第441話 勇者の警告

 参加している冒険者の多くが、戦闘用シャドウパペットに興味を持ったようだ。

「具体的に教えて欲しいのだが、そのシャドウパペットはブルーオーガ、いやレッドオーガを倒せるだろうか?」

 ドイツの冒険者が尋ねた。昨日、カニの有名店で俺たちを見ていた男だ。


「装備させる武器にもよりますが、たぶん倒せるでしょう」

 俺の答えを聞いて『おおっ』という声が上がる。

「それが本当だとすれば凄い。だが、レッドオーガのスピードは、魔物の中でも上位に入るだろう。そんな魔物のスピードに対応できるものなのか?」


「エルモアは高速戦闘もできるように改良しており、十分に対応できるだけのスピードを持っています」

 その冒険者は、立ち上がってエルモアの傍まで来た。そして、魔装魔法を使ったとしか思えない速さで、エルモアに向かって拳を突き出す。


 パンという音が会場に響き渡る。その拳がエルモアの手で受け止められていた。俺は不機嫌な顔になった。

「そういう冗談はやめて欲しいですね。私の言葉を嘘だと思ったのですか?」

「すまん、どうしても試してみたかったのだ」


 そのドイツの冒険者は、ライナルト・シュライバー。勇者シュライバーの弟だという。

 会場には疑っていた者も居たらしいが、今のエルモアの動きを見て本当らしいと思ったようだ。


「ところで、そのエルモアというシャドウパペットの武器は、何を使っているのだ?」

「伝説級の魔導武器とだけ、言っておきます」

 また会場がざわついた。シャドウパペットに伝説級の魔導武器を与えるとは、思ってもみなかったのだ。


 日本の報告が終わり、一通り参加国全ての報告が終わると、勇者シュライバーの話になった。勇者シュライバーは、長身で精悍な顔付きの男だった。


「皆さんは、私が魔王バロールを倒して、勇者になった事は、知っていると思う。魔王を倒した者は、ダンジョンから祝福を受けると噂されているが、それは本当だ」


 フランスの代表が声を上げる。

「祝福というのは、どんなものなのです?」

「私の場合は、世界中のダンジョンによって構築された通信網にアクセスできる、というものだった」


 ダンジョンの通信網にアクセスする。それはどんな意味が有るんだ? よく分からないな。アリサに目を向けると、彼女も分からないという顔をしている。慈光寺理事も同様だ。


「世界中のダンジョンは、情報を共有している、という事なのかね?」

 慈光寺理事が質問する。

「その通り、世界中のダンジョンは情報を共有し、何らかの異常が起きた時には、それを世界各地のダンジョンへ伝えるようにしている」


「その通信網にアクセスできるというのは、面白い能力だと思うが、何か問題でも?」

 慈光寺理事がさらに尋ねた。

「私が知った情報の中で、気になるものが有った。二つのダンジョンで、凶悪な宿無しが生まれ、外に出ようとしているというものだ。私は何かの間違いだと思った。だが、カナダの上級ダンジョンで、宿無しがダンジョンの外に出た」


 その言葉が会場に響き渡ると、会場がシーンと静かになる。カナダで地上に出現したホワイトオーガは、七十人の命を奪っている。


 俺は気になった事を尋ねた。

「その宿無しが生まれたのは、どこのダンジョンか分からないのですか?」

「分からない。但し、このままだと近いうちに、凶悪な宿無しが地上に出るだろうと思っている」


 フランス代表が、宿無しというのは、どんな魔物なのか質問する。

「ネームドドラゴンである『ヴァースキ竜王』だ」

 ヴァースキ竜王は仏教の八大竜王の中の一匹である。九頭龍王くずりゅうおうとも呼ばれる事もある九頭竜らしい。


 勇者シュライバーによると正確な時間は分からないが、もうすぐなのでA級などの人材を待機させておくべきだという。そして、ダンジョン内に宿無しのヴァースキ竜王が出現していないか、確かめる方が良いと主張した。


 勇者の話が本当なのか確証がない。どう判断するべきなのだろう? 各国の代表は迷っている様子だ。


 最後にとんでもない問題が公表されて、世界冒険者フォーラムは閉幕した。俺とアリサは北海道に残り観光を楽しむ事にする。


「ヴァースキ竜王の件を、どう思う?」

 五稜郭へ行く途中に、アリサに尋ねた。

「日本のダンジョンは、きちんと管理されているから、宿無しが出現したのなら、発見されると思う。たぶん日本以外のダンジョンかな」


 俺も同意見だった。可能性が有るとすれば封鎖ダンジョンだろうが、調査する事はできない。


 北海道の各地を回って観光し美味しい物を食べた。そんな時、羊蹄ダンジョンの中ボス部屋でタイタンスライムが復活したという情報が入った。


 俺たちは羊蹄ダンジョンへ向かう。俺は『知識の巻物』が欲しい。そして、タイタンスライムを倒すと『知識の巻物』をドロップするかもしれないとなれば、倒しに行くという選択肢しかなかった。


「タイタンスライムというのは、聞いた事がないんですけど、強いの?」

「ん、そうだなあ……レッドオーガやドラゴンほど強くはない。だけど、倒し難い魔物らしい。体内の核を破壊しないと仕留められないそうだ」


 巨大なスライムなので、その核を探し出すのは難しいと聞いている。俺とアリサはタイタンスライムについて話しながら移動した。


 羊蹄ダンジョンへ到着した時には、大勢の冒険者が集まっていた。

「もしかして、遅かったかな」

「誰かに聞いて、確かめましょう」


 アリサは冒険者ギルドの職員らしい人物に、タイタンスライムが仕留められたのか尋ねた。

「いえ、まだです。ここに集まっている冒険者は、タイタンスライムが復活した時に、大量発生するスライムを狩りに来ているんですよ」


 冒険者のほとんどは、タイタンスライムが目当てではないらしい。スライムは『スライムクリーム』をドロップするので、それが欲しくて集まっているようだ。


「私も欲しいです」

 『スライムクリーム』が皮膚のシミを除去する効果があると聞いて、アリサが言った。

「えっ、アリサは必要ないだろう」

「こういうものは、予防が大切なんです。それに母にプレゼントしたいんです」


「そうか。なら、途中でスライムも狩ろう」

 タイタンスライムは五層の中ボス部屋に居る。その五層に大量のスライムが発生しているらしい。俺たちは羊蹄ダンジョンへ入った。


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