第465話 ジャバウォックとの戦い
座席から飛び降り、エルモアも降りたのを確かめた俺は、ホバーキャノンを素早く収納アームレットに仕舞った。そして、光剣クラウ・ソラスを構える。
ジャバウォックが巨大なコウモリのような翼を羽ばたかせる。まさか飛ぶのかと驚いていると、その翼で巻き起こされた風が暴風のように吹き付けた。
「エルモア、影へ」
エルモアは俺の影に飛び込み、俺は『プロテクシールド』を発動する。形成されたD粒子堅牢シールドの陰に飛び込んだ俺は、シールド越しにジャバウォックを睨んだ。
ジャバウォックはすぐに羽ばたくのをやめた。飛ばないようだ。たぶん重すぎるか、ここが狭いからだろう。
エルモアと為五郎を影から出した俺は、『ジェットフレア』を発動しD粒子ジェットシェルを飛ばす。その中に内包するエネルギーが、どれほどか分かっているかのように、口を大きく上げて雷光ブレスで迎撃する。
「……大技は確実に潰される」
為五郎が雷鎚『ミョルニル』を握り締め魔力を流し込む。膨大な魔力を流し込んだせいかなのか、ミョルニルが薄っすらと光を放っている。雷光ブレスを吐いた直後なら、チャンスだと為五郎は思ったようだ。
そのミョルニルを力一杯投げた為五郎は、ちょっとよろっとした。急激に魔力を流し込んだので、一瞬だけ力が抜けたようだ。
投げたミョルニルは矢のように飛びながらD粒子を吸い込み巨大化。長さが二十倍ほどに巨大化したミョルニルは、ジャバウォックの顔に命中し巨大な牙を折った。そして、D粒子を電撃に変換してジャバウォックに放った。
雷が落ちたような雷鳴が轟き、ジャバウォックの頭が弾かれたように揺れた。普通のドラゴンだったら、仕留めてもおかしくない一撃である。
だが、雷光ブレスを吐くジャバウォックと雷撃攻撃は相性が悪かったようだ。それでもふらふらしているので、チャンスだと思い、『デスクレセント』を発動しD粒子ブーメランを飛ばす。
ジャバウォックはミョルニルの攻撃でD粒子ブーメランに気付くのが遅れた。D粒子ブーメランがジャバウォックの脇腹に命中し空間振動波を放射しながら回転して破壊範囲を広げる。
ジャバウォックの脇腹から大量の血が噴き出す。俺たちは駆け寄ってトドメを刺そうとしたが、ジャバウォックの目が光り、口を大きく開けた。
「エルモア、為五郎」
俺の傍に駆け寄るエルモアと為五郎。すぐに『クローズシールド』を発動し遮空シールドを展開する。この魔法は特性の数は少いが、魔力を大量に消耗する。なので、習得できる魔法レベルは『18』である。
遮空シールドが展開されて真っ暗になると、懐中電灯を取り出して点灯する。それから不変ボトルを出して、万能回復薬を飲んだ。
「ふうっ」
ハクロの目を通して外を見ると、遮空シールドの周りが焼けて溶岩のようになっている。シールドを解除した後は、すぐに離れないと蒸し焼きになりそうだ。
ホバービークルを出して皆で乗り込む。ジャバウォックの雷光ブレスがやんだ瞬間、シールドを解除してホバービークルが飛び出した。
ジャバウォックを観察すると、あれだけ噴き出していた血が止まっている。ここで攻撃の手を緩めたら、回復してしまいそうだ。
俺は七重並列起動で『クラッシュボール』を発動し、七個のD粒子振動ボールを一メートル間隔で縦に並べて撃ち出した。それを三回繰り返す。
ツリードラゴンの時にように飽和攻撃を仕掛けたのだ。ジャバウォックは半分ほどを手で払ったり避けたりしたが、残りの半分が命中し空間振動波がジャバウォックの肉体を串刺しにする。
痛みで悲鳴を上げるジャバウォック。だが、その目には無限の戦意があった。こいつは死ぬ時まで戦う意志を捨てないだろう。
俺は光剣クラウ・ソラスを握り締めて、ホバービークルを操縦しているエルモアに合図を送る。エルモアはホバービークルをジャバウォックに近付けた。
ホバービークルの上で為五郎が足を踏ん張り、もう一度ミョルニルを投げた。回転しながら飛翔するミョルニルは脇腹の傷の近くに命中して火花放電を放つ。
ジャバウォックが苦しそうにしているのを見た俺は『フラッシュムーブ』を使って、ジャバウォックの頭と同じ高さまで移動する。空中で魔法が解除されると、光剣クラウ・ソラスに大量の魔力を注ぎ込みながら、太陽のプロミネンスをイメージした。
すると、光剣クラウ・ソラスから、赤く染まった巨大な光の剣が生まれた。それを確認した俺は、落下しながらプロミネンスブレードをジャバウォックに向かって振り下ろす。
巨大な紅炎の刃がジャバウォックの胸に食い込んだ。刃を形成していたエネルギーがジャバウォックの胸に集まり二メートルほどの炎が渦巻く炎熱球となって、高熱でドラゴンの肉体を焼きながら内部に沈んでいく。
ジャバウォックは両手の爪で胸を掻きむしって炎熱球を取り出そうとした。だが、ジャバウォックの魔力を取り込んだ炎熱球は巨大な胸に食い込んで心臓を焼いた。
ジャバウォックの巨体が倒れ、ピクピクと痙攣していたが、それも止まって消える。
凄まじい熱気を感じ離れて見守っていた俺は、ゆっくりと近付いて白い魔石を拾い上げた。
『グリム先生、槍を見付けました』
俺は魔石を仕舞って、槍を受け取った。鑑定モノクルで調べてみると『ゲイボルグ』という魔導武器の槍らしい。週刊冒険者の武器特集で読んだ事が有る。
ケルト神話に出て来る槍で、神話級の魔道武器だ。魔力を込めて投げれば、複数の分身を作って飛翔し、敵を貫き戻って来るらしい。
「ガウッ」
為五郎が叫び声を上げる。何か見付けたようだ。為五郎が発見したのは、戦闘ブーツと呼ばれるものだった。鑑定モノクルで調べてみると『竜鱗ブーツ』と呼ばれる魔導装備だった。竜鱗ブーツは脚力を最大六倍にする装備らしい。
俺には『韋駄天の指輪』と『ヘラクレスの指輪』があるので必要ない。この装備は三橋師範にでもプレゼントした方が良いかもしれない。
ドロップ品はこれだけではなかった。紫金鋼五十キロも手に入れたのだ。剣などの武器は刃が欠けたり傷が付くと切れ味が落ちるので、研ぎに出さなければならない。そうすると、切れ味は元に戻るが、刀身が段々と痩せてきて耐久性に問題が出る。
その点、紫金鋼製の剣などは自動で修復されるので、研ぎに出す必要がなく長持ちする。紫金鋼とは不思議で便利な金属なのだ。
俺たちは地上に戻る事にした。疲れたのである。このまま十六層に進んでも、良い結果にはならないと判断した。
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