第386話 魔導武器コレクターの祖父

 俺たちが邪神討伐の様子を報告すると、支部長が頷きながら聞く。

「ふむ、なるほど。魔法を阻害する邪神の毛を光剣クラウ・ソラスで刈り取ったのか。そこに魔法を撃ち込んでダメージを与えたのだな」


 俺の横に座っているアリサと千佳が、時々近藤支部長の頭をちらっと見る。それに気付いた支部長がアリサと千佳に顔を向ける。


「二人は何か言いたい事でも有るのかな?」

 アリサが慌てて手を振る。

「い、いえ、何でも……あっ、そうだ。邪神を倒した功績で、B級昇級試験を受ける事はできませんか?」


「おおっ、その事か。それなら私の方で許可を申請しておこう。たぶん、本部も許可してくれるだろう。だが、ソロでドラゴンを倒す事になると思うが、大丈夫なのかね?」


「大丈夫です。それだけの実力は有ると思っています」

「さすがグリム君の弟子だ。頼もしい」


 近藤支部長は質問を挟みながら報告を聞き、戦いの状況を把握した。

「御船さんが、トドメを刺したという事だが、金属を超音速で飛ばす魔法は魔法レベルの関係で、他の者には習得できないという話だったが?」


「私が習得した訳ではありません。グリム先生が魔導吸蔵合金に魔法を保存して、それを使ったんです」

「その手が有ったか。しかし、貴重な魔導吸蔵合金を持っていたんだな」


 支部長は魔導吸蔵合金が貴重だと言ったが、貴重にした原因はアリサの論文だった。ゴーレムコアに魔法回路をコピーする時に、魔導吸蔵合金が必要だったのだ。


 アリサの論文は世界中の魔法学者に読まれ、それを検証するために魔導吸蔵合金とゴーレムコアが買い求められたのである。


 報告が終わり帰ろうとした時、支部長が俺だけ残るように言う。俺はアリサと千佳に待合室で待っているように言ってから、一人だけ支部長室に残った。


「ところで、今回の邪神討伐は、どれくらいのポイントになりますか?」

 俺は支部長に尋ねた。ランキングの順位が気になったのだ。

「たぶん邪神討伐が実績として認められたら、八十番くらいにはなるのではないかな」


 一気に十数人ほどをごぼう抜きする事になるらしい。

「封鎖ダンジョンの件だが、オファーが来ていたぞ。来月の十二日に封鎖解除となり、オファーを受け取った冒険者だけが、潜れるようになる」


 支部長がハガキ大の紙を俺に渡した。その紙には樹海ダンジョンが十二日の午前十時から開放される事が書かれていた。支部長によると、毎年二十人ほどのA級冒険者が挑戦するようだ。


「樹海ダンジョンのツリードラゴンは、手強いそうだ。その全身から伸びている蔓が、軍隊のように統制の取れた動きをするらしい」


 毒の棘がある蔓は、厄介な存在だという。その毒に侵されると五分ほどで身体が動かなくなるそうだ。解毒剤は存在せず、生命魔法の『デトックス』だけが有効な治療法である。


 『デトックス』は習得可能となる魔法レベルが『10』だったはず。由香里に頼んで魔導吸蔵合金に魔法を保存してもらおう。


 支部長との話も終わり、俺たちは戦勝祝いという事で美味しい河豚ふぐを食べさせてくれるという店に行った。ふぐ刺し・ふぐちり鍋・ふぐ雑炊・ふぐ唐揚げなどを堪能しながら、二人と話す。


「ドロップ品の布はどうする?」

 二人に聞くと、アリサが答える。

「あれは三等分にして、それぞれで防御装備を作るのが、いいと思います」

 アリサと千佳は、自分たちの分から天音と由香里の装備も作るらしい。チームなので、同じ装備を持っていないとチームワークが取れないという。


「だったら、天音たちの分の衝撃吸収服も支給しようか」

 そう俺が提案すると、

「でも、衝撃吸収服は高価なんですよ。いいんですか?」

「その代わりに、銀魔石を俺がもらうという事にするのは、どうだ?」

 どちらも相場が決まっていないという点では同じだった。アリサと千佳は、その条件で承諾した。


 千佳が俺に顔を向ける。

「グリム先生は、雷切丸について何か聞いた事が有りますか?」

「いや、残念ながらない。アリサの三鈷杵もそうだけど、魔導武器に詳しい人に質問した方がいいかもしれない」


「あっ」

 アリサが急に声を上げた。

「どうしたんだ?」

「うちの祖父が、魔導武器に詳しいんです」

「そうなのか。なら、一度アリサのお祖父じいさんに会って、話を聞くのもいいな」


 アリサの祖父に会う事になった。

 数日後にアリサの祖父が住む埼玉の地方都市へ向かう。千佳は実家の道場を手伝わなければならないようで、不参加だ。


 最寄りの駅で電車から降りた俺たちは、バスに乗り換えてアリサの祖父の屋敷に行った。この屋敷には祖父と長男家族が住んでいるという。


 屋敷ではアリサの祖父と従兄弟の健一郎、伯母の智恵に出迎えられた。

「おっ、アリサが男を連れてきた」

 従兄弟の健一郎は俺が誰だか聞いていなかったらしく、からかうように言った。その瞬間、母親の智恵が笑いながら息子をどついた。


「すみませんね。この子は冗談が多くて」

 俺たちは応接室に案内された。それから自己紹介して用件に入る。なぜか健一郎も同席していた。


「用件というのは、鳴神ダンジョンで手に入れた魔導武器について、何か知っている事が有れば、教えて欲しいのです」


 祖父の哲郎は、頷きながら確認する。

「その魔導武器というのは、雷切丸と神剣グラム、それに風の三鈷杵だったな」

「そうです」


「雷切丸は過去に何度か、ドロップ品として世に出た事が有る。その時の記録から、魔力を注ぎ込んで横薙ぎに振ると見えない魔力の刃が伸びて魔物を斬ったそうだ」


 その技は【瞬斬】と呼ばれていたらしい。もう一つは雷をイメージしながら魔力を注ぎ込み、袈裟懸けに振り下ろすと稲妻の刃が伸びて魔物を感電死させたという。これは【雷斬】と呼ばれたようだ。


 アリサの祖父は本当に魔導武器について詳しいと分かった。

「お祖父さん、風の三鈷杵でヴァーユという魔導武器を知っていますか?」

「日本では珍しいが、インドで何度か世に出た武器だ。ちょっと見せてくれるか?」


 アリサが頷いて、ヴァーユを出して祖父に渡す。哲郎が受け取ると、健一郎が身を乗り出して覗き込む。

「風の三鈷杵は、インド神話の風の神であるヴァーユにちなんで名付けられた武器だ。その特徴は握りの部分にある三つの宝玉だ」


 三鈷杵の握りには、ルビー・サファイア・ダイヤモンドの飾りだと思われる宝石が付いていた。その宝玉に魔力を流し込むとそれぞれで別の力を発揮するらしい。


 過去の記録では、【風の鞭】【風の剣】【龍馬りゅうば】と呼ばれる力が有ったようだ。

「その【龍馬】というのは、何ですか?」

 アリサが尋ねた。字面じづらだけだと幕末の有名人を思い出すが、全然関係ないのだろう。


「龍馬は、麒麟と龍の子供だと言われている伝説上の生き物だ。三鈷杵が龍馬に姿を変えて、敵を攻撃すると言われている。実際にどんなものかは知らん」


 健一郎が羨ましそうな顔になる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る