第436話 ファイアドレイク狩り

「知っているか?」

 冒険者ギルドの待合室で、若い冒険者たちが話をしていた。

「何の事だ?」

「生活魔法使いのタイチたちが、ファイアドレイク狩りに行ったんだそうだ」


「ファイアドレイク……まさか、C級になろうという事か?」

「たぶんそうだろう。ファイアドレイクを倒すとC級への昇級試験を受けられるそうだからな」


「勇気が有るな。ファイアドレイク狩りに失敗して死んだ者も、多いんだろう?」

「ああ、ファイアドレイクの強さは、ドラゴンには及ばないが、それに近いというからな」


「タイチめ、知らない仲じゃないんだから、おれも誘ってくれたらいいのに」

 そう言った若い冒険者へ友人が冷たい視線を向ける。

「何だよ?」

「ファイアドレイクを倒しただけじゃ、C級にはなれないんだぞ。昇級試験ではソロでブルーオーガを倒さなきゃならないんだ。倒せるのか?」


「お、おれだって必死になれば……」

「やめとけ、死ぬぞ」


 というように、渋紙市の冒険者ギルドでは、ファイアドレイク狩りに行ったタイチたちが話題になっていた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 タイチと亜美は、戦闘ウィングに乗ってファイアドレイクを追い掛けていた。宙返りしたファイアドレイクが二人の背後に回り込み、二人に向かって火炎ブレスを吐き出す。


 二人は『マグネティックバリア』を発動しており、火炎ブレスに対して磁気バリアを展開して防ぐ。火炎ブレスが途切れた瞬間、タイチが後方にD粒子振動ボールを放った。


 ファイアドレイクはD粒子振動ボールを避けた。

「やっぱり『クラッシュボール』のスピードだと、避けられるんだな」

 タイチは渋い顔をして、ファイアドレイクを睨んだ。


「二手に分かれるぞ」

 タイチと亜美は、左と右に分かれて旋回する。ファイアドレイクはタイチを追ってきた。また火炎ブレスを吐き出してタイチを攻撃する。


 タイチはもう一度磁気バリアで防いだが、D粒子磁気コアが小さくなり三回目を防ぎきれそうにない。その時、ファイアドレイクの背後から、亜美が『サンダーソード』を発動する。


 D粒子サンダーソードがファイアドレイクに稲妻となって襲い掛かった。その一撃でファイアドレイクはきりもみしながら落下を始める。


 地面までもう少しというところで、ファイアドレイクが立て直そうとしたが、残念ながら失敗して地面をゴロゴロと転がり苦痛の叫び声を上げる。


 そのファイアドレイクに、待機していた鉄心・カリナ・シュンの三人が襲い掛かった。シュンが『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールをファイアドレイクの背中に叩き付け、鉄心が『ジェットブリット』を発動しD粒子ジェット弾を放つ。


 空間振動波がファイアドレイクの背中に穴を開け、D粒子ジェット弾が命中した瞬間、圧縮空気が超高熱でプラズマ化してファイアドレイクを焼く。


 相手がファイアドレイクだからなのか、プラズマの威力は限定的だった。ファイアドレイクは立ち上がり飛び立とうとする。


 その時、カリナが神剣ミミングを振り上げて、ファイアドレイクの右足を薙ぎ払う。頑丈なはずのファイアドレイクの足がスパッと切断された。


 その後は五人全員での攻撃が始まった。袋叩きにされたファイアドレイクは、シュンの『サンダーバードプッシュ』でトドメを刺された。電気ショックで心臓が止まったらしい。


「やったー!」

 亜美が大声を上げて飛び跳ねて喜ぶ。シュンは片手を天に突き上げ喜んでいた。カリナと鉄心は、呆然とした感じでファイアドレイクが消えた辺りを見詰めている。


「ドロップ品を探しましょう」

 我に返ったカリナが声を上げ、シャドウパペットを影から出してドロップ品を探すように命じた。それを見た亜美もシャドウパペットを出して探させる。


「いいな。僕もシャドウパペットの作り方を、グリム先生に教えてもらおうかな」

 シュンが声を上げた。それを聞いた亜美が、

「シャドウパペットの作り方なら、私が教えてあげるのに」

 その言葉を聞いたシュンが頼んだ。


 ファイアドレイクの魔石以外のドロップ品で、最初に見付けたのはファイアドレイクの牙だった。これはファイアドレイクを倒した証拠になるので、鉄心が収納バッグに仕舞う。


 次に発見されたのが槍だ。そして、ペンダントと指輪が発見される。

「このペンダントと指輪は、何だろう?」

 タイチが二つのドロップ品を見ながら疑問を口する。それを聞いた鉄心も首を捻る。

「残念ながら、おれたちの中には、分析魔法を使える者は居ないから、分からんな」


 仕方ないので、地上に戻って冒険者ギルドで調べてもらう事にした。途中で一泊してから地上に戻ったタイチたちは冒険者ギルドへ向かう。


 待合室で時間を潰していた冒険者たちが、タイチたちを見てザワッとした空気が広がる。姉であるカリナの顔を見た受付カウンターのマリアは、支部長に電話した。

「お疲れ様です。支部長室へ行ってください」


 タイチたちは階段を上がって支部長室へ行く。中に入ると近藤支部長が待っていた。

「その様子だと、ファイアドレイク狩りは成功したようだな」

「はい、無事に倒しました」


 タイチの声と同時に、鉄心がファイアドレイクの牙を取り出して見せた。

 支部長は受付に居る加藤を呼ぶ。『アイテム・アナライズ』で確認するためである。呼ばれた加藤がファイアドレイクの牙を確認した。


「間違いありません。ファイアドレイクの牙です」

「そうか、素晴らしい」

 タイチたちは、ついでに槍とペンダント、それに指輪を調べてもらう。


「この槍は『神槍ゲイアッサル』です」

 鉄心がゲイアッサルを手に取って、熱心にチェックを始めた。

「ゲイアッサルというと、ケルト神話のルグ神の槍か。そうなると伝説級かな」


 加藤はペンダントと指輪も調べた。その結果、収納ペンダントと『ミノタウロスの指輪』だと分かる。収納ペンダントは縦・横・高さがそれぞれ六メートルの空間と同じ容量だという。


 『ミノタウロスの指輪』は、天音が持つ『不動明王の指輪』と同じで筋力を強化する指輪らしい。その効果は最大五倍となる。


 タイチたちは話し合って、ドロップ品を分配した。神剣ミミングはカリナ、『軽身の指輪』はシュン、『ミノタウロスの指輪』は亜美、神槍ゲイアッサルは鉄心、収納ペンダントはタイチと決まった。


 『軽身の指輪』は、魔装魔法が使えるシュンが使った方が良いだろうという話になった。亜美の武器は戦棍なので、『ミノタウロスの指輪』が良いだろうと決まる。


 その後、ブルーオーガと戦うために、グリムから高速戦闘の基本を教わった五人は、昇級試験を受けて無事にC級冒険者になった。


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