第439話 世界冒険者フォーラム

 模範試合の御蔭でナンクル流空手の評判が高くなれば良いのだが、と思いながら試合会場を離れた。出口のところで大槻師範と三橋師範が話している。


「中々素晴らしい弟子を、お持ちですな。あなたの指導が素晴らしいのでしょう」

 そう言われた三橋師範は、苦笑いする。


「私の教えが素晴らしいのではなく、弟子の努力が素晴らしいのです。あの韮崎という選手も良かった」


「……武術の技量では、あなたの弟子の方が上だった。だが、夢断流格闘術を韮崎で判断してもらっては、困りますぞ。疑うのなら、私が手合わせの相手をして証明してみせる」


「理解しておりますから、そんな必要はないですぞ」

 二人が俺に気付いて『お疲れ様』と声を上げる。

「師範、帰りましょう」

「そうだな。では、失礼します」

 俺と三橋師範は、大和武道館を出た。地下鉄の駅へ向かう途中、三橋師範と話を始める。


「夢断流格闘術は、どうであった?」

 三橋師範が質問した。

「そうですね、技が多彩なのには驚きました。それにフェイントが凄い」

「フェイントか、ナンクル流がというより、私がフェイントをあまり使わんからな」


 三橋師範は技の予備動作と言うべき起こりをなくし、相手が気付いた時には技が当たっているという事を目指している。なので、フェイントはあまり重視していない。


「そう言えば、三橋師範と大槻師範が手合わせをした場合、どちらが勝つでしょう?」

「さあ、ルールによるだろう。あの大会ルールだと私が不利になるし、何でも有りなら、私が勝つだろう」


「おっ、勝つと言い切りましたね。理由は何です?」

「私が金的蹴りを得意としているからだ。『コツカケ』を習得していない限り、私が有利だ」


「初めて聞きました。師範の得意技は金的蹴りだったんですか。それに『コツカケ』というのは、何です?」

 三橋師範の説明によると、男性の股間に有る弱点となるものを体内に取り込んで守る技術らしい。


「本当に、そんな技術が有るんですか?」

「有る。実際にできる武術家に会った事もある」

 三橋師範から面白い話をいくつも聞きながら渋紙市へ戻った。


 武術大会から戻った翌日、俺とアリサ、メティスは作業部屋で話をしていた。

「そう言えば、バタリオンに加わりたいという冒険者が増えたそうですね?」


 アリサの質問に俺は苦笑した。増えたのだが、中々C級になれなくて悩んでいる連中が入りたいと申し込んで来たのだ。そういう連中は生活魔法を学びたいというのではなく、C級になりたいだけのようなので断っている。


 それらを除いて、数人の生活魔法使いがバタリオン加入を申し込んで来たので、人物を確認してから加入を認めるつもりだ。


『カリナ先生たちへ、何かプレゼントしないのですか?』

 カリナと鉄心には色々と世話になったので、特別にプレゼントをしなければと考えていたのだ。ちなみに、祝賀会は終わっている。


「そうだな。鉄心さんとカリナ先生は、ドロップした武器を手に入れたようだから、贈るとしたら武器以外か。何がいいかな?」


「ダンジョンで使えるようなシャドウパペットは、どうかな」

 アリサがシャドウパペットを提案した。できるなら、為五郎のようなワーベア型が良いと言う。


 俺は猫型・熊型・飛竜型・ワーベア型・カッパ型・人型(尻尾あり)のシャドウパペットを所有している。その中で人気が有るのが、ワーベア型の為五郎なのだ。


 盾を持たせた為五郎が前衛で戦えると分かり、人気が出ている。生活魔法使いは基本的に中衛か後衛なので、前衛をしてくれる為五郎のような存在が欲しいらしい。


 為五郎と同じものをプレゼントするというのは無理なので、九十キロのシャドウクレイを使って、ワーベア型を作るという話に進んだ。


「ソーサリー三点セットは、私たちが用意します」

 アリサたちがソーサリーアイなどは用意するという。カリナ先生と鉄心には世話になっているからだろう。鉄心は、アリサたちの相談に乗ったりしていたらしい。


「なら、白輝鋼製の円盾を付けるか」

『それでは、私がマジックポーチを提供します』

 メティスが制御するエルモアは、絶海槍を試すためにゴブリンの町を襲撃している。それで何個かのマジックポーチを所有しているのだ。


 俺たちは鉄心とカリナのためにワーベア型シャドウパペットを作製し、二人にプレゼントした。もちろん、二人は大喜びである。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 日本で開かれる世界冒険者フォーラムに参加するために、俺とアリサは北海道へ向かった。札幌に到着した俺たちは、ホテルにチェックインしてからカニ料理の有名店へ行って食事をする。


「タラバガニ、うまっ」

 俺が思わず声を上げた。その声を聞いたアリサが笑う。

「でも、本当に美味しい」


 俺は店の中を見回して、外国人が多いのに気付いた。もしかしたら、世界冒険者フォーラムに参加する人たちなのかもしれない。


 その中に英語で会話している冒険者らしいグループがあった。隣のテーブルだったので、話が聞こえる。


「明日は、勇者シュライバーと会えるな」

「魔王バロールを倒した勇者か、どれほど強いのかな?」

「攻撃魔法使いなのに、神話級の魔導武器『カラドボルグ』を使うらしいぞ」


 それを聞いて、俺の戦闘スタイルに近いのかもしれないと思った。

「ところで、日本はシャドウパペット発祥の地だと聞いたんだが、あまりシャドウパペットを見掛けないな」


 その冒険者はフランス人らしい。

「産業の規模としては、フランスが一番なんじゃないか」

 それを聞いた俺とアリサは顔を見合わせる。俺にとっては、胸にグサッと来る言葉だ。


「シャドウパペットの新しい塗料が開発されたらしいな」

 話は完全にシャドウパペットへ変わっている。

「ああ、早速シャドウパペットを作り変えて、新しい塗料を使ってみた」


 そのフランス人が影から、白・黒・茶色を使った豹型シャドウパペットを出した。大きさは六十センチほどである。豹柄の模様になっており、シャドウパペットとは思えないほどの見事な作品だった。


 その豹型シャドウパペットを見たアリサが声を上げた。

「新しい塗料は、売れているみたいね」

「そうらしい。だけど、日本ではなくフランスだというのが、寂しいな。日本でもシャドウパペットを流行らせる事はできないのかな」


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