第443話 タイタンスライムとの戦い

 俺は『クラッシュボールⅡ』を発動して、高速振動ボールをタイタンスライムに向けて放った。高速振動ボールはタイタンスライムに命中し表面近くで破壊空間を形成する。


 その破壊空間に存在するタイタンスライムの細胞は粉々に砕かれた。液体状になった細胞が流れ落ちそうになっている。クラッシュ系も通用するのか。そう思った次の瞬間、砕かれた部分が何かに引っ張られるかのように元に戻り始める。


「呆れるほどの再生能力だな」

 俺の言葉を聞いて、アリサが首を傾げる。

「再生能力というより、酸を何かの力がスライムという形に押し込めているみたいです」


 その力の源が核なのかもしれない。D粒子センサーで核の位置を確認するとタイタンスライムの中央付近に存在するようだ。


 タイタンスライムが反撃を開始した。俺たちに向かって進んでくると、体の一部を持ち上げて襲い掛かってきた。俺たちは左右に分かれて跳んだ。


 地面に大量の酸が吐き出され、嫌な臭いを放つ。アリサが『コールドショット』を使ってタイタンスライムの外側を凍らせ始めた。ただこの方法だと外側しか凍らせる事ができない。


 二重起動で『コールドショット』を発動すると、タイタンスライムの体を貫通してしまうのだ。

「本当に面倒な魔物だな」

 そう言った俺は、『フライングブレード』を発動して斬剛ブレードを形成すると、タイタンスライムの中に突き入れた。


 斬剛ブレードは酸の体の中を突き進み、スライムの体内を切り刻んだ。D粒子センサーで核の位置を確かめながら、その位置を切り刻む。だが、核を切り刻む事はできなかった。核が必死で逃げているようなのだ。


 強烈な酸のせいで斬剛ブレードが形を留めていられるのは、五秒ほどだった。それを見ていたアリサに、アイデアが閃いた。もう一度斬剛ブレードをタイタンスライムの中に入れ、中央付近で止めてくれというので、指示に従う。


 アリサはトリプルコールドショットを発動させ、斬剛ブレードを目標にD粒子冷却パイルを放った。斬剛ブレードに命中したD粒子冷却パイルは追加効果を発揮して、タイタンスライムの中央付近を凍らせる。残念ながら、核は逃げたようだ。


 俺たちは中央の凍結部分を目掛けて、D粒子冷却パイルを何発も放った。その度に凍結部分が拡大し、核は外側へと逃げ出すしかなくなる。


 今度はセブンスコールドショットを発動させ、D粒子冷却パイルを撃ち込む。さらに中央の凍結部分が拡大する。凍結部分が直径七メートルにまで拡大した時、凍結が核を捉えた。


 核の周囲が凍り付き、核が移動できなくなったのである。俺たちは同時にセブンスコールドショットを発動させ、D粒子冷却パイルを核に向かって撃った。


 D粒子冷却パイルが核を貫きトドメを刺す。あれほどしぶとかったタイタンスライムが消えて、ドロップ品が残った。最初に黒魔石<小>を拾い上げる。


 アリサが巻物を見付けて拾い上げた。

「『知識の巻物』です」

 目当てのものが手に入ったようだ。最後に俺が指輪を見付けて拾い上げた。鑑定モノクルで調べると、『大威徳明王の指輪』と表示される。


 この指輪は素早さを最大五倍にまで上げ、防御力を三倍にする効果があった。俺とアリサは話し合って、『大威徳明王の指輪』をアリサが使い、『知識の巻物』は俺が使う事にした。


 アリサたちに明王シリーズの指輪が集まっている気がするが、これもダンジョン間の通信網が関係しているのだろうか?


 俺たちは地上に戻り、冒険者ギルドへタイタンスライムを倒した事を報告する。支部長がホッとしたような顔になった。


 スライムが増えて『スライムクリーム』というドロップ品が手に入りやすくなる、というメリットもあるが、タイタンスライムの中ボス部屋を通らないと下の階層へ行けないというデメリットもあるので困っていたらしい。


「宿無しが地上に出てきたという情報は、ありませんか?」

 俺が確認すると支部長が首を振った。

「勇者の警告は聞いているが、まだ宿無しが地上に現れたという報告はない」


 勇者の警告は実現していないようだ。俺とアリサは北海道観光を終えてから渋紙市へ戻った。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 渋紙市に戻った俺は、勇者の話にあったヴァースキ竜王について調べ始める。

 ヴァースキ竜王は九個の頭を持ち、それぞれがブレスや魔法を使うらしい。ネームドドラゴンが地上に現れたら、A級やB級の冒険者と協力して倒す事になるだろう。


 宿無しが地上に現れた時の対策を立てようと思ったが、ヴァースキ竜王の情報がほとんどないので対処方法が分からない。


 心の中で不安が渦巻いているようで、『知識の巻物』を使う気にもならない。

『ヴァースキ竜王用の魔法を創るというのは、如何ですか?』

「相手の弱点も分からないんだぞ」

『何か必殺技的なものは、できないものでしょうか?』


 メティスに言われて必殺技を考えてみた。漠然とし過ぎていて考えが纏まらない。

『生活魔法で最強の魔法というと、『デスクレセント』『ジェットフレア』『プロジェクションバレル』『トーピードウ』のどれかだと思うのです。これらの延長線上で必殺技は考えられませんか?』


 それらの魔法の延長線上で必殺技を考えると、規模を大きくするしかない。地上で戦う場合は周りへの影響を考えなければならないので、規模を大きくするのは上手いやり方だとは思えない。


 俺の考えをメティスに伝えると、メティスが別の提案をした。

『では、光剣クラウ・ソラスの本当の力を研究しませんか?』

 メティスと光剣クラウ・ソラスについて話した事があり、その中で光剣クラウ・ソラスの真の力がまだ隠されたままなのではないかという話をした事がある。


 光剣クラウ・ソラスには、剣を軽くする『浮身』と『フォトンブレード』という機能がある。これだけでも神話級と言えるだけの魔導武器なのだが、伝承ではアンデッドでも邪神でもない巨大な魔物を一撃で倒したとある。


 フォトンブレードはアンデッドや邪神に対して大きな威力を発揮するが、普通の魔物に対しては威力が落ちてしまう。それを考慮すると、他にも機能があると思われるのだ。


 俺は鳴神ダンジョンの二層へ行って、光剣クラウ・ソラスの研究を始めた。膨大な魔力を光剣クラウ・ソラスに注ぎ込むと何かが起きそうな気配がするのだが、フォトンブレードが形成されただけだった。


 何か切っ掛けが必要らしい。そろそろ夕方という時間になり、夕日の景色から太陽について連想した時、フォトンブレードが赤く染まり巨大化を始めた。俺は慌てて魔力の注入を止める。


『今のは何ですか?』

 メティスが質問する。

「ただ太陽の事を考えたら、急にフォトンブレードが赤くなったんだ」

『なるほど、鍵は太陽という事ですね』


 その後、いろいろ試してみて、太陽のプロミネンスについてイメージしながら魔力を注入すると、光剣クラウ・ソラスから、赤く染まった巨大な光の剣が生まれる事が分かった。


 これを『プロミネンスブレード』と名付け、威力を試す事にした。


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