第464話 ジャバウォック

 新しい魔法を完成させた俺は、有料練習場で試す事にした。樹海ダンジョンの近くにある有料練習場は、規模が小さかった。


 その中で一番大きな練習場を借りる。

「遮空シールドを展開したら、打ち合わせた手順で攻撃してくれ」

『分かりました。何かあったら、すぐに遮空シールドを解除してください』

 俺はコンクリートブロックの前で、新しい魔法『クローズシールド』を発動し遮空シールドを展開した。予想はしていたが、中は真っ暗である。


 俺は『ライト』で明かりを作ってから、何か起きないか待った。だが、それから何も起きず、二十秒後に解除する。外の景色が見えると、エルモアの姿があった。


「どうだった?」

『まずグリム先生の姿が消えて、遮空シールドの空間が歪んでいるように見えました』


 それから棒で叩いてみたり、『プッシュ』で攻撃したりしてみたが、歪んだ空間を通り過ぎただけらしい。シールドとしての機能は完全だったようだ。


「問題は、中から何も見えないという事だな」

『やっぱり見えませんでしたか?』

「ああ、予想通りだった。次はハクロを試してみよう」


 俺は影から偵察用シャドウパペットのハクロを出した。そして、ハクロのソーサリーアイと自分の意識をシンクロさせる。すると、ハクロが見ている光景が見えるようになる。


 ハクロに少し離れた場所で見ているように命じてから、俺は『クローズシールド』を発動し遮空シールドを展開する。また真っ暗になったが、幸運な事にハクロが見ている光景は、まだ見えていた。


 どういう原理かは分からないが、ハクロとの情報伝達路は空間とは関係なく繋がっているようだ。もしかすると、その情報伝達路は次元が違うのかもしれない。


 エルモアが二メートルほどの棒を遮空シールドに叩き付けた。すると、棒が遮空シールドを通り抜けたように見えた。


 遮空シールドの内部には棒が出現しなかったので、別の空間を通ったようなのだが、それがどんな空間なのかは魔法を創った俺にも分からない。


 たぶん空間構造の知識を研究すれば、分かるようになるかもしれないが、それには時間が掛かりそうだ。


 エルモアにいくつかの魔法を使わせて確かめてみたが、通り過ぎて後方にあるコンクリートブロックを破壊しただけだった。


「ハクロの御蔭で外の様子も分かるようになったし、実戦で使えそうだな」

『ですが、まだ素早く発動する練習が必要です』

 その事は俺も分かっている。シャドウオーガ狩りをしながら、練習しようと思う。


 シャドウオーガ狩りやミカン山でミカン狩りをしながら、遭遇した魔物に『クローズシールド』を試してみた。遮空シールドを破れる魔物は居なかった。


 シャドウオーガの影魔石を九個、ダンジョンのミカンを三箱分手に入れた俺は、何日かぶりに野崎支部長に会って、マフダルが手に入れ損なった転送ゲートキーがどうなったか尋ねた。


「転送ゲートキーは、マフダルが罠を作動させた事を報告した者が手に入れましたよ」

 支部長はそいつの名前は教えてくれなかった。だが、来年はそいつと俺の競争になるだろう。


 俺は二日ほど休養を取ってから、十五層のジャバウォックに挑戦する事にした。エスケープボールも用意する。ジャバウォックの実力は、まだ確かめていないからだ。


 ジャバウォックに挑戦する日、俺は朝早く起きて樹海ダンジョンへ向かった。

 一層の転送ゲートで十五層へ移動し、転送ルームから出て外を確認する。外は濃霧により真っ白な世界となっていた。


「霧が晴れる時間まで、待つしかないな」

 俺は霧が晴れるまで待ってから、中ボス部屋に通じる地下通路があるドーム状の建物まで、戦闘ウィングで飛んだ。


 中に入ると下り坂の長い地下通路があり、その先に中ボス部屋がある。入り口から中を覗いてみたが、そこからだとよく見えない。


「中に入ろう」

 俺はエルモアと為五郎、それにハクロを従えて中ボス部屋に入った。衝撃吸収服のスイッチを入れ、いくつかの指輪を嵌める。そして、光剣クラウ・ソラスを取り出して握り締める。


 入り口付近にある上り坂を進むと、広い空間の全体が見えた。中央に全長三十メートルもあるネームドドラゴンのジャバウォックが横たわっていた。


 ジャバウォックは俺たちの気配に気付いて起き上がる。その巨大さと全身から放たれる強烈な覇気で息苦しくなる。慌ててウォーミングアップを始め、魔力を循環させる事で息苦しさを消す。


 俺たちは散開せずに纏まって戦う事にした。為五郎が『クラッシュボールⅡ』を発動し、高速振動ボールをジャバウォックの胸に向けて放つ。その高速振動ボールを巨大な手が払った。


 弾かれた高速振動ボールの軌道が逸れ、空間振動波を放射した後に消える。空間振動波が少しだけジャバウォックの手に当たり皮を削ったが、すぐに血が止まり傷が塞がり始める。


 ジャバウォックの自己治癒能力が高すぎる。傷を負ったジャバウォックは、俺たちを睨んだ直後に走り出した。あの巨体で走れるのかと驚く。


 巨大な足が地面を蹴るたびに地面が揺れる。ヤバイ、そう思った俺は『ティターンプッシュ』を発動し、ティターンプレートをジャバウォックに叩き付ける。


 ジャバウォックの突進力をティターンプレートが吸収し、その運動エネルギーを逆にジャバウォックへ送り返す。驚く事に巨体が止まり、後ろによろけた。


 ジャバウォックが歯ぎしりしたような音を響かせてから、口を大きく開ける。

「ブレスだ。集まれ」

 エルモアと為五郎が俺の周りに走り寄る。その瞬間、『クローズシールド』を発動し遮空シールドを展開する。次の瞬間、ジャバウォックの雷光ブレスが吐き出された。


 何本もの稲妻を束ねたようなブレスが遮空シールドに叩き付けられる。俺はハクロの目を通して、その様子を見ていた。ハクロは離れた位置で、ジッと戦いを見ていたのだ。


 雷光ブレスが当たった地面が燃え上がり溶岩のように融け始める。俺はホバーキャノンを出して、『プロジェクションバレル』を発動。磁力発生バレルをホバーキャノンに接続した。


 為五郎を影に戻し、エルモアと一緒にホバーキャノンへ乗り込んだ。雷光ブレスが途絶えた瞬間、遮空シールドを解除して、ホバーキャノンを飛ばす。


 ジャバウォックは俺たちが生きていた事が腑に落ちないという顔をしている。俺はジャバウォックに狙いを付けて、砲弾が尽きるまで連射。但し、命中したのは三発だけだった。


 極超音速で飛翔した鉄製の砲弾は、ジャバウォックの体内に食い込み潰れて爆発するように飛散した。ジャバウォックの体表に三つのクレーターのようなものが出来て、ジャバウォックが痛みで咆哮する。その咆哮は、俺の心臓を震わせるような響きと衝撃を持っていた。


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