第395話 樹海ダンジョンの四層
「シャドウオーガ狩りをしたいけど、目的が違うからな」
『ええ、先を急ぎましょう』
俺たちはホバービークルに乗って出発した。途中、デビルスコーピオンと遭遇したが、『ぶちかましボタン』で撥ね飛ばして進む。
前方に車が見えた。ホバービークルについては、ダンジョンで頻繁に使っているので隠すつもりはない俺は、追い付いて横に並ぶ。高瀬の車だった。高瀬が俺の方に視線を向ける。
「洒落たものに乗っているじゃないか。どこで買ったんだ?」
「これは売っているものじゃないですよ。ダンジョンで発見したものを使って作ったんです」
「そうか、非売品か。売っているなら買おうと思ったんだがな。まあいい、そっちも頑張ってくれ」
「はい、高瀬さんも気を付けて。では、お先に」
俺は手を振ってから、追い抜いて先を急いだ。階段に到着して、ホバービークルを仕舞うと四層へ下りる。四層の空気は変な臭いがした。硫黄臭いのである。
四層は火山地帯で地表には溶岩の川があり、ところどころで水蒸気を吹き上げていた。ここを通過するには、地下通路を通らなければならないのだが、そのどこかにドラゴニュート亜種が居るらしい。
地下通路への入り口は四つあり、どれを選ぶかによって運命が分かれる。
『地下通路ではなく、上空を飛んで行けないのでしょうか?』
メティスが質問する。上空は火山から出たガスが溜まっている。ガスマスクくらいではダメで、空気ボンベが必要かもしれない。
俺は地下通路で反対側まで行く事にした。問題はどの入り口を選ぶかである。現時点では運任せなので、勘に従い左から二番目の入り口から入る。
地下通路に下りると、広々とした通路を確認できた。天井付近が光っているので、暗視ゴーグルも必要ない。幅が八メートルで高さが十メートルほどだろう。
壁を触るとザラザラした岩である。少し温かい気もするが、地表は溶岩が流れているのだから、そのせいだろう。
『ここには毒を持つ魔物が居ますから気を付けてください』
「ああ、セベクマンボだろ」
『惜しいですが、ちょっと違います。正確にはセベクマンバです。セベクマンボだと、古代エジプトのワニの神様セベクが踊りだしそうです』
セベクマンバは頭がワニで胴体から尻尾までが大蛇という魔物である。その歯には毒があり、危険な魔物だと言われている。
地下通路を十五分ほど歩いたところで、セベクマンバと遭遇。体長五メートルほどで大きな口の中に並ぶ歯は毒がある。
鎌首を持ち上げたセベクマンバが、襲い掛かってきた。その動きは素早く、俺は掌打プッシュで迎撃した。掌打の動作で発動したのは、五重起動の『サンダーバードプッシュ』である。
稲妻プレートが掌の先から飛び出し、セベクマンバを感電させ弾き飛ばす。素早い敵用に用意したものだが、セベクマンバには過剰な威力だったようだ。
死んではいないが、全身をピクピクさせている。俺は神剣グラムでトドメを刺した。
『バグワン殿は先を行っているのでしょうね?』
「三層は飛んだ方が早かったか? でも、ホバービークルで移動した御蔭で、シャドウオーガを狩る事ができたからな」
俺たちは地下通路を移動し、半分ほど進んだところで宝箱を発見した。但し、その宝箱の前にはドラゴニュート亜種が立っていた。
「チッ、こいつと遭遇してしまったか」
『でも、倒せば宝箱ですよ』
俺はドラゴニュート亜種を観察した。身長は四メートルほどで、ドラゴニュートより一回り大きいようだ。赤みを帯びた銀色の鱗に覆われた人型の身体は、神話級魔導武器でないと通用しないと言われている。
宝箱がある場所は、一辺が二十メートルほどもある大きな部屋だった。そこの中央に立つドラゴニュート亜種が、俺をジロリと睨んだ。
その手には十字槍が握られており、それが身体に馴染んでいるように見える。槍術を得意としている魔物なのだろう。
『倒さないと先に進めないようです』
ドラゴニュート亜種の後ろに地下通路の続きがある。俺は『韋駄天の指輪』に魔力を流し込み、素早さを上げて神剣グラムを取り出した。
セブンスコールドショットを発動して、D粒子冷却パイルをドラゴニュート亜種の胸に向かって放つ。その瞬間、ドラゴニュート亜種が素早く横に避けた。
エルモアが飛び込んでトリシューラ<偽>を突き入れる。ドラゴニュート亜種が槍で受け流し、エルモアの腹に蹴りを入れる。エルモアは肘で受け止めたが、弾き飛ばされた。
ドラゴニュート亜種のスピードは、以前戦ったドラゴニュートと同じだった。だが、パワーはかなり上回っているようだ。
俺は『クラッシュボール』を連続で発動し、バラバラとドラゴニュート亜種へ放つ。そのD粒子振動ボールは槍で払われて軌道を変え空間振動波を放射したが命中しなかった。
ドラゴニュート亜種がダンと床を蹴って一瞬で間合いを詰めると、俺に向かって前蹴りを放つ。それをギリギリで躱し、神剣グラムで蹴り足を斬ろうと振り下ろす。
蹴り足を素早く戻され、神剣グラムは空振り。ドラゴニュート亜種の槍が突き出され、その槍を上半身を捻って躱した俺が、神剣グラムを振り上げる。
それを見たドラゴニュート亜種が突き出した槍を斜め上に向かって振り上げる。神剣グラムを槍に向かって振り下ろし、金属がぶつかる音が響いた。
パワーで負ける俺は、神剣グラムを手放さないようにするのが精一杯で後ろに飛ばされた。ドラゴニュート亜種が間合いを詰めようとすると、そこにエルモアが割って入ってトリシューラ<偽>で突く。
ドラゴニュート亜種が槍の柄で受け流すと、強引に懐に飛び込んだエルモアが近距離で五重起動の『コールドショット』を発動した。それを腹に食らったドラゴニュート亜種が、衝撃で身体をくの字に曲げた。
ドラゴニュート亜種が初めて見せた隙を、俺は見逃さなかった。『韋駄天の指輪』の効力で強化された脚力を使って飛び込み、頑丈な鱗で守られた首に神剣グラムの刃を送り込んだ。
神剣グラムの刃が鱗を斬り裂き首を刎ね飛ばす。その一撃でドラゴニュート亜種は倒れた。
「ふうっ、中々手強かったな」
『力負けしてしまいました。エルモアが『ヘラクレスの指輪』を使えれば良かったのですが』
「『ヘラクレスの指輪』は人間の筋肉を強化する魔導装備だ。シャドウパペットの筋肉とは合わなかったのだろう」
俺たちはドラゴニュート亜種のドロップ品を確認する。黒魔石<大>と槍が残されていた。
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