第393話 賢者バグワン
目の前には広大な草原が広がり、あちこちで戦っている気配がする。ここで遭遇する魔物は、動物系の魔物が多いそうなので、A級冒険者たちは大きな猪や狼と戦っているのだろう。
その直後、魔物に遭遇した。前方からゆっくりと近付くアーマーボアに気付いたのである。
『アーマーボアです。私が倒しましょうか?』
「いや、俺が『ジェットブリット』を試してみる」
一層は森の中だったので、『ジェットブリット』は使わなかった。枯れ木や落ち葉など燃えやすいものが周りを囲んでいたからだ。
『ライトニングショット』も火花を発生させる事もあるが、小さな火くらいなら簡単に消せるので使ったのだ。
迫って来るアーマーボアに対して、『ジェットブリット』を発動する。D粒子ジェット弾が形成され、矢よりも速い速度で飛翔してアーマーボアの頭に命中。その瞬間、圧縮空気が超高熱でプラズマ化してアーマーボアを包み込む。
プラズマが魔物の肉体を焼き、暴れたアーマーボアが超高熱のプラズマを吸い込んで肺を焦がした。それが致命傷となってアーマーボアは倒れて消える。
『アーマーボアを一撃で仕留める威力が有るのなら、相当使えるのではないですか?』
「そうだな。だけど、火事が起きそうな場所では使えないからな」
俺はアーマーボアが倒れた場所に目を向ける。そこの草が燃えていた。エルモアが燃えている草を踏み付けて火を消す。ついでに魔石を回収。
それを見ていた俺は、消火の魔法を創ろうかと考えた。『ジェットブリット』や『ジェットフレア』を使うのなら、消火の魔法は必要だと思ったのである。
休む暇もなく次の魔物と遭遇する。五メートルの巨人キュクロープスだ。
「こいつか。今度は神剣グラムを試そう」
そう言って、俺が前に出ると、エルモアが後ろに下がる。コンクリートや丸太を使って切れ味を試しているのだが、魔物は初めてだった。
俺が抜いた神剣グラムの剣身に、キュクロープスの注意が向けられる。その剣身は魔力など流し込まなくても何らかの力を放っていた。
その剣身がキュクロープスに向けられると、狂ったように叫び声を上げたキュクロープスが飛び掛かってきた。振り下ろされた棍棒の攻撃を躱して、巨人の足に向けて神剣グラムを振り抜く。
青白い光を放つ刃がキュクロープスの太腿に吸い込まれて、頑丈なはずの骨まで断ち切った。バランスを崩したキュクロープスが頭を地面に打ち付ける。
そこに神剣グラムを振り上げた俺が斬り込む。首筋に神剣の刃が食い込み、首が刎ね飛ぶ。ほとんど手応えがなかった。神剣グラムの切れ味は、思っていた以上のものだったのだ。
俺は『ウィング』を発動して、D粒子ウィングが形成されると鞍を装着して跨ると飛び上がった。他の冒険者たちより先行するために飛んで行こうと考えたのである。三層へ下りる階段の近くまで飛んだ時、前方で戦っている光景が目に入った。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
賢者のバグワンは、秘蔵魔法の『グライダー』を使って階段近くまで飛んだ。着地して歩いて階段に近付いた時、階段の前に二体の赤いゴーレムが立っているのに気付いた。
「何と、朱鋼ゴーレムが階段を守っておるのか。面倒な」
独り言を口にしたバグワンは、左側の朱鋼ゴーレムに向かって『ソードフォース』を発動する。魔力の刃が朱鋼ゴーレムに飛んで命中した。
魔力の巨大な刃は、分厚い朱鋼の体にぶつかり砕けた。それを見たバグワンは、顔をしかめる。
「蒼銀ゴーレムなら、切り刻めたのだが、こいつは無理だったか」
残念そうな顔をしたバグワンだったが、追い詰められているような感じではなかった。なぜなら、次の魔法を用意していたからだ。
バグワンは迫って来る朱鋼ゴーレムを睨むと、魔法レベル25で習得できる『サリエルクレセント』を発動した。バグワンから大量の魔力が目前の空間に注ぎ込まれ、空間が揺らいで巨大な三日月形の刃が形成される。
但し、『ソードフォース』の魔力刃とは違い、刃が揺らめいていた。生活魔法の空間振動波とも違うもので、魔力を感じ取れる者なら脅威を感じただろう。
形成されたサリエルブレードが飛翔して、朱鋼ゴーレムの胸に食い込みあっさりと切断する。そればかりではなく、背後のもう一体も斬り裂いた。
最初に斬り裂いた朱鋼ゴーレムは消えたが、背後に居た朱鋼ゴーレムは真っ二つになった状態で手足をバタつかせている。
『サリエルクレセント』は分子間力などの分子同士が結合する力を遮断して分子をバラバラにする力を持っている。その名前の由来は死を司る天使である『サリエル』の名前からであり、ドラゴンでさえ切り裂く力を持っていた。
バグワンは近付きながら、マジックポーチから神話級魔導武器アラドヴァルを取り出し、その穂先を突き入れてトドメを刺した。
アラドヴァルは、ケルト神話の太陽神であるルグ神の槍であり、『サリエルクレセント』と同じように分子をバラバラにする力を持っている。
朱鋼ゴーレムが残したものは、黒魔石<小>と一個のゴーレムコアだった。
「ゴーレムのドロップ品は、これだから嫌なんだ」
バグワンは魔石とゴーレムコアを回収した。ゴーレムコアは品薄で値上がりしているが、それはアイアンゴーレムのゴーレムコアであり、蒼銀ゴーレムや朱鋼ゴーレムのゴーレムコアはあまり値上がりしていなかった。
バグワンが階段に向かって歩み始めた時、それを邪魔するようにメガオンの群れが現れる。メガオンはイヌ科に属するリカオンの体長を二メートルにしたような魔物である。耳が大きいのが特徴で、群れで囲まれると倒すのに苦労する。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺はバグワンの戦い方を見ていて手強いと感じた。ベテランと感じさせる冷静な戦い方であり、ドラゴンでさえ簡単に倒せそうな魔法も持っている。
そのバグワンに近付く。
「加勢しましょうか?」
英語で声を掛けると、バグワンは俺の方をチラリと見てから首を振った。
「無用だ」
バグワンはメガオンの群れを睨み、範囲を指定して炎で焼き尽くす『フレアバースト』を発動。その炎がメガオンの群れを取り囲み焼き殺す。その一撃でメガオンの群れが消滅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます