第414話 見直される封鎖ダンジョン

 アリサが『スターピクチャー』の魔法を応用できないかと提案した。『スターピクチャー』は光の点で空中に絵を描く魔法である。


 千佳が由香里に顔を向ける。

「その『ボディスキャン』を発動した時に残る画像というのは、どんなものなの?」

「本当に身体の内部を輪切りにしたような画像なの。それが何枚も見えるのよ」


 実際に見てみないと分からないと考えた。そこで由香里に『ボディスキャン』の魔法を魔導吸蔵合金に保存してもらい、それぞれが試してみる事にした。


 俺は根津を呼んで『ボディスキャン』を発動する。魔力が根津の身体を包み込むと、俺の頭の中に画像が浮かび上がる。胴体を輪切りにしたような画像だ。ただ俺には病気なのかどうかは分からない。


 アリサたちも体験して画像を見た。その画像を基にアイデアを出し合い、俺は二つの魔法を作った。一つは見ている景色を画像情報化して、魔導空間に保管する魔法。この魔法により魔導空間に保管された情報は、一日経たないと消えないようにする。


 もう一つは魔導空間に保管してある情報化された画像を空中に映し出す魔法である。これは『スターピクチャー』を応用した魔法になる。その画像の大きさはA4用紙ほどで高精度のものだ。


 一つ目は『イメージメモリー』と名付け、二つ目は『イメージディスプレイ』とする。試してみると、『イメージメモリー』で保管した画像情報を、『イメージディスプレイ』で表示する事に成功する。


 その頃になると、外が暗くなっていた。アリサたちは屋敷に泊まり込んで作業を続けるという。執事の金剛寺とトシゾウが用意した食事を食べ、そこで千佳が相談したいと言っていた雷切丸について尋ねた。


「雷切丸が繰り出せる技の一つである【瞬斬】が、上手く出せないんです」

「魔力を流し込むだけじゃないのか?」

「そうなんですが、雷切丸の反応が遅いんです」


 食事を終えた俺たちは地下練習場へ行って、上手くいかない原因を調査する事になった。地下練習場にある丸太を標的にして、【瞬斬】を試してもらう。


 千佳が雷切丸を構えて魔力を流し込みながら振り抜いた。魔力の刃が形成されたが、そのタイミングが遅い。試しに俺が雷切丸を借りて試してみると、正常に魔力刃が伸びて丸太を真っ二つにした。


「私と何が違うんでしょう?」

 見ていたアリサが原因に気付いた。

「分かりました。流し込む魔力の圧力が違うんです」

 千佳の魔力を流し込む速度と量が、遅く少なかったらしい。


 原因が分かれば、解決策は簡単である。魔力の圧力に差が有るのは、ウォーミングアップの影響だと思う。体内を魔力で充満させ循環させるウォーミングアップを行うと、魔力の圧力が高まるのを実感していたからだ。


 それを聞いた千佳は、ウォーミングアップの練習を始める事にした。聞いていたアリサたちも練習を始めると言い出す。魔導武器を使うのに重要な技術だと思ったらしい。


 千佳の悩みが解決したので、『ボディスキャン』の画像をコピーする問題に戻った。

 『イメージディスプレイ』の魔法をアリサが分析して、魔法回路化した。その魔法回路を魔法回路刻印装置でゴーレムコアに刻み込む。出来上がった魔法回路コアCを使って、イメージ画像記録装置を試作する。


 試作のイメージ画像記録装置が完成するまでには、時間が掛かった。その間に樹海ダンジョンで手に入れた魔石や宝石、甲殻剣タイタンが換金され、総額四億円ほどになったようだ。


 試作したイメージ画像記録装置が完成したので試してみる。俺は成功だと思ったが、由香里は不満のようだ。もっと精度の高い画像が欲しいという。


「画像の精度が低いと、病気を見落とす恐れも有るので、もっと鮮明な画像が欲しいんです」

 納得できる理由だ。ただこれは魔法の問題ではなく撮影装置として使っている市販のカメラに問題が有りそうだった。

「市販のカメラじゃなくて専用のものが必要なのかもしれないな」


 そう思った俺は、亜美の父親である慈光寺じこうじ忠政ただまさに日本を代表するカメラメーカーの日本精密光学工業の社長を紹介してもらった。


 俺たちが試作したイメージ画像記録装置を見せて共同開発しないかと持ち掛けると、乗り気になって共同開発が始まる。


 開発されたイメージ画像記録装置は高価なものになったが、医療魔法士が居る病院では必須の医療機器と言われるようになった。


 まず日本国内の病院が購入するようになり、それを知った海外の病院も購入するようになる。アリサたちは魔法回路コアCの機能を分解して魔導素子にできないか研究を始めていたようだ。


 魔法回路コアCを作るには、俺の魔法回路刻印装置が必要なので生産性に制限が掛かっているからだ。魔導素子なら普通の魔導職人が作れるので生産性が上がるという判断である。


 イメージ画像記録装置の開発が、グリーンアカデミカのメンバーによるものだと知った新聞などが、大々的に取り上げたので、グリーンアカデミカが魔導装置の開発集団として有名になった。


 樹海ダンジョンで得た知識が、糖尿病の治療薬や医療装置に利用された事で、A級百位以内の冒険者たちの中で、封鎖ダンジョンの価値が見直される事になった。

 治療薬とイメージ画像記録装置は大きな利益を開発者たちにもたらしたからだ。


 イメージ画像記録装置の開発が一段落した頃、俺はアリサに例の指輪を贈り結婚を前提に付き合って欲しいと申し出た。


「はい。嬉しいです」

 アリサは本当に嬉しそうに指輪を受け取ってくれた。但し、二人とも結婚は急いでいなかったので、結婚はアリサが大学を卒業してから、考える事になった。

 その事をアリサの両親や千佳たちに報告すると、大喜びで祝ってくれた。


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第9章 封鎖ダンジョン編 終了。次投稿から新章になります。


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