第396話 四層の罠
ドラゴニュート亜種を倒して手に入れた槍を、鑑定モノクルで調べてみる。すると『絶海槍』と表示された。絶海槍は毘沙門天の槍と言われている武器だ。
伝説級の槍であり、覇王級のトリシューラ<偽>よりは格上の武器である。ただ調査しないと使い方は分からない。俺は絶海槍をエルモアに渡した。
『私が使ってよろしいのですか?』
「チームとして戦力アップするのだから、構わない。それより宝箱を調べよう」
俺は宝箱に近付いた。チェックしてみたが、罠が有るようには見えない。
『私が開けます』
エルモアが槍を体内にある収納リングに仕舞って宝箱に近付き手を置いた。俺は数歩下がって見守る。エルモアは慎重に宝箱の蓋を開ける。エルモアが中を覗くと一冊の本があった。
「何が有った?」
『本です。ですが、魔導書ではないようです』
俺は自分で確かめた。確かに魔導書ではないようだ。秘蹟文字で『記憶の書 概念編』と書かれていた。
取り出して中を見てみると、装飾写本と呼ばれるもののようだ。古い聖書のように、職人が一点ずつ作製したもので、普通の紙ではなく皮紙で出来ているようだ。
「これは『記憶の書 概念編』という本らしい」
『何が書かれているのですか?』
「神が構築した記憶について、書かれているらしい」
『どういう意味でしょう?』
「まだ最初の部分を読んだだけだから分からない」
神というのは、どの神の事なのだろう? 神話級や伝説級の魔導武器の中には、神が使っていた武器が出て来るが、その中の一柱なのだろうか?
それともダンジョンの神というのが居るのだろうか? メティスも知らないようだから、この『記憶の書 概念編』を読んで調べるしかないだろう。
『記憶の書 概念編』を収納アームレットに仕舞うと、宝箱の中にもう一つ残っているのに気付いた。小さなコインである。そのコインには狐の顔を持つ人の姿があった。
俺はコインを拾い上げて、裏を確かめようとした。その瞬間、部屋の出口に鉄格子のようなものが下りて閉鎖され、宝箱を中心に奇妙な模様の光が現れる。
『逃げてください。転送の罠です』
エルモアは俺の影に飛び込んだ。バラバラにならないように、と考えたらしい。
俺は神剣グラムを握り締め、鉄格子に駆け寄ろうとする。鉄格子を神剣グラムで切り開いて、脱出しようと考えたのだ。
だが、俺が神剣グラムを振り被った瞬間、転送が始まった。目の前が真っ暗になり、落下するような感覚を覚えた後、硬い地面に叩き付けられる。
「うぐっ、腰を打った」
周りを見回すとドーム状の部屋のようだ。出口を探すと真後ろにあり、そこから外に出る。そこで目にしたのは、廃墟の街だった。
メティスがエルモアを影から出す。
『ここは何層でしょうか?』
「分からない」
一層から五層までに廃墟の街などなかったはずなので、五層より下の階層だと思う。見回すと、この街の建物はほとんどが塔のような建物で細長いものだと分かる。
それらの建物が途中で折れていたり、壁が崩れていたりしている。
『これはアンデッドの街ですね』
俺は光剣クラウ・ソラスを取り出して、剣帯に吊るす。この剣帯は普通の剣より太い光剣クラウ・ソラスでも吊るせるように作られた特注品である。
「仕方ない。階段を探して上に行こう」
『深い階層でないといいんですが』
全くだ。俺たちは大通りらしい道に出て右に向かった。最初に遭遇した魔物は、予想通りアンデッドのスケルトンナイトだった。
エルモアが絶海槍でスケルトンナイトの槍を払い、翻して頭蓋骨に槍の穂を叩き付ける。その一撃で頭蓋骨が粉砕されスケルトンナイトが倒れた。絶海槍には何かアンデッドに効果的な力があるようだ。
スケルトンナイトが倒れた直後に、街のあちこちからアンデッドが這い出してきて、俺たちに向かって来る。
まずレイス五体が同時に襲い掛かってきた。エルモアがレイスに絶海槍を突き入れると、レイスが悲鳴のようなものを上げて消える。さすが毘沙門天の槍、霊体にも通用するようだ。
俺は光剣クラウ・ソラスを抜いて、レイスを斬り裂いた。二本の剣身が霊体を切り裂くと悲鳴を上げる暇もなく消える。
スケルトン系やグール系の魔物は一撃で仕留める。多少手強かったのはブルーオーガゾンビで、他のアンデッドより素早かったので一撃でという訳にはいかなかった。
俺たちはアンデッドを駆逐しながら街を脱出した。そして、そのまま真っ直ぐ進む。幸運にも階段はすぐに見付かった。それは上に向かう階段である。
「良かった。これが下へ向かう階段だったら、引き返して街の反対側へ行かなきゃならなかった」
上の層に上がると広大な草原だった。ホバービークルに乗ってエリアの反対側を目指して飛ぶ。
途中、メガアントの群れと遭遇。体長七十センチほどの大きな蟻なのだが、その数が問題だった。三百匹ほどで群れを形成しているのだ。
俺はホバービークルの高度を限界の五メートルまで上げて通過する。
『あの群れには攻撃魔法の『フレアバースト』のような魔法が必要ですね』
「それより戦わないのが一番さ。お宝でも持っていない限り戦いたくはないよ。それより遭遇した魔物から判断して、どれほどの階層だと思う?」
『それほど深い階層だとは思いません。深くても十二、三層だと思います』
そうなると、八層ほど上がると目的地の五層という事になる。才能の実を手に入れる競争からは脱落したようだ。俺は残念という顔になる。
『そう言えば、例のコインは何だったのですか?』
メティスの質問に、俺はコインを取り出した。まだ調べていなかったのだ。鑑定モノクルで調べると『転送ゲートキー』と表示される。
「ええっ、嘘だろ」
『どうしました?』
「こいつは転送ゲートキーだった。つまり樹海ダンジョンには転送ルームが有るんだ」
五層にも転送ルームがあるかもしれない。と言っても、五層に一番乗りできるとは思えない。だが、来年以降は一番乗りができそうだった。一層の転送ルームを見付けて、そこから五層へ移動すれば良い。
明るい顔になって草原を飛んでいると、前方にクィーンスパイダーを発見した。体長が十五メートルほどの馬鹿デカイ巨大蜘蛛である。
『あれは宿無しだと思われます』
そうだろうな、と思った。クィーンスパイダーは上級ダンジョンでも二十層以降に遭遇する魔物として知られている。ここが二十層より下だとは思えない。
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