第391話 ツリードラゴン用の魔法
試しに実験的な魔法を作る事にした。大きさは長さ二十センチほどの小さなジェットエンジンみたいな形である。前方に空気を吸い込む穴があり、その空気を圧縮して内部に溜め込む。
そして敵にぶつけて<放熱>の特性を使って過熱した圧縮空気を浴びせるという魔法でいいだろう。
賢者システムを立ち上げて、D粒子の形状を決める。さらにD粒子一次変異の<放熱>、D粒子二次変異の<分散抑止>と<ベクトル加速>を付与する。
魔法を試すために鳴神ダンジョンへ向かう。有料練習場でも良かったのだが、遠距離攻撃するような魔法はダンジョンの方が試しやすいのだ。
俺はエルモアと一緒に二層へ下りた。この二層には岩山が連なっている場所があり、前回『プロジェクションバレル』を試したのも、ここだった。岩山や岩が良い標的になるのである。
『標的は、あの岩が良いのではありませんか』
エルモアの視線の先に直径三メートルほどの岩があった。俺は岩から百メートルほど離れて賢者システムを立ち上げる。
賢者システムが立ち上がると、新しい魔法を選ぶ。試す魔法は本当に空気を吸引して過熱するかを試すだけのものなので危険はないと思っている。
魔法を発動し岩に向かって放つ。ブンという音を響かせて飛翔したD粒子ジェット弾は、岩に衝突した瞬間、D粒子が熱エネルギーに変換され吸引した圧縮空気を加熱し急膨張させて爆発した。
その爆発により岩の一部が欠けたが、それほど威力が有るようには見えなかった。
「炎が出なかったな」
『もっとD粒子を集めて、熱エネルギーに変換する量を増やしましょう。それに<放電>の特性を追加してみませんか?』
「なぜ<放電>なんだ?」
『帯電させれば、ツリードラゴンに纏わり付くのではないかと思ったのです』
「そういうものかな」
メティスのアドバイスに従い、俺はD粒子を増やし<放電>の特性を付与する。そして、もう一度岩に向かって改良した魔法を放つ。
命中したD粒子ジェット弾は、圧縮空気を加熱し電流を流し込む。膨大なエネルギーを注入された圧縮空気は、プラズマ化して光を放ちながら爆発し岩を包み込むように拡散する。
プラズマ化した窒素や酸素は、岩の表面を焼き溶岩のようになるまで加熱した。それは岩が超高熱の炎に包まれたように見えた。
『魔物に与える効果としては、十分ではないでしょうか?』
あの岩が魔物だったら、体表は焼けただれ中は蒸し焼きになって死んだだろう。植物系の魔物なら燃え上がったに違いない。
「そうだな。これを大きくしたら、ツリードラゴンでも燃やせるかもしれない」
『これを習得できる魔法レベルは、いくつになります?』
「今のものだと、魔法レベル9で習得できるかな」
『これはこのまま残して、拡大版を別に創りましょう』
「どうしてだ?」
『ダンジョンには、スライム系の魔物が出るところもあるので、他の生活魔法使いには必要だと思うのです』
俺はスライム系の魔物と遭遇した事はないが、存在するらしい。スライムに打撃・斬撃・刺突は通用しない。効果が有るのは炎系や凍結の魔法だと聞いている。だから、メティスは実験のために創った魔法を残せと言っているのだ。
スライム用なら火炎放射器のような魔法が良いんじゃないかと思ったが、残しても問題はないので、『ジェットブリット』という名前を付けて残す事にした。
「いいだろう。それじゃあ、本番のツリードラゴン用の魔法を創ろう」
ツリードラゴン用のD粒子形成物は、長さ一メートルほどのジェットエンジン形にする。飛翔を安定させるために安定翼を付ける。
『ジェットブリット』と同じ特性を付与しようとして、メティスから待ったが掛かる。
「同じじゃダメなのか?」
『圧縮空気の圧縮率を上げようと思うのです。特性に<堅牢>も追加しましょう。それと<磁気制御>を追加するのでどうです?』
「圧縮率を上げるので、<堅牢>の特性を追加して頑丈にしようというのは、理解できるけど、<磁気制御>はどうしてだ?」
『魔物に命中した瞬間、磁気を発生させて魔物の体を覆ってしまうのです。そうすれば、生成したプラズマが拡散しないと思うのです』
なるほどプラズマを浴びせるのではなく、プラズマで包み込んで焼き殺そうという事か。凶悪な魔法になるな。
ツリードラゴン用の魔法を組み立て、今度は高さ十メートルほどの大岩を標的にする事にする。ツリードラゴン用の魔法を発動すると、D粒子ジェットシェルと名付けたミサイルのようなものが飛び、大岩に命中した。
まず磁気が発生して大岩を包み込み、<放熱>と<放電>の特性により圧縮空気がプラズマ化して爆発するように拡散する。超高熱のプラズマが大岩を包み込むのが分かった。
『上手くいったようですね』
「あれなら、ツリードラゴンも仕留められそうだ」
大岩を包んでいた磁気が消えて、プラズマが周りに拡散した。熱風がこちらにも吹いてきて、熱気を感じて後ろに下がる。
プラズマの光が消えると、あの十メートルほどもあった大岩がなくなっていた。
「そんな、嘘だろ。あんなデカイ岩が溶けたのか」
大岩があった場所には、高熱を発する溶岩が溜まって煙を出していた。
『……』
「どうした?」
『私の計算では、これほどの熱量が放出されるはずではなかったのです』
ツリードラゴン用の魔法は、メティスにとっても計算外の威力を発揮したらしい。
その時、怖い事が頭に浮かぶ。
「まさか、核反応が起きたという事はないよな?」
『……たぶん、違うと思います。D粒子が関係した現象だと予想しています』
「それだったら、放射線とかは大丈夫そうだな」
『そうだと思いますが、後でガイガーカウンターを購入して調べてみましょう』
何度か試して威力を確かめた俺は、この魔法を『ジェットフレア』と名付けた。フレアは太陽の表面で起きる爆発の事である。
『ジェットフレア』を完成させた俺は、冒険者ギルドへ向かう。樹海ダンジョンで遭遇する魔物について、調べようと思ったのだ。
ギルドに入って資料室で魔物について調べていると、支部長室へ呼ばれた。
「忙しいところをすまんな。ちょっと知らせたい事が有って呼んだのだ」
「何でしょう?」
「例の封鎖ダンジョンだが、参加する一人がS級冒険者だと分かった」
冒険者のランクはG級から始まりA級が最強となる。但し、A級の上にはS級がある。これは強さや貢献度を基準に選ばれるのではなく、A級になった賢者がS級と呼ばれるのである。
「へえー、賢者が来るんですか?」
「ああ、インドの攻撃魔法使いで、バグワン・シン・ドーニというランキング五十八位の賢者だそうだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます