第374話 調査チーム

 俺が冒険者ギルドへ行くと、鳴神ダンジョンの十三層にあるワーベアの街が話題になっていた。待合室に鉄心が居たので、詳しい話を聞く。


「おれも詳しい事は知らないんだが、長瀬さんが十三層へ下りる道を発見して、十三層へ行ったら、かなり大きなワーベアの街があったらしい」


「ワーベアの街か、見に行こうかな」

 俺がそう言うと鉄心が止めた。

「ちょっと待て、そのワーベアの街については、研究対象になるかもしれないので、立入禁止になっている」


「まさか、研究対象になると十三層を通れなくなる?」

「いや、街に入らなければ、いいだけだ。生活魔法使いなら、飛んで行けばいいだろう」


 俺は納得して頷いた。十三層への入り口はワーベアの街より少し高い位置に有り、そこから街を見下ろせるらしい。

 長瀬は街に入らなかったらしいが、双眼鏡を使って詳しく調べたようだ。


「グリム先生、支部長が部屋まで来て欲しいそうです」

 受付のマリアが声を上げた。俺は頷いて鉄心に向かって手を上げて合図してから、支部長室へ向かう。


 支部長室に入ると、近藤支部長が難しい顔をしていた。

「何か問題でも起きたんですか?」

「問題が起きた訳ではない。長瀬君が発見したワーベアの街について、聞いたかな?」


「ええ、鉄心さんから聞きました」

「冒険者ギルドは、ワーベアの街を調査する事にしたのだが、その調査員を護衛する役を頼みたいのだ」


「待ってください。ソロの俺よりチームを組んでいる冒険者に頼んだ方がいい」

 支部長が渋い顔をする。

「調査員の一人が、体力がない人物らしい」


「それは人選ミスじゃないんですか?」

「ダンジョン異文化研究では、第一人者なのだそうだ」

 支部長の話によると、調査員は三人で一人が四十代の男性、一人が二十代後半の女性、そして、街の様子を撮影するカメラマンだという。


 支部長が俺に頼んでいる理由が分かった。転送ゲートで一気に十層まで連れて行きたいのだ。

「後藤さんじゃダメなんですか?」

「それが遠征中なので、連絡が取れないのだ。転送ゲートキーについては、守秘義務とするように契約するから頼む」


 近藤支部長には世話になっているので、引き受ける事にした。報酬として、各支部に保管されている巻物の中から、生活魔法と思われる巻物を三本もらう事にする。


 はっきりと生活魔法と分かるものは、D粒子二次変異の特性の巻物なので、また特性が増えるかもしれない。


「しかし、一人では大変だろう。誰か一人助っ人を頼もうか?」

 支部長の申し出だが断った。

「いえ、弟子の誰かに頼みます」

「そうだった。弟子たちの四人がC級だったな」


 俺はアリサに頼もうと思う。これで調査員三人に、俺・エルモア・アリサが護衛する体制が取れる。十分守り切れるだろう。


 冒険者ギルドを出た後、アリサに連絡をとって手伝いを頼んだ。快諾してくれたので、ちょっと嬉しくなる。

『護衛の任務は、二度目ですね』


 メティスに言われて、ダンジョン写真家を護衛した時の事を思い出した。鳴神ダンジョンが誕生して探索が行われ始めた頃の事である。


 護衛任務を頼まれてから三日後、俺はアリサと一緒に鳴神ダンジョンへ向かった。ダンジョンハウスの前に近藤支部長と三人の調査員が待っていた。


 挨拶をして、自己紹介をする。四十代の男性が森本教授、二十代の女性が坂上講師、カメラマンが井口という名前だった。森本教授と坂上講師は京都の大学で働いているようだ。


「グリム君、よろしく頼む」

 近藤支部長から言われて、俺は頷いた。

「任せてください」

 俺たちはダンジョンに入った。


「こちらの綺麗なお嬢さんも冒険者なのかね?」

 森本教授が確認した。冒険者というイメージに、アリサが当て嵌まらなかったようだ。


「そうです。これでもファイアドレイクやブルーオーガを倒した実力者なんですよ」

 俺がそう言うと、アリサがクスッと笑う。俺が視線を向けると、

「グリム先生から実力者とか言われると、何だか可笑しくて」

 そう言いながら、また笑うアリサ。


 俺たちは転送ルームへ向かった。中に入って転送ゲートを見た調査員たちは目を丸くして驚いていた。


「俺が最初に十層へ行きますから、順番に進んでください」

 十層の転送ルームへ到着した俺は、調査員たちが来るのを待つ。森本教授・坂上講師・井口の順番で現れ、最後にアリサが転送ゲートから出てきた。


 転送ルームから出た俺たちは、階段で十一層へ向かう。十一層はランニングスラッグやアリゲーターフライが居る。そのナメクジ草原を目にした森本教授たちは、遠くにランニングスラッグの群れを見て、興味を持ったようだ。


「教授、あの群れにはボスが居るんでしょうか?」

「群れにはボスが居るものだ。そうでなければ、統制が取れない」

 ランニングスラッグの群れにボスが居るなど考えた事もなかった。先にボスを倒すと群れに変化が有るんだろうか?


 俺はホバービークルを出して教授たちを乗せる。アリサが最後に乗るとホバービークルを飛ばし始めた。スピードが上がり前方にランニングスラッグの群れが見えてくる。


「前方を塞がれそうです」

 アリサが声を上げた。俺はブレーキペダルを踏んで、天音が作った付与魔法を利用したブレーキが効いて速度が落ちたのを感じてから、操縦桿を倒す。


 ホバービークルが横に向いてドリフト走行のような感じで飛びながら、左に曲がり始める。群れを避けて左から回り込もうとしたが、一匹のランニングスラッグがホバービークルの前に飛び込んできた。


 俺は『ぶちかましボタン』を押してホバービークルをランニングスラッグにぶつける。坂上講師が甲高い悲鳴を上げ、森本教授と井口が叫び声を上げる。


 ぶつかったランニングスラッグは、撥ね飛ばされて宙を舞う。予想していた衝撃がなかったので、教授たちはキョトンとしていた。


「なぜ衝撃を感じなかったのだ?」

「魔法ですよ。このホバービークルには衝撃を吸収して送り返す魔法が掛かっているんです」

 俺が説明すると、教授たちが感心したような顔をする。


 ナメクジ草原を突破し十二層へ下りた俺たちは、ここもホバービークルに乗って突破し十三層へ下りる洞穴がある山の麓まで来た。


「こんな山は、私の体力では登れんぞ」

 森本教授が山を見上げて、弱音を吐いた。面倒だなと考えながら、『ウィング』を発動してD粒子ウィングに括り付ける担架を出す。この担架で教授たちを運ぼうと考えたのだ。


 こういう事も考えて支部長は俺に頼んだのだな、と考えながら教授を運ぶ。アリサも『ウィング』を使って、坂上講師を運んだ。井口も洞穴に運ぶと十三層へ進む。


 やっと十三層へ到着した俺たちは、初めてワーベアの街を目にした。

「予想していたより大きいな」

 俺が声を上げると、アリサが横に並んで街を見下ろしながら頷いた。

「そうですね」


 森本教授が鼻息を荒くしながら、町に向かって下りて行こうとする。俺は慌てて止めた。


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