第384話 邪神チィトカアとの戦い(2)

 邪神がギチッギギギッと嫌な鳴き声を立て始め、それを聞いた俺はゾッとする。その鳴き声の中に人には存在しない思考が混じっているように感じたのだ。


 俺は倒すなら一気呵成に攻め上げ、倒した方が良いと感じて、ウォーミングアップを始める。その間、アリサたちがホバーキャノンで攻撃を続けた。


 用意が整った瞬間、俺は『フラッシュムーブ』を発動して、邪神の背中よりちょっと上に移動する。即座にフォトンブレードを形成して邪神の背中を切り裂く。


 俺が背中付近に居るので、邪神は攻撃し難いようだ。苦し紛れに邪神が真上に跳躍。この不意打ちに、俺は対応できなかった。


 終点プレートは邪神の毛に接触した瞬間に消え、俺はバランスを崩して邪神の背中を転がってから、空中に放り出された。


 衝撃吸収服を着ていた御蔭で怪我はしなかったが、地面に落ちた。俺は危険を感じて、『韋駄天の指輪』に魔力を流し込む。それと同時に思考速度がアップするのを感じて、状況を把握する。


 跳び上がった邪神は、足を伸ばし俺の身体を串刺しにしようとしていた。その巨大な足による攻撃を指輪の効果で強化された脚力を使って躱す。


 邪神の足が地面にめり込んだ。地面が揺れて、またバランスを崩しそうになる。だが、何とか堪えて『フラッシュムーブ』を発動して距離を取る。その時、『韋駄天の指輪』への魔力注入が途切れて、素早さが元に戻った。


 俺の行動を見ていた千佳たちが、邪神を攻撃して注意を逸らしてくれた。その御蔭でウォーミングアップを行う時間が取れる。

「あの足が邪魔だな。まず足を攻撃するか」


 俺は『フラッシュムーブ』を発動し、邪神の足の付根に移動。フォトンブレードを形成して巨大な足を薙ぎ払った。邪神の巨体が揺らぎ、切断された二本の足が地面に倒れる。


 邪神がよろよろしている隙に地面に向かって跳躍し、『エアバッグ』を使って着地する。


 地面に下りた俺に気付いた邪神が、巨体を揺すってから毛を放った。磁気バリアを展開して邪神の毛を防ぎ、お返しに巨大な蜘蛛の目を狙って、『ガイディドブリット』を発動してD粒子誘導弾を放つ。


 邪神の体の中で唯一毛がない場所なので通用するかと思ったが、邪神が触肢を伸ばしてD粒子誘導弾を防いだ。


 唯一の弱点なのだが、守りは固いようだ。その時、邪神の全身から邪気が溢れ出す。嫌な予感を覚えた俺は、邪神の横に回り込もうと駆け出した。


 俺を追うように黒いブレスが吐き出される。ぎりぎりで避ける事ができたが、危なかった。


 その様子をアリサと千佳が見ていた。

「アリサ、先生のピンチよ。邪神の頭を狙おう」

「分かった。でも、邪神の正面を横切る事になるから、気を付けて」


 アリサはホバーキャノンを邪神の正面に向かって飛ばす。そして、磁気発生バレルが邪神の方へ向くように操縦桿を倒して、ホバーキャノンをドリフトさせる。


 千佳は邪神の頭に狙いを付けて引き金を引いた。極超音速で砲弾が発射され、巨大な頭に砲弾が命中して運動エネルギーが熱に変わり水蒸気爆発を起こす。

 その爆発で巨大な目が一つ潰れた。邪神はよろめいたが、何とか倒れるのを堪える。


 俺はチャンスだと思い、もう一度ウォーミングアップで魔力を身体に溜め込んでから、『フラッシュムーブ』で巨大な頭に移動し、フォトンブレードを形成し頭に突き刺した。


 その状態でさらに光剣クラウ・ソラスに魔力を注ぎ込む。フォトンブレードから発する聖光が強くなり、邪神の脳を焼き焦がす。


 邪神が苦しそうに暴れ始めた。俺は危険を感じて『フラッシュムーブ』で避難する。着地した時、身体が重く感じ胸が苦しくなる。


「魔力切れか」

 俺は不変ボトルを取り出して、万能回復薬を飲んだ。

「はあっ、何で死なないんだろう?」

『脳が一つでない可能性があります』


 それは思い付かなかった。複数の脳が有ると考えると、邪神のしぶとさを納得できる。

「有るとすれば、あの太い胴体だろうな」

 胴体の中心部分に脳が有るとすると、フォトンブレードが届かない。どうしたらいいか? あの毛がなければ、生活魔法が使えるんだが……十円ハゲ。


 その時、なぜか近藤支部長の十円ハゲを思い出す。魔力を剥ぎ取る毛を、生活魔法で刈る事はできないが、フォトンブレードなら毛を刈り取れる。


「やってみるか」

 俺はウォーミングアップで体中に魔力を満たしてから、よろよろしている邪神の背中に移動する。フォトンブレードを形成すると横に薙ぎ払うようにして邪神の毛を刈り取る。外殻の一部も削り取られて円形脱毛症のような部分が出来上がった。


 そして、『クラッシュボールⅡ』を発動すると、高速振動ボールを毛がない部分に叩き込む。期待した通り、邪神の毛がない部分に命中した高速振動ボールが空間振動波を放射し、直径三メートルの破壊空間を形成する。


 その結果、邪神の外殻に直径三メートルの穴が開いた。『クラッシュボール』を七重並列起動すると、その穴に七つのD粒子振動ボールを放り込んだ。


 D粒子振動ボールから長さ十二メートルの空間振動波が伸びて、邪神の体内に長細い穴が開く。その穴は邪神の急所まで届いたらしい。


 突然、邪神が狂ったように暴れだしたので、俺は『フラッシュムーブ』で逃げた。そこに千佳たちの援護が始まる。極超音速の砲弾が邪神のあちこちを抉る。


 よろよろした邪神が横倒しになった。それをチャンスだと考える千佳とアリサ。

「先生が開けた穴を狙うから」

「任せて」

 アリサが操るホバーキャノンが、体液を流し続けている穴に近付く。千佳が慎重に穴を狙って、砲弾を叩き込む。


 砲弾は三メートルの穴に命中し邪神の体内で爆発した。その一撃で邪神の第二の脳が破壊される。邪神は足をピクピクさせた後、静かになり死んだ。


 その時、千佳は左手の甲に痛みを感じると同時に、体内でドクンという音を聞く。アリサも体内でドクンという音を聞いた。二人は生活魔法の魔法レベルが『15』になったのである。


 邪神の巨体が形を失い消えると、俺はホッとして座り込んだ。ちなみに、俺も魔法レベルが上がったらしい。魔法レベル22になった。


 そこにホバーキャノンに乗るアリサたちが近付き停止する。

「先生、やりましたね」

 千佳の嬉しそうな声が耳に届いた。アリサはホバーキャノンから降りると俺に近付いて負傷していないか尋ねる。


「大丈夫だ。疲れたが怪我はしていない。衝撃吸収服が身体を守ってくれたんだ」

「良かった。地面に落ちた時は心配したんですよ」


 アリサたちに怪我はないようだ。俺たちは怪我もなく邪神を倒せた事を喜んだ。


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