第392話 樹海ダンジョンの封鎖解除

 近藤支部長から封鎖ダンジョンに賢者が来ると聞いて、手強いライバルができたと思った。封鎖が解かれる樹海ダンジョンでA級冒険者が求めるものと言えば、才能の実しかない。


 しかも才能の実は一つしかないというから、確実に競争になるだろう。俺は飛行の魔法が有るので有利だろうと考えていたのだが、賢者なら移動用の秘蔵魔法を持っているかもしれない。


「賢者ですか。やはり才能の実が目的なんでしょうね?」

「たぶん、そうだろう。ただツリードラゴンを倒した時に手に入るドロップ品を狙っているという事も考えられる」


 そのドロップ品というのは、魔導書や魔導技術書らしい。魔導技術書というのは、俺が所有している『シャドウパペット製作法』などのように魔導に関する知識や技術が記録されている書籍の事である。


 『シャドウパペット製作法』のような貴重な書籍なら、確かに狙う価値がある。今回は積極的に狙っていこうと思っている。ただ初めての事なので、よほど運が良くなければ樹海ダンジョンの五層に一番乗りという訳にはいかないだろう。


 支部長からインドの賢者について、話を聞いてから屋敷に戻った。

「お帰りなさいませ」

 執事の金剛寺とトシゾウが出迎えてくれた。俺は部屋着に着替え食堂で寛ぐ。


『樹海ダンジョンですが、ツリードラゴンの他にも厄介な魔物が居ます』

 俺も冒険者ギルドからもらった資料を読んでいるので、何という魔物が巣食っているのかは知っている。だが、魔物の名前だけでは、危険度が分からない。


「三層のヒッポグリフか?」

 資料の中に昨年の封鎖解除の時に挑戦した冒険者たちの報告があった。その中で三層のヒッポグリフが手強かったと書かれていたのだ。


『いえ、四層のドラゴニュート亜種です。確実に復活していると思うのです』

 昨年はA級三十二位の魔装魔法使いが、ドラゴニュート亜種を倒したのだが、かなり手子摺ったようだ。


 奉納の間で倒したドラゴニュートも手強かったが、樹海ダンジョンのドラゴニュート亜種は、直感力が異常に優れた槍の使い手らしい。


 A級冒険者でも返り討ちに合うほど手強いという。

「亜種というのは、ドラゴニュートとどう違うのだろう?」

『体表は赤みを帯びた銀色の鱗で覆われており、その鱗は伝説級の魔導武器でも通用しなかったようです』


 魔装魔法使いがドラゴニュートを倒すためには、神話級の魔導武器が必要だという事だ。生活魔法使いなら、どう戦うべきだろう。


 ドラゴニュートだから素早さとパワーを持っているだろう。槍の達人という事は、接近戦を避けるべきだという事だ。だが、戦いとなると場所は広いとは限らない。


 階段の傍にドラゴニュート亜種の棲家があるらしいので、ドラゴニュート亜種を倒さないと先に進めないという。

「ドラゴニュート亜種か、どこまで強いんだろう。三橋師範のところで鍛えてもらおうかな」


 強敵と接近戦になるかもしれないと分かり、接近戦の勘を取り戻す事にした。三橋師範は棒術を習得しているので、槍対策として模擬剣で棒術と戦うというのも良いだろう。


 俺は樹海ダンジョンの封鎖が解かれるまでの時間を使って、できる限りの準備をした。


 封印が解かれる前日に樹海ダンジョンに近い町のホテルに宿泊し、朝早くチェックアウトして樹海ダンジョンへ向かう。


 樹海ダンジョンの前には、ダンジョンハウスはなく、ログハウスが建てられていた。このログハウスがダンジョンハウスの代わりらしい。


 午前十時が近付き、ダンジョンの入り口を覆い隠していた扉が開かれる。その周りには二十人ほどのA級冒険者と冒険者ギルドの職員が居る。


 職員たちは、冒険者たちの冒険者カードで名前を確認して、ランキング百位以内のリストに載っているかチェックしていた。


 俺は邪神を倒した事で、八十三位になっていた。俺も職員にチェックされる。

「サカキ・グリム様ですね。ランキング八十三位、その若さで素晴らしい」

 それを聞いたモンタネールが顔を歪めた。モンタネールはまだ九十番台で、俺が追い抜いた事になる。


 モンタネールの他にもサムウェルと高瀬が参加していた。日本のA級である長瀬と不動は百位以内ではないので不参加だ。どの冒険者も一癖ありそうな顔をしている。


 俺はインドの賢者を探した。A級冒険者の中に背の高いインド人らしい人物が居た。大きな鼻と髭が特徴的な四十代の攻撃魔法使いのようだ。


 賢者であるバグワンは、他の冒険者からも注目されている。

「賢者殿、狙いは才能の実ですか?」

 サムウェルがバグワンに話し掛けた。


「いや、私の狙いはツリードラゴンから手に入れられるかもしれない魔導技術書だよ」

 この賢者のライフワークが、魔導技術書の収集と研究らしい。バグワンが周りに居る冒険者たちを鋭い目で見回す。邪魔する者は容赦しないという目である。


 午前十時になり、俺たちはダンジョンに突入した。念のためにガスマスクをしているが、これは少量の有毒ガスが残っているかもしれないと、ギルド職員が説明していたからだ。


 一層は全体が森エリアだった。ジャングルのように植物が密生しており、その中に有毒ガスを出す植物も有る。冒険者たちはバラバラになって森に入って行った。


「このエリアの上空には、有毒ガスが残っているかもしれないんだよな」

 有毒ガスは空気より軽いという。なので、上空には有毒ガスが残っている恐れがあるらしい。


『残念ながら、『ウィング』や『ブーメランウィング』は使えません』

 仕方なく俺も森に入った。メティスが影からエルモアを出す。

「ルール違反にならないかな?」


『あれは百位以内のA級冒険者くらいの実力がないと、危険だからという理由で、作られたルールです。シャドウパペットは例外でしょう』


 森の中を進んでいると、ウッドゴーレムと遭遇した。身長が三メートルほどのゴーレムでパワーは有るが、スピードがないので怖くはない。


 ウッドゴーレムが近付いてくるのを見て、五重起動の『ライトニングショット』を発動、D粒子放電パイルが飛翔してウッドゴーレムの胸に命中してストッパーが開き、その運動エネルギーを叩き付ける。


 バゴーンという音が響いてウッドゴーレムの胸に亀裂が走り、そこから大電流が流し込まれた。その一撃でウッドゴーレムは倒れて消える。消えた後には、緑魔石<中>が残っていた。


『その調子で行きましょう。一層は問題なく進めるようです』


 魔石を回収してから奥へと進み始め、それからウッドゴーレム三体とキラープラントの群れを倒して階段へ到着し、二層へ下りた。


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