第440話 世界冒険者フォーラムのシャドウパペット
フランスと日本でシャドウパペットの産業規模に差が出来たのは、国の政策が影響しているからだろう。フランスはシャドウパペットを産業として育て上げると決めて、生活魔法使いの育成にも力を入れている。
そして、シャドウパペットの研究も進めている。その成果がシャドウパペットの塗料なのだ。フランスのシャドウパペットは、どんどん進化するだろう。
「日本が産業として育てる気がないのなら、仕方ないですよ」
「まあ、そうだけど」
俺の顔を見て、アリサが微笑んだ。
「まずは生活魔法使いの数を増やすのが一番です」
俺がA級になった事で生活魔法使いの数は、着実に増えている。ただ全国にある魔法学院で、生活魔法を教えられる教員が居ないらしい。
まずはジービック魔法学院で優秀な生活魔法使いを育て、その人材が全国に広がっていけば、と思っていた。そして、バタリオンを設立し生活魔法使いが簡単に死なないように鍛える。
時間は掛かるが、ゆっくりと人材を育てようと計画している。
「フランスで、生活魔法使いが増えているという事は、俺にとって嬉しい事だ。だけど、シャドウパペットの技術は、日本が一番だと思っているよ」
アリサが頷いた。
「もちろんです。日本にはエルモアや為五郎が居るんですから」
ふと気付くと、隣のテーブルの冒険者の中で一人だけこちらを見ていた。俺が視線を向けると目を逸らしたので、用が有るという訳ではなかったらしい。
その日はカニを堪能して満足する。翌日、俺とアリサが世界冒険者フォーラムの会場へ行くと、亜美の父親である慈光寺理事が待っていた。
俺への招待状は、慈光寺理事から来たものだったので挨拶する。慈光寺理事がアリサへ目を向けた。
「あなたが、グリム君の婚約者ですか?」
「はい、結城アリサと申します。私も一緒に参加させて頂けるように尽力された、と聞いています。ありがとうございました」
慈光寺理事はアリサの表情や目を見て、納得したように頷いた。
「いや、あなたにはフォーラムに参加する十分な資格がある。あなたの論文を読んでそう思いました。ただグリム君の婚約者だとは、思ってもみませんでしたが」
「今年のフォーラムには、勇者が参加するそうですね?」
俺が確認すると、慈光寺理事が頷いた。
「勇者シュライバーは、もちろん参加する。何か伝えたい事が有るらしい」
「我々にですか?」
「冒険者に、という事だと思う」
「へえー、興味深いですね。アリサもそう思うだろ?」
「ええ、魔王が何か関係しているんでしょうか?」
慈光寺理事にも分からないようだ。会場に入って席に着くと、潮崎理事長の挨拶が始まり退屈極まりない時間を過ごす事になった。
やっと潮崎理事長の挨拶が終わり、各国の代表がダンジョンや冒険者に関する報告を始める。その中で面白かったのが、オランダが報告した『ピックポケットゴースト』という魔物だった。
この魔物は冒険者の持ち物を奪って逃げるという最低の魔物らしい。冒険者が身に付けている貴重な魔導装備を盗まれて、追い掛け回す事になったという。
各国の代表から多くの質問が発せられた。それらは全て英語である。フォーラムでの報告や発言は、英語で行う事が多いのだ。
フランスからはダンジョンの情報を報告した後に、最新のシャドウパペットについての報告があった。フランスではダークユニコーンと呼ばれるシャドウ種の魔物が発見され、そのシャドウパペットが作れるようになったらしい。
フランス代表が、影から純白の小さなユニコーンを出す。それは芸術品のように美しく可愛い馬だった。会場がざわっとする。
「可愛い」
アリサが呟いた。会場に居る人々の間からも聞こえ、アリサと同じような感想を持つ人たちが多かったようだ。
フランスは小さなユニコーンのような作品を次々に出して、シャドウパペット産業を拡大するつもりのようだ。
日本の順番が来て、慈光寺理事の報告が始まった。鳴神ダンジョンでの邪神チィトカア討伐、ネームドドラゴンの『ファフニール』を高瀬が倒した事も報告される。
封鎖ダンジョンについては報告しないようだ。
邪神チィトカアについて質問があり、慈光寺理事から振られて、俺が答える事もあった。俺が招待されたのは、質問に答えさせるためだったようだ。
フランス代表から日本のシャドウパペットについての質問があった。その技術がどこまで進んでいるのか報告してくれというのだ。
「グリム君、シャドウパペットについては、君の方が詳しいはずだ。代わりに回答してくれないか」
シャドウパペットについて、多くの情報を持っているのは、俺なので仕方ないのだろう。
「日本のダンジョンでは、シャドウ種として、ダークリザードマン・リントヴルムなどが新しく発見されています」
シャドウオーガに関しては、秘密となっている封鎖ダンジョンで発見したものなので省いた。
俺の報告を聞いたフランス代表が、
「それらの影魔石から、実際に作られたシャドウパペットは有るのですか? 有るのなら見せて欲しい」
それを聞いて、俺は頷いた。
まず飛龍型シャドウパペットのハクロを影から出した。真っ白なハクロが影から出て来て、俺の肩に乗ると会場がざわついた。ハクロが飛んだ事に気付いたのだ。
「そのシャドウパペットは、飛べるのかね?」
フランス代表が質問する。俺は頷いてハクロに会場を周回して戻って来るように命じた。ハクロは肩から飛び立ち、羽ばたきながら飛んで一周すると肩に着地する。
「本当に飛んだ」
「あれも可愛いじゃないか」
会場から声が上がった。自分が称賛されていると感じたハクロは、嬉しそうに俺の頬に頭を擦り寄せ甘える。
「それはリントヴルムの影魔石を使ったものだね?」
「そうです。次はダークリザードマンの影魔石を使ったシャドウパペットになります」
俺はエルモアを影から出すようにメティスに合図する。
影から大柄なエルモアが出て来ると、その大きさに驚いたような声が聞こえた。エルモアが優雅に頭を下げてから挨拶する。
「初めまして、エルモアと申します。どうかお見知りおきください」
その言葉を聞いた参加者が、またざわっと騒がしくなる。ただシャドウパペットに詳しい者は驚いていない。シャドウパペットが言葉を喋れる事は知られていたからだ。
「そのシャドウパペットは、明らかに愛玩用ではないが、もしかしてダンジョンでの戦闘用なのかね?」
フランス代表が質問を続ける。
「上級ダンジョンで戦えるほどの戦闘力を持っています」
それを聞いた冒険者たちが、目を輝かせた。
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