第435話 ブロンズマンモス戦
下から投げ上げるように放ったD粒子振動ボールが、ブロンズマンモスの胴体に命中して十二メートルの空間振動波を放射し、ブロンズマンモスの体を貫いた。
その空間振動波が眉間の奥にあるコアを貫けば、一撃で終わりである。だが、そう上手くいくはずもなく。怒ったブロンズマンモスが長い牙を振り回して、カリナと鉄心の二人を撥ね飛ばそうとする。
二人は大きく後ろに跳んで長い牙による攻撃を躱す。カリナは魔装魔法によって素早さを上げているので、余裕で躱している。ただグリムのように素早さのアップに合わせて、魔法の連射速度を上げるという事はできなかった。
魔力の展開とD粒子の収集に時間が掛かってしまうのだ。これらの時間を短縮するためには、膨大な練習と高度な魔力制御が必要になる。
それを軽々とやってしまうグリムを普通じゃない、とカリナは思った。
「あいつの後ろ足を潰します」
ブロンズマンモスの後ろに回ったタイチが、声を上げる。ブロンズマンモスはカリナと鉄心を追い掛けているので、後ろに居るタイチはノーマークのようだ。
『クラッシュボールⅡ』を発動すると、高速振動ボールを下から斜め上に投げ上げるような軌道で、高さ四メートルほどの位置にあるブロンズマンモスの尻に向かって放った。足元を狙わないのは同士討ちになるのを避けるためだ。
高速振動ボールは尻の右側に命中し、周囲に直径三メートルの破壊空間を形成する。空間振動波で形成された破壊空間は、ブロンズマンモスの尻に大きなクレーターを作った。
ブロンズマンモスの右側後ろ足の関節部分が破壊され、その足元には粉々に砕かれた金属の粉が山となる。壊れた足を引き摺るブロンズマンモスが叫び声を上げた。
その叫び声が響き渡ると、地面に小さな山を作っていた金属の粉が、空中に舞い上がり欠損した部分に吸い込まれ再生される。ブロンズマンモスは『再生』という能力を持っていて、その体に一定以上の欠損が生じた時に発動が開始されるらしい。
ブロンズマンモスが眉間の奥にあるコアを壊さないと倒せないと言われているのは、この『再生』という能力を持っているからである。ちなみに、グリムが戦った時は、『再生』を使う前に倒している。
「面倒な魔物だな」
鉄心が吐き捨てるように言った。カリナが苦笑し朱鋼製の剣をブロンズマンモスの足に叩き付けた。大きな傷を付けるが、足が動かなくなるほど深い傷ではない。
シュンと亜美は先ほどから何度も『クラッシュボール』を発動し、ブロンズマンモスを穴だらけにしているのだが、『再生』により無かった事にされた。それでも空間振動波がコアを貫くかもしれないと信じて、D粒子振動ボールを放ち続ける。
ブロンズマンモスが、亜美に向かって突進する。亜美は七重起動の『サンダーバードプッシュ』を発動し、稲妻プレートをブロンズマンモスの鼻の付け根に叩き付ける。
盛大な火花放電が発生したが、この魔物は電気には強いようだ。ただ一瞬だけブロンズマンモスの動きが止まった。それをタイチは見逃さず、亜美はその一瞬を利用して逃げた。
タイチはブロンズマンモスの『再生』があまりにも強力だったので、作戦を変える事にした。
「皆、『サンダーバードプッシュ』の一斉攻撃で、ブロンズマンモスの動きを止めてくれ」
鉄心がタイチに視線を向けて、声を張り上げた。
「一斉に『サンダーバードプッシュ』を放つぞ。3……2……1」
タイチを除く四人が一斉に七重起動の『サンダーバードプッシュ』を発動し稲妻プレートをブロンズマンモスに向かって叩き込んだ。
凄まじい火花放電が発生し、ブロンズマンモスの動きが止まる。その瞬間、タイチは『カタパルト』で身体を真上に投げ上げる。
十メートルほどの上空で魔法が解除され、タイチはブロンズマンモスを見下ろした。動かない今なら、高速振動ボールを放てば命中確実だろう。
『クラッシュボールⅡ』を発動すると、高速振動ボールを巨大な頭に叩き付けた。命中した高速振動ボールは、空間振動波による破壊空間を形成し、頭に大きな穴を開けた。それがトドメとなってブロンズマンモスが消え、何かをドロップする。
ブロンズマンモスが消えた瞬間、亜美の身体の中でドクンという音が聞こえた。魔法レベルが上がったのである。
『エアバッグ』で着地したタイチに、近藤支部長が近付いた。
「よくやった。皆も見事だった」
全員がタイチのところに集まる。カリナがブロンズマンモスが消えた辺りに目を向けた。
「ドロップ品を確認しましょう」
グリムがブロンズマンモスを倒した時は、ハイメタルリキッドを手に入れた。だが、こいつは宿無しである。ドロップ品は期待できると皆は考えていた。
ブロンズマンモスのドロップ品は、魔石を除いて三つだった。最初のものは剣である。
「私が調べよう」
近藤支部長が前に出た。支部長の手にはグリムのものに似た鑑定モノクルがあった。ギルドの備品らしい。
支部長が鑑定モノクルを目に装着して、剣を調べる。
「この剣は、北欧神話に出て来る英雄ホテルスが使っていた神剣ミミングらしい。伝説級の魔導武器だな。五大ドラゴンでも斬り裂けるだろう」
二つ目のドロップ品は指輪である。これも支部長に鑑定してもらうと『軽身の指輪』だった。この指輪に魔力を流し込むと、体重を十分の一にするようだ。
最後のドロップ品は、袋に入った宝石。換金すれば二億円ほどになるだろう。
「ドロップ品は、どう分ける?」
鉄心が皆に質問した。亜美が皆を見回す。
「ドロップ品の分配は、ファイアドレイク討伐まで保留にするというのはどうです?」
「ファイアドレイクのドロップ品も、合わせて考えるという事ね」
亜美の提案にカリナが同意する。他のメンバーも同意し、宝石だけを換金して分配する事になった。保留と言っても使わないのは勿体ないので、当座の間、神剣ミミングはカリナが使う事になり、『軽身の指輪』は亜美が使う事になる。
地上に戻ったタイチたちは、亜美が魔法レベル14で習得できる生活魔法を覚えるまで待って、グリムに特訓をお願いした。
ファイアドレイクを倒すために鍛えてもらう事にしたのである。グリムから様々な教えを受けたタイチたちは、C級になるのに相応しい実力を身に付けた。
グリムが試しに『鋼心の技』を教えると、全員が習得した。タイチたちはC級に相応しい魔力制御を身に付けているようだ。
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