第434話 タイチたちの呼び出し

 渋紙市に戻った俺は、影からシャドウパペットを出してエルモアと一緒に作業部屋へ行った。

『聖パルミロは、納得したのでしょうか?』

「いきなりどうしたんだ?」

『あの人が本当に諦めたのか、疑問に思ったのです』


「そう言えば、俺がソーマを作っていないと言った時に見せた表情は、納得しているという感じじゃなかった」


『もしかすると、まだ調査を続けるかもしれません』

「霊薬ソーマを作った事を知っているのは、俺とアリサたちだけだ。用心のために『鋼心の技』を教えておく必要が有るな」

「それが賢明でしょう」


 その翌日、俺はアリサたちをグリーン館に呼んだ。

「急に呼び出すなんて、どうかしたんですか?」

 アリサが尋ねた。俺は四人と一緒に作業部屋へ行って、昨日の出来事を話す。


「本当ですか? 聖パルミロは、本物の聖人だと言われているんですよ」

 天音はショックを受けたようだ。由香里が俺に視線を向ける。

「聖パルミロは偽物の聖人なのか、それとも深い事情があって、仕方なく精神攻撃のようなスキルを使ったのか、それが問題ですね」


 由香里は現代医療では治せない病気を治している聖パルミロを、尊敬していたらしい。

「何かの事情が有ったにしても、他人に対して精神攻撃を仕掛けただけで、敵対行為だと思います」

 千佳がバッサリと切って捨てた。アリサも同意する。

「その通りよ。事情が有るのなら、ちゃんと説明して情報を得るべきです」


 俺は四人を見回した。

「そこで四人には、『鋼心の技』を習得して欲しい」

 四人はすぐに承諾した。ただ千佳が暗い表情をしている。

「どうした?」

「うちの家族や、病院の先生だと隠し通せないと思って……」


「それは仕方ない。だが、ご両親も俺たちが霊薬ソーマを作ったとは、知らない。邪神チィトカアを倒した後に手に入れたと言えば、納得するんじゃないか?」


 千佳が首を傾げた。それを見たアリサが笑う。

「嘘は言っていないでしょ。ただそう言えば、邪神チィトカアのドロップ品だと勝手に勘違いするはずよ」


「ああ、そう言う事ね」

 天音が何か思い出したような顔をする。

「一緒に暮らしている根津さんにも、『鋼心の技』を教えた方がいいんじゃないですか」


 天音の提案を聞いて、俺も『そうだな』と思った。それでアリサたちと一緒に根津にも『鋼心の技』を教えたのだが、根津だけが習得できなかった。


 根津の魔力制御の技量が、『鋼心の技』を習得できるレベルに達していなかったのだ。だが、アリサたち四人は問題なく習得できた。もしかすると『鋼心の技』は、C級以上の実力がないと習得できないのかもしれない。


 その翌々日に聖パルミロが、ヴァチカンに戻ったという情報を聞いた。聖人となれば、何かと忙しいのだろう。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 冒険者ギルドの近藤支部長が書類処理をしていると、職員の一人が慌てたように入ってきた。

「た、大変です」

「何を慌てている?」

「水月ダンジョンの十層に宿無しが出ました」


 それを聞いた支部長は渋い顔になる。

「それで宿無しというのは、どんな魔物なのだ?」

「ブロンズマンモスです。超重量級の化け物ですよ」


「まずいな。D級冒険者の中で、倒せる者が居るだろうか?」

 中級ダンジョンで発生した宿無しは、なるべくD級以下の冒険者を集めて倒すというのが、冒険者ギルドの方針だ。


 但し、D級冒険者では、どうにもならない強い魔物だった場合は、C級やB級に頼む場合もある。上級の鳴神ダンジョンが発生する前だったら、C級やB級の人数が少なかったが、今なら十分な数が居るので誰に頼むか困る事はない。、


「そう言えば、ファイアドレイクを狙っている者たちが、居たような」

「ああ、グリム君の弟子たちだな。そうか、彼らなら倒せるかもしれない」

 ファイアドレイクは、ブロンズマンモスより格上の魔物である。それを狙っているのなら、ブロンズマンモスを倒せるのではないか、と職員は言う。


 支部長はタイチ・鉄心・カリナ・亜美・シュンの五人を呼び出した。

「呼び出したりして、どうしたんですか?」

 タイチが支部長に尋ねた。

「水月ダンジョンの十層に宿無しが出た。君たちで倒せないかと思って、呼び出したのだ」


 支部長がブロンズマンモスの事を説明する。

「こいつを倒すには、眉間の奥にあるコアを壊すしかない。そして、防御力が高い魔物なので、半端な魔法は通用しないだろう」


 説明が終わった後、支部長が倒せるか尋ねた。

「これだけの人数が居れば、倒せるだろうけど。何でグリム先生の弟子ばかり集めたんです?」

 鉄心が尋ねた。

「以前は、無差別に実力のある冒険者を集めていたのだが、やはり連携が上手くいかないようだ。そこでチームや顔見知りの冒険者を集めようと考えたのだ」


「なるほど、ブロンズマンモスほどのデカブツを倒すとなると、『ジェットブリット』『クラッシュボール』『ブローアップグレイブ』『バーストショットガン』『クラッシュボールⅡ』が有効だな」


 タイチが魔法レベル14、亜美が『13』、カリナが『10』、シュンが『10』、鉄心『10』なので、『バーストショットガン』と『クラッシュボールⅡ』を使えるのは、タイチだけになる。


 ただ『クラッシュボール』を多数命中させれば、仕留められるだろうと鉄心は考えた。タイチたちは話し合い、ブロンズマンモス討伐を引き受ける事にした。


 報酬はギルドの規定に沿って払われる。金額自体は大したものではないが、倒せる実力を持つ者は実績になるので断る者は居ない。


 カリナはタイチに近付き話し掛けた。

「ブロンズマンモスを、倒せそう?」

「『クラッシュボールⅡ』を頭に命中させられれば、倒せると思います。ただ命中させるには、近くで魔法を発動する必要が有るかもしれません」


「そうすると、私たちが囮になって、ブロンズマンモスの注意を引き付ける事が重要ね」

 五人は打ち合わせをして、水月ダンジョンの十層に向かった。一緒に近藤支部長も同行する。一気に十層まで下りたタイチたちは、ブロンズマンモスを探し出し、皆で包囲する。


 魔装魔法使いの鉄心とカリナが、強化の魔法を自分自身に掛けて前に出る。素早い動きで前方に躍り出た二人は、連続で『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールをブロンズマンモスの胴体に向けて放つ。


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