第385話 邪神のドロップ品

「先生、これなんですけど」

 千佳が左手の甲に現れたタトゥーを見せる。

「それは転送ゲートキーだな。邪神も宿無しだったらしい。あいつが上の階層まで移動したら、大変な事になっていた」


 宿無しは上の階層へ移動する事が多いので、怖い存在なのだ。

「そう言えば、先生はタトゥーを隠しているんですね?」

 千佳が質問した。

「後藤さんのタトゥーが有名になったから、タトゥー隠しのシール『ファンデーションテープ』というもので隠している」


 外出する時に貼っているシールを教えた。後藤とお揃いのタトゥーを入れているという噂が流れると、ちょっと嫌だと思ったのだ。


 俺は影からシャドウパペットたちを出して、ドロップ品を探させる事にした。タア坊たちが周囲に散らばると、俺はボーッとしながら待った。


 ちょっと疲れて頭が回らない。最初にドロップ品を見付けてきたのは、タア坊だった。タア坊が両手で魔石を抱えてトコトコと戻って来る。それは銀色に輝く魔石だった。


 支部長が邪神の魔石だと今までにない色をしているかもしれないと言っていたが、銀色だったようだ。タア坊の頭を撫でて褒めてから、銀魔石を持ち上げる。その銀魔石をアリサと千佳が覗き込む。


「銀色の魔石ですか。初めて見ました」

 アリサが言うと千佳が頷く。

「俺も初めてだよ。白魔石以上に希少な魔石のようだから、使い方も分からない。当分死蔵する事になるかな」


 メティスが制御するエルモアが近寄り、話し掛けた。

『日本刀らしいものを見付けました』

 エルモアが持って来たのは、刀身が九十センチほどの野太刀と呼ばれる戦場刀だった。つばの部分が鳥の模様になっており、その他の鞘や柄巻などのこしらえも見事なものだ。


 俺は刀を抜いて刀身を確かめる。朱鋼製の紅い色をした刀身には魔法文字が刻まれていた。

「この魔法文字は、何と刻まれているのです?」

 千佳が尋ねた。

「『雷神』と『斬』という魔法文字が刻まれている」


 千佳が目を輝かせる。

「もしかして、雷切丸ですか?」

「今、確かめてみる」

 俺は鑑定モノクルを取り出して確かめた。


 『雷神を斬った刀:雷切丸』と表示された。雷切または雷切丸と呼ばれる刀は、日本にいくつか存在する。そのどれかは分からないが、その情報を取り入れたダンジョンが創り上げた野太刀らしい。どうやら神話級の魔導武器のようだ。ただ神話級の中では格が高くなく、シングルAだろう。


「雷切丸だ。間違いない」

 俺は目を輝かせて見ている千佳に、雷切丸を渡した。千佳は夢中で雷切丸を見詰めている。俺とアリサは顔を見合わせて笑う。


 剣を咥えた為五郎が戻って来た。その頭には飛竜型シャドウパペットのハクロが胸を張って載っている。どうやらハクロが剣を見付けて、為五郎が運んで来たという事らしい。


 俺は剣に見覚えがあった。間違いない、神剣グラムだ。

「これは神剣グラムですか?」

 アリサが横で呟くように言う。

「そうだ。あの邪神チィトカアを封印していた神剣グラムだ」


「邪神を封印する他に、どんな力を持つ武器なんでしょうね?」

「調べてみないと分からないが、切れ味は石や鉄を切り裂くほど凄まじいという伝承がある。まあ、それくらいは神話級の魔導武器なら当たり前だから、他にも特別な力を持っていると思う」


 神剣グラムについては、もっと詳しく調べる必要が有るだろう。

「あっ、私のモヒカンが何か見付けたようです」

 アリサの猫型シャドウパペットが金剛杵こうごうしょのようなものを咥えて持って来た。両端に三本の爪がある三鈷杵さんこしょと呼ばれるものである。


 アリサは三鈷杵をもらって、『アイテム・アナライズ』を発動する。

「これは『風の三鈷杵:ヴァーユ』と呼ばれる魔導武器です。伝説級だと思います」


 神話級魔導武器が二つと伝説級魔導武器が一つ、さすが邪神のドロップ品だと思った。だが、それで終わりではなかったようだ。


 蛙型シャドウパペットのゲロンタが、布を引きずりながら持って来た。俺は布を受け取り鑑定モノクルで確認する。すると、『魔法無効の布』と表示された。


「これは邪神の毛と同じ効果を持つ布のようだな」

 千佳とアリサが嫌そうな顔をする。

「というと、邪神の毛を布にしたという事ですか?」

 アリサの質問に、俺は首を振る。

「違う違う、同じ効果を持つだけで、邪神の毛だという事ではないらしい」


 『マジックストーン』も使って調べてから、ドロップ品がこれだけだと確認した。その分配だが、千佳が雷切丸を欲しがり、アリサがヴァーユを選んだ。


「俺が神剣グラムでいいのか? これは神話級の中でも上等なものだと思うけど」

「西洋剣を扱えるのは、グリム先生だけですから、いいんじゃないですか」

 千佳が大事そうに雷切丸を抱えて言う。


 二人がそう言うならと、俺は神剣グラムを仕舞った。魔法無効の布は、魔法防御用の装備にすればいいだろう。


 俺たちは地上へ戻る事にした。地上に戻って冒険者ギルドに入ると、ギルドの内部がざわっとする。俺を見付けた鉄心が駆け寄る。


「三人とも無事だったか。良かった」

「心配を掛けたようですね。俺たちは大丈夫ですよ」

「それで邪神はどうなった?」

「なんとか倒せました」


「うおーっ!」

 という声が冒険者たちの間から上がる。その声は支部長の耳にも届いたようで、支部長室から近藤支部長が出てきた。


「何の騒ぎだ?」

 受付のマリアが支部長に近寄り報告する。

「グリム先生たちが、邪神を倒したそうです」

「ほ、本当なのか?」


 俺たちは支部長室へ行って、邪神討伐の報告をする。但し、支部長の十円ハゲが邪神を倒すヒントになったとは言わなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る