第442話 タイタンスライム

 羊蹄ダンジョンの一層は、荒野エリアだった。岩と白っぽい土が続く荒涼とした土地には、ファイアワームが棲み着いている。


 ファイアワームは巨大なミミズだが、頑丈な外殻を持っている。その外殻は普通の剣や槍の刃を弾き返すほど強靭である。だが、アリサは瞬時に発動した『コールドショット』で簡単に仕留めた。


「発動が早くなったね」

 俺が指摘すると、アリサが嬉しそうな顔をする。

「寝る時間を惜しんで、練習したんですよ」

 最初の弟子であるアリサたちは、俺に追い付くために懸命に練習したらしい。その結果が、発動の早さに表れたのだ。


 俺は影からエルモアと為五郎を出した。

『一層には空を飛ぶ魔物も、魔法を使う魔物も居ませんから、ホバービークルで行きましょう』

 メティスの提案で、ホバービークルを出す。


 操縦はエルモアに任せ、俺たちは座席に座って前方を注意する。地図は冒険者ギルドで購入したので、道に迷う事はない。エルモアは巧みにホバービークルを操縦して、一層を通過した。


 階段を見付けて二層に下りると、山と川で形成された山岳地帯だった。ここで遭遇する魔物はワイバーンとゴブリン系、それに猪系の魔物である。


 最短ルートで進んでも時間が掛かりそうなので、戦闘ウィングで飛ぶ事にする。

「ワイバーンに襲われそうですけど?」

 アリサが気になった事を確認した。


「まあ、襲われるだろうけど、アリサの実力なら瞬殺できるよ。但し、数が多いようなら地上を行こう」


 エルモアと為五郎は影に戻して、戦闘ウィングで飛び立った。飛び始めてすぐにワイバーンと遭遇する。猛々しいワイバーンは、俺たちを狙って急速に接近してきた。


 アリサがワイバーンの頭を狙って『ガイディドブリット』を発動し、D粒子誘導弾を撃ち出した。D粒子誘導弾はワイバーンを追って飛翔し、その頭に命中。空間振動波が放射されワイバーンの頭を削り取る。


 その一撃が致命傷となってワイバーンが消え、赤魔石<大>が地上に向けて落下。俺は『マジックストーン』を発動して、魔石を回収した。


 アリサでもワイバーンを一撃で倒せる事が分かり、俺たちは先に進んだ。それからも三匹のワイバーンを倒し、階段を目指して進む。


 上空から階段を発見して、近くに着地した。

「ワイバーンを瞬殺できるようになる日が来るとは、思っていませんでした」

「『ガイディドブリット』は威力こそ小さいけど、命中率は百パーセントに近いからな。急所を狙えば、大抵は仕留められる」


 だが、タイタンスライムには通用しないだろう。初めて戦う魔物なので、いろいろと試しながら戦う事になる。


 三層は砂漠エリア、四層は海だった。どちらも戦闘ウィングで飛行して進み、無事に通過した。そして、いよいよ五層に下りると、広大な草原が目に入る。


 その草原は無数のスライムが這い回っているように見えた。大きさが七十センチほどの緑色のゼリーのような魔物である。形は正月の鏡餅のようだ。但し、そんなおめでたいものではなく、獲物に接触すると包み込んで強烈な酸を出して溶かして殺すらしい。


 このスライムを倒すには、そのゼリーのような体内にあるゴルフボール大の白い核を破壊するしかない。かなり面倒な魔物なのである。


「動いているスライムは、表面が波打っているようです。そのせいで体内にある核が発見し難いです」

 アリサが愚痴るように言った。それを聞いて、D粒子センサーを働かせてみた。すると、スライムの体内にD粒子の密度が桁違いに多い箇所がある。これが核だろうか?


 俺は密度の濃い部分を狙ってトリプルブレードを発動する。D粒子で形成された刃が振り下ろされ、スライムを両断した。残念ながら核を外したようだ。D粒子の刃がスライムの表面に衝突した衝撃で、核が動いたようだ。二つに分かれたスライムは、また一つになって動き始める。


 今度はアリサがトリプルコールドショットを発動し、D粒子冷却パイルをスライムに突き刺した。勢いが強すぎて、スライムを貫通して地面に突き刺さり地面を凍らせる。


「三重起動でも、強すぎるのね」

「だったら、多重起動なしでやってみよう」

 俺は多重起動なしの『コールドショット』を発動し、D粒子冷却パイルを放つ。スライムに命中したD粒子冷却パイルは、スライムの内部で追加効果を発揮して、スライムを凍らせる。


 凍りついたスライムを、練習で使っている木剣で叩いた。その衝撃でスライムは粉々になり消えた。残ったのは黄魔石<小>である。


「残念ながら、スライムクリームは無しね?」

「最初からドロップするようなら苦労しないよ」

 それから『コールドショット』を使って、スライムを倒しまくった。この草原には他の冒険者も多数居るようで、あちこちで戦っている声が聞こえる。


 確実に二十匹以上倒した頃、スライムが『スライムクリーム』をドロップした。掌に載るくらいの瓶に入ったものである。その瓶には少し緑を帯びた白いクリームが入っている。

「やっとか。面倒なものだな」

 俺がそう言った時、アリサから睨まれた。


「このくらいで、面倒だと言っているようでは、女心は理解できませんよ」

 女性の美に対する探究心は、凄いパワーが有るようだ。


 それからもスライムを倒し、合計で三個の『スライムクリーム』を手に入れた。

「あれだけスライムを倒したのに、数が減ったように見えないな」

『中ボスのタイタンスライムが、召喚でもしているのでしょうか?』

 俺の言葉を聞いたメティスが疑問を追加した。


 アリサが俺に顔を向ける。

「タイタンスライムを倒しに行く冒険者は、少ないみたいですね?」

「特に魔装魔法使いからは、嫌われているからな」

「どうしてです?」

「タイタンスライムの体は、強烈な酸で出来ているから、武器で攻撃すると酸で武器が傷むそうだ」


「でも、『知識の巻物』をドロップするかもしれないなら、戦う価値が有りそうですけど」

 冒険者の中には知識や情報を重視する者も居るが、それは少数派である。どちらかと言えば、魔導武器や魔法の巻物を手に入れたいと思う冒険者が多数派なのだ。


 スライムの草原を突破した俺たちは、中ボス部屋に辿り着いた。但し、一番乗りではなかったようだ。中ボス部屋の扉が閉まっており、中で誰かが戦っている気配がする。


「急いで来たのに、残念」

 アリサがガッカリした表情を見せる。

「仕方ないさ。冒険者の世界は、早い者勝ちなんだから」

 と言った瞬間、俺たちの目の前に四人の冒険者チームが現れた。全員が咳き込んでいる。タイタンスライムが毒でも吐いたのだろうか?


「おい、大丈夫か?」

 俺が尋ねると四人は地面に座り込んで頷いた。その咳が収まった後、俺たちに目を向ける。


「酷い目に遭った。あんたたちがタイタンスライムと戦うつもりなら、炎系の魔法は使わない方がいいぞ」

「どういう意味です?」

 アリサが尋ねた。

「炎で炙られたスライムの体から、酸が蒸発して部屋に広がったんだ」


 俺は『ジェットフレア』を試してみようかと思っていたんだが、使わない方が良いようだ。失敗した冒険者たちから情報を仕入れて、すぐには入らず時間を置いてから中ボス部屋に入った。


 かなり広い部屋に、幅が十二メートルも有りそうな赤いスライムが居た。タイタンスライムは活発に動いており、俺たちを発見すると這い寄って来る。核が有るはずだが、目では判別できなかった。


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