第10章 聖人と勇者編

第415話 ゲロンタと為五郎の改造

 イメージ画像記録装置の開発が終わり販売が開始された頃、季節は春になっていた。そして、アリサとの婚約が決まり収納リングを婚約指輪として贈った。


 今回初めて共同開発して、学んだ事がある。それは大企業との共同開発など二度とやるものではない、という事だ。


 確かに良い製品ができたが、開発中は毎日のように会議があり、俺たち五人の誰かが会議に参加する事になった。アリサたちは大学が有るので、ほとんど俺が代表して参加した。


 大変だったが、今思えば大企業の仕事の進め方を学ぶ良い機会となったと思う。ただ精神的に疲れて、ダンジョン探索などの他の事を並行して行う気になれなかった。


 ダンジョンへはあまり行かなかったが、鳴神ダンジョンの攻略についてはチェックしている。十四層は森が広がるエリアで、森の中に遺跡のようなものが点在しているらしい。今は遺跡の調査を中心に進めているようだ。


 大企業と共同開発を行っている期間、シャドウパペットを改造するために必要な魔導コアの秘密については、コツコツと調べ上げ利用方法を会得した。


 久しぶりにアリサたちと亜美を集め、蛙型シャドウパペットのゲロンタと為五郎を改造する事にする。

「先生、ゲロンタと為五郎の改造を行うそうですね。どのようにするんです?」

 亜美が質問した。


「あるダンジョンで、魔導コアの秘密を手に入れた。それを使って改造する」

 ゲロンタのボディを破壊して、魔導コアとソーサリーアイなどのパーツを取り出す。そして、皆の前に影魔石を取り出した。


「その影魔石は?」

「シャドウオーガの影魔石だ」

「えっ、シャドウオーガ……そんな魔物が居たんですか?」

 亜美は驚いたようだ。


 俺はシャドウオーガの影魔石から魔導コアと指輪を作製。そして、ゲロンタと新しい魔導コアを両手に持ち精神を統一する。


 両方の魔導コアに魔力を流し込みながら、活性化させる。魔導コアは活性化すると赤い光を放ち始め、その状態で二つの魔導コアを融合させる。


 融合を成功させる条件は、二つの魔導コアに流し込む魔力の波動を同一にする事だ。これが中々難しく、習得するのに時間が掛かった。


 赤い光を放つ二つの魔導コアが一つになって、一層赤く輝いた。そして、安定化した魔導コアを作業台の上に置く。


「先生、今のは?」

 天音が目を丸くして質問した。

「あれは、魔導コアを融合させる技術を使ったんだ」

「融合した魔導コアは、どうなるんですか?」


「例えば、シャドウフロッグの魔導コアとシャドウオーガの魔導コアを融合させた場合、蛙型と人型の両方の体形をしたシャドウパペットを動かす事ができる」


 アリサが理解して頷いた。

「記憶はどうなるのです?」

「今回の場合では、ゲロンタの記憶が引き継がれる事になる。ゲロンタが何かの技術を習得していた場合、それも引き継がれる」


 指輪は二つになり、二人のマスターが持てる事になる。その二人のマスターが矛盾した命令を出した場合などは分かっていない。その辺は研究しなければならないだろう。


 俺はD粒子を練り込んだシャドウクレイを五十キロ用意して、ゲロンタの新しいボディを作製した。もちろん、亜美たちに協力をしてもらう。形は人型であり、顔はちょっと福沢諭吉のような顔になった。


 出来上がった人型のシャドウパペットにソーサリーアイとソーサリーイヤーを組み込み、最後に魔導コアを埋め込む。微調整してから、仕上げを行う事になる。


 俺以外の全員がワクワクしながら、新しいシャドウパペットが誕生する瞬間を見守った。俺が新しいシャドウパペットの頭に手を置き魔力を流し込むと、粘土の塊だったシャドウパペットに命が宿り、骨と筋肉が形成された後に思わぬ変化を始めた。


 シャドウパペットの指と指の間に水かきが生まれ、口の部分がとがり始める。

「ええーっ、何でカッパ?」

 亜美が大声を上げる。アリサたちも目を丸くしていた。少しだけ顔がカッパに似ているが、頭の上に皿もなければ、背中に甲羅もない。


「口の周りと水かき……どうしてなんでしょう?」

 アリサが首を傾げた。俺も首を傾げたい気分だ。取り敢えず、新生ゲロンタには影に潜るように命じた。

「もしかして、熊型と人型を融合させると、ワーベア型になるのか?」


 アリサたちがニコッと笑った。

「それいいですね。為五郎はワーベア型にしましょう」

 女性陣が変な盛り上がり方をしている。ワーベア型のシャドウパペットを作りたいらしい。


「分かった。一度試してみよう」

 俺は為五郎のボディを壊し、魔導コアとソーサリーアイなどを回収すると、D粒子を練り込んだシャドウクレイ百八十キロを取り出した。


 エルモアに頼んで大体の形を形成させると、全員で細かい調整を始める。

「先生は、魔導コアの融合をお願いします」

 亜美から言われて頷いた。


 俺は為五郎の魔導コアとシャドウオーガの魔導コアを融合させる。アリサたちの方を見ると、完成に近付いていた。頭は熊で首から下は人間という感じになっている。


 ソーサリーアイとソーサリーイヤー、ソーサリーボイスを埋め込む。この中のソーサリーアイだけは高速戦闘用の特別製である。それから使っていなかった巾着型マジックバッグを口の奥に埋め込む。


 収納アームレットから、ハイメタルリキッドと白魔石を仕込んだ装置を二組取り出して、為五郎の両手の甲に組み込んだ。


 他に魔力バッテリー三個を腹に、コア装着ホール六個を胸に埋め込んだ。そして、最後に魔導コアを埋め込む。そして、微調整してから仕上げである。


 粘土の塊でしかないシャドウパペットに魔力を注ぎ込んで、生命を与える。骨と筋肉が生まれて、全身に黒い毛が伸びて半円形の耳がピクピクと動く。ワーベアそのものだった。


 新生為五郎が歩き出すと、すぐに転んだ。そして、四足で近付くと頭を俺の腹に擦り付ける。間違いなく為五郎である。俺は為五郎の頭を撫でた。歩き方から教えてやろう。


「しまった。ゲロンタと為五郎の服を用意するのを忘れた」

 アリサが明日一緒に買いに行こうと言うので頷いた。俺は為五郎の指をチェックし、人間の指と同じなので安心した。為五郎にはマグニハンマーを武器として与えるつもりだったのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る