第466話 樹海ダンジョンの十六層

 地上に戻った俺は、冒険者ギルドへ行ってネームドドラゴンのジャバウォックを倒した事を報告した。


「本当にジャバウォックを倒したのですか?」

 野崎支部長は、信じられないという顔をする。ジャバウォックはA級冒険者が、チームを組んで戦わないと倒せないと言われている魔物だったからだ。


 俺はジャバウォックの魔石を取り出して、支部長に確認するように促す。分析魔法の才能がある野崎支部長は確認した。


「確かにジャバウォックの魔石です。本当にジャバウォックを倒したのですね」

「俺にはシャドウパペットが居ますからね。一人で倒した訳じゃないです」

「いえ、チームで倒したとしても、これは凄い事です」


 俺は支部長にミカンを数個プレゼントしてから、ホテルに戻るとベッドの上に横になった。

『疲れましたか?』

「戦っていた時間は、短かったんだが、何だか疲れた」

『それだけ緊張して、戦っていたという事でしょう』


「そうかもしれない。ところで、エルモアのボディは、どうするつもりなんだ?」

『空中機動ができるボディにしたいと思っています』

 最初、メティスは素早さを上げる事を考えていたらしい。だが、シャドウパペットの場合はパワーを上げるのは簡単だが、素早さを上げるのは難しいという。


 パワーを大きくすれば、ある程度のスピードを出せるようになるが、『韋駄天の指輪』のように神経伝達速度の増速や思考速度アップなどは無理なので、限界が来るそうだ。


 そこで三橋師範に相談したら、人間でも魔物でも普段慣れていない動きをする相手は、戦い難いと言われたそうだ。


 そこで体操選手の演技にヒントを得て、空中でも自由自在に動ける空中機動ができるボディという発想を得たらしい。


 それを行うには、シャドウパペットの体内に空中で動ける仕掛けを組み込まなければならない。メティスは<ベクトル制御><反発(地)><反発(水)>の特性三つを付与した金属を使って、空中機動を実現するつもりのようだ。


「だけど、<反発(地)>と<反発(水)>の特性は、地面や水面から五メートルほどしか作用を発揮しないぞ」


『普通の魔物と戦う場合は、五メートルで十分だと考えています』

 と言っても、メティスが諦めた訳ではなかった。休みの日などに空間構造の理論をメティスに説明しているのだが、その中に使えそうなものがあると言う。


 俺から聞いた理論の一部で、魔力を空間に注ぎ込んで空間の一部を力場化すれば、足場として使えるようになるというのだ。実際にエルモアが試してみると、何も無い空間に透明な板のようなものが出現した。


 俺も試してみたが、ダメだった。生活魔法使いなら、大気中のD粒子を集めて足場とした方が良さそうだ。


『巨大な魔物に対しては生活魔法を使う事になるでしょう』

 ジャバウォックなどの巨大な魔物と戦う時は、最初から接近戦は無理だと諦めているようだ。メティスに説明してもらったが、どういう風に戦うシャドウパペットになるのか、今ひとつイメージが湧かない。実際に作製して戦う様子を見るしかないのだろう。


 翌日は休養日として休み、その次の日から十六層の探索を開始した。樹海ダンジョンの十六層は、石と白っぽい土が広がる荒野だ。


 荒野を進むと時々強い風が吹き土埃を舞い上げる。

「うえっ、土埃が口に入った」

『魔物です。岩? 違いますね。巨大なダンゴムシが転がって来るようです』


 丸くなったダンゴムシが、荒野を転がって来る。高さが二メートルほどある球体である。斜面でもないのに、何で転がるのか不思議だ。


 エルモアがジャバウォックから入手したゲイボルグを構え、巨大ダンゴムシに狙いを付けると投擲した。エルモアのパワーで投げられたゲイボルグは、簡単に巨大ダンゴムシを貫通すると消えた。


 次の瞬間、エルモアの傍にゲイボルグが現れる。この魔導武器は投擲し敵を貫通すると、瞬間移動して戻って来るようだ。


 今の一撃で巨大ダンゴムシの『ビッグピルバグ』は死んだ。ゲイボルグの攻撃は見た目以上に威力が有るようだ。


『今の攻撃は、全く魔力を注ぎ込まないで投擲したのですが、簡単に貫通しました』

「何か特殊な力が働いているのかもしれない」


 続いてビッグピルバグ三匹と遭遇し、エルモアが二匹、為五郎が一匹を倒す。為五郎は円盾でビッグピルバグの突進を受け止めると、雷鎚『ミョルニル』で叩くという攻撃で仕留めた。ミョルニルから放出された雷撃が、ビッグピルバグの脳を焼いたようだ。


 さらに進むと、デザートウルフと遭遇した。体長が二メートルほどの大型狼である。襲い掛かってきたところを、『クラッシュソード』の空間振動ブレードで切り裂いて仕留める。


 その時、体内でドクンという音が聞こえた。久々に聞く魔法レベルが上がった音だ。

「ジャバウォックを倒した時に上がらなかった魔法レベルが、デザートウルフを倒したら上がったぞ」


『ジャバウォックを倒した時に、上がる寸前まで達していたのでしょう。それでいくつになったのですか?』

「魔法レベル23だ」


 高ランクのA級冒険者の中には、魔法レベルが『30』を超えている者も居るので、まだまだというところである。ただこの魔法レベルでしか習得できない生活魔法となると凄いものになりそうだ。


 岩山の近くへ来た時、トロールと遭遇する。身長四メートルほどの巨人である。

『ゲイボルグの威力を試しても良いですか?』

「構わないけど、どうするんだ?」

『『プロテクシールド』に使うほどの魔力を注ぎ込んでから、投擲します』


 エルモアがゲイボルグを握って魔力を注ぎ込むと、トロール目掛けて投擲した。その瞬間、ゲイボルグの分身が二つ現れ、三角形を形成するような形で飛んでトロールに命中し貫通した。


 トロールの胸に開いた穴は三つ、分身も同じような威力を持つらしい。戻ってきたゲイボルグを持ったエルモアが納得したような顔をしている。


 試してみて確認できたのだが、ゲイボルグに注ぎ込む魔力の量で分身の数が決まるようだ。俺たちが十六層を探索している途中で、樹海ダンジョンの開放期間の終わりが近付いた。


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