだ。フランスの冒険者たちがどんどんダンジョンに入って行く。


 俺たちも中に入った。フランシーヌの案内で最短ルートを通って、四層まで行く。途中で大勢の冒険者を追い抜いたようだ。


 四層へ下りたところには、数名の冒険者が完全にトンネルが顔を出すのを待っていた。しばらく待っていると、普段は海面下にある五層への入り口が姿を現した。


 そのトンネルを通って五層へ行くと、広大な森が見えた。この森にはイエローオーガが棲み着いている。他にもハイゴブリンやコボルトも居るらしい。


 他の冒険者たちは、オリハルコンの鉱山目掛けて走り出し居なくなった。

「中ボス部屋があるのは、あの山です」

 フランシーヌが五層で一番大きな山を指差した。

「それなら飛んで行く方が、いいみたいですね」

 亜美が提案した。だが、フランシーヌは反対する。


「飛んで行くのはやめた方が良いです。空にはアリゲーターフライが居ます」

「アリゲーターフライか、フランシーヌの忠告を聞いた方がいいようだ」

 一匹一匹は弱いアリゲーターフライだが、無数に湧いて襲い掛かって来る。そうなると、迎撃に魔力を消費してしまうので、冒険者たちはアリゲーターフライと戦うのを嫌っている。


 俺たちは徒歩で森の中を進み始めた。ハイゴブリンやコボルトと遭遇した時は、エルモアや為五郎が始末し、イエローオーガと遭遇した時は、俺が『ガイディドブリット』で頭をロックオンして、D粒子誘導弾で仕留めた。


「イエローオーガを瞬殺ですか。生活魔法には良い魔法がありますね」

 フランシーヌが溜息を漏らす。


 三匹目のイエローオーガを倒した後、中ボス部屋の前まで辿り着いた。少し疲れているので、休憩してから中に入る事にした。


「グリム先生は、どうしてゴブリンエンペラーを倒そうと思ったのです?」

 フランシーヌが尋ねた。


「ゴブリンエンペラーを倒すと、高性能な鑑定ゴーグルをドロップすると聞いたからだ」

 高位のゴブリンというとマジックバッグなどの収納系魔導装備をドロップすると有名だが、今回の狙いは鑑定ゴーグルである。


 アイテムや魔物やダンジョンに対して鑑定する事ができるらしい。しかも表示される内容は、かなり詳しい情報だという。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る