第471話 予想外の魔物

 驚いているフランシーヌに、アリサが説明した。それを聞いて、フランシーヌが溜息を漏らす。

「羨ましいです」

 アリサが苦笑いする。


 五層の草原を進み中ボス部屋がある岩山まで来た。この岩山には穴が開いており、その穴から中ボス部屋まで行けるらしい。


「中ボスは、どんな魔物なんです?」

 俺はフランシーヌに聞いた。フランシーヌによると、オークジェネラルゾンビだと言う。


「安心してください。まだ復活していませんから」

 俺たちは中ボス部屋に向かった。そして、その部屋の前で立ち止まる。

「復活していないんじゃなかったの?」

 亜美が思わず声を上げる。中ボス部屋の中に、オークジェネラルゾンビがうろうろしている姿が見えたのだ。


「済みません。情報が古かったようです」

「まあ、そういう時もありますよ」

 アリサが慰めるように言う。事前に冒険者ギルドでも調べているのだ。その時には復活したという情報はなかった。


「まあ、復活したのなら仕方ない。また死んでもらおう……いや、この場合は消えてもらおうが正しいのか」

 俺の言葉を聞いたアリサがクスッと笑う。

「相手はゾンビですからね。誰が倒しますか?」

「今回は俺が倒す。俺の武器と相性が良さそうだ」


 俺は光剣クラウ・ソラスを抜いて、中ボス部屋に入った。その後ろからアリサたちも入って来る。オークジェネラルゾンビが剣を構えて俺を睨む。


 光剣クラウ・ソラスに魔力を流し込み、フォトンブレードを形成する。俺は先手必勝とばかりに間合いを詰め、フォトンブレードを振り下ろす。


 二メートルを超えるオークジェネラルゾンビが剣で受け止めた。普通なら受け止めた剣も切断して、魔物を斬っているはずだ。

「こいつも『冥王の武器』を使っているのか?」

『そのようです。気を付けてください』


 以前にも『冥王の武器』を使う魔物と戦った事が有る。よく見ると、剣から黒い陽炎のようなものが立ち昇っているのが見えた。


 オークジェネラルゾンビが腕を伸ばして薙ぎ払うように剣を振る。俺は跳び退いて躱し、五重起動の『サンダーバードプッシュ』を発動し稲妻プレートをオークジェネラルゾンビの胸に叩き込んだ。


 中ボスが後ろに跳ね飛んだが、何事もなかったように起き上がって向かって来る。

「アンデッドは、これだから嫌いだ」

 愚痴を零した後、良いアイデアが浮かんだ。『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを相手の頭を狙って放った直後に、『ガイディドブリット』を発動しD粒子誘導弾を敵の右膝をロックオンして放つ。


 D粒子誘導弾で右膝を狙ったのは、頭だと剣で払おうとする場合が有るからだ。


 オークジェネラルゾンビはD粒子振動ボールに気付いて横に跳んで避けた。その直後に放たれたD粒子誘導弾も横に跳んで躱そうとする。


 D粒子誘導弾は追尾して、オークジェネラルゾンビの右膝に命中し膝部分を粉々にした。次の瞬間、踏み込んだ俺は、フォトンブレードをオークジェネラルゾンビの首に叩き付ける。


 巨体の首が刎ね飛んで頭が宙を舞う。その頭に向かってフォトンブレードの突きを放った。フォトンブレードの切っ先が醜い顔の真ん中にある豚鼻を貫く。その一撃がトドメとなってオークジェネラルゾンビの姿が消えた。


「お見事です」

 フランシーヌが一番に声を上げた。その後、アリサと亜美も称賛する。

「ドロップ品を探してくれ」


 魔石はすぐに見付かり、亜美が宝石を発見する。それをアリサが鑑定すると『キメラクリスタル』と呼ばれる宝石だった。


 結晶の中に青・黄色・ピンクの炎が踊っているように見える宝石で、これくらいの大きさだと億単位の金額になるらしい。


「宝箱を見付けました」

 フランシーヌの声が聞こえ、その方向に目を向けると部屋の隅に宝箱が出現していた。


 エルモアを影から出して宝箱を開けてもらう。開けた瞬間、中から針が飛んだ。それをエルモアが手で払う。床に落ちた針は、毒針だったらしく針の先が黒くなっている。


 俺は毒がエルモアの手に付いたかもしれないので、『パペットウォッシュ』でエルモアを洗った。それから宝箱の中を確かめる。


 中に入っていたのは、ブレスレットだった。鑑定モノクルで調べると『収納ブレスレット』で縦・横・高さのそれぞれが六メートルほどある空間と同じ容量だと分かった。但し、時間遅延機能はないようだ。


「収納ブレスレットだ。また収納系が増えたよ」

 今回のドロップ品は、初めから俺一人が戦うと宣言していたので、宝石と収納ブレスレットは俺のものになる。


 中ボスを倒したからなのか、一仕事終わったかのような気分になったが、目的はダークファングの影魔石なので、これからが本番である。


 六層と七層は大した魔物は居なかったので、最短ルートで通過して目的の八層に到着。八層は山岳エリアだった。険しい山と谷がいくつも存在し、その中にダークファングが潜んでいるという。


 俺たちはダークファング狩りを開始した。エルモアと為五郎にも参加させる。D粒子センサーを全開にして、周囲を探る。その探査範囲は百メートルを超えるだろう。


 これはダンジョンで手に入れた『干渉力鍛練法』に従い鍛錬した事で、探査範囲が広がるという結果になったのである。


 そのD粒子センサーが魔物らしい存在を感知した。

「気を付けろ。魔物が近付いている」

 俺が注意の声を上げると、他の皆が周りを見回す。魔物が二十メートルまで近付いた時、存在が消えた。影に潜ったようだ。


「影に潜った。ダークファングらしい」

 俺は魔物の気配が消えた方向を指差した。為五郎が動き出し木の影に近付く。その瞬間、影から巨大な黒い犬が飛び出してきた。


 口を大きく開けてダークファングが為五郎に襲い掛かった。為五郎は雷鎚『ミョルニル』で大きな顔を殴り付ける。そのパワーは凄まじく、顔が曲がりダークファングの巨体が地面に叩き付けられバウンドする。


 よろよろと起き上がろうとするダークファングに、アリサがクイントコールドショットを発動しD粒子冷却パイルをダークファングの側面から撃ち込んだ。


 命中した瞬間、D粒子冷却パイルの終端がコスモスのように開き、ダークファングの肉体に運動エネルギーの全てを叩き込む。肋骨が折れて命中箇所が陥没し、追加効果である冷却で心臓を凍り付かせた。


 ダークファングが消えて黒い魔石が残った。アリサは嬉しそうに影魔石を拾い上げてから、為五郎の肩を叩いて褒める。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る