第370話 ランキング百位以内

 近藤支部長に光剣クラウ・ソラスを見せ、ランキング順位について聞いた後、屋敷に戻ると金剛寺が出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ」

「ただいま、食事を頼む」

「分かりました。少々お待ち下さい」

 金剛寺が厨房に向かうと俺は食堂の椅子に座ってシャドウパペットたちを影から出した。


『近藤支部長が百位以内になると、特別な何かが有るような事を匂わせていましたが、何でしょう?』

 メティスの質問を考えたが、心当たりはなかった。

「さあ、一般の冒険者には知らせていない事なんじゃないかな」


『A級の冒険者にも知らせないというのは、変ではありませんか?』

「何か事情が有るのだろう。それは百位以内になった時に分かる事だ。それよりバジリスクゾンビ討伐での『プロジェクションバレル』の命中率が気になったんだけど」


『あれは適当に狙っているからでしょう』

「いや、しっかり狙ったつもりだ」

『やはり遠距離攻撃をする場合は、照準装置のようなものが必要だと思うのです』


 照準装置と言われても、魔法で照準装置を用意するのは難しいように思える。

「魔法だと無理なような気がする」

『工場か、工房で作ってもらうのです。狙撃銃に付けられるような小型のものでいいと思います。それに給弾装置も必要だと思います』


 バジリスクゾンビ討伐の時、俺が磁気発生バレルに砲弾をセットするのを手間取っていたのを見ていたのだろう。メティスは給弾装置も必要だと言い出した。


「かなり本格的なものになるな。ついでに衝撃波や爆風を防ぐ盾も付けるか」

『そうすると重くなりますから、全部を纏めてホバービークルのように浮かせますか?』

 メティスの提案を聞いて笑い出した。それだと空飛ぶ戦車である。


 バジリスクゾンビ対策として開発したものなので、そうそう『プロジェクションバレル』が必要になる化け物が現れるとは思えないが、工場の人に相談してみようと思った。


 その翌々日、冒険者ギルドへ行くと、支部長が待っていた。

「冒険者ギルドの本部から、新しいランキング順位が届いた」

「早かったですね。何位だったんです?」

「驚くなよ。九十八位だった」


 これには驚いた。百位近くになるんじゃないかと予想していたが、百位以内になるとは思っていなかったのだ。バジリスクゾンビ討伐でもらえたポイントは、かなり多かったらしい。


「九十八位ですか。思っていた以上に伸びましたね」

「バジリスクゾンビが手強い事は分かっていたからね。そこでなのだが、百位以内に入ったA級冒険者に伝えねばならない事がある」


 俺は支部長の顔を見る。

「何でしょう?」

「世界冒険者ギルドは、百位以内のA級冒険者を対象にして、封鎖ダンジョンを開放する時期が有るのだ」


「封鎖ダンジョンというのは、二十位以内のA級冒険者に開放されるという特級ダンジョンとは違うのですか?」


 支部長が首を振り否定する。

「封鎖ダンジョンとは、ある時期だけ入る事が可能になるダンジョンの事だ。例えば、一層に火山があり、年十一ヶ月ほどが噴火しているようなダンジョンだ」


「へえー、日本にも有るんですか?」

「日本には、樹海ダンジョンと穂高ダンジョンの二つがある。そのうちの樹海ダンジョンがそろそろ開放の時期になる」


 それなら百位以内でなくC級以上の冒険者全てに開放すれば良いのに、と疑問に思った。それを支部長に尋ねる。


「そういうダンジョンは、特に危険な魔物が棲み着いている事が多いのだよ。例えば、バジリスクゾンビのような魔物だ」


 思わず顔をしかめる。バジリスクゾンビ級の化け物が居るのなら、空飛ぶ戦車も必要かもしれない。


 支部長が冊子を取り出して、俺に渡した。

「樹海ダンジョンの資料だ。挑戦するつもりなら、よく読んでおく方がいい」

「ありがとうございます」


 支部長から封鎖ダンジョンについて、いろいろ聞いた。その後、屋敷に戻ると、アリサたちが来ていた。


「グリム先生、バジリスクゾンビの討伐に成功されたそうですね。おめでとうございます」

「おめでとうございます」

 アリサたちの言葉を受けて、俺は笑顔になる。


「留守中に、三橋師範のところで上条さんと会いました。東京で生活魔法を広めてくれているそうです。知り合いが四人ほど生活魔法を、学び始めたそうですよ」

 千佳が上条からの伝言を伝えた。


「へえー、上条さんには感謝しなきゃならないな」

 俺と千佳が話していると、天音が割り込んだ。

「グリム先生、バジリスクゾンビとの戦いを聞かせてください」


 俺は『プロジェクションバレル』でバジリスクゾンビの後ろ足を吹き飛ばしてから、光剣クラウ・ソラスで頭を斬り裂いた話をした。


 その話を聞いたアリサたちは、顔を強張らせた。バジリスクゾンビの化け物ぶりを想像して、嫌な気分になったようだ。


「私なら、絶対戦おうとは思いません」

 アリサがきっぱりと言った。

「バジリスクゾンビは置いておくとして、『プロジェクションバレル』は凄い威力が有るようですね?」

 由香里が『プロジェクションバレル』に興味を持ったようだ。


 天音も身を乗り出して尋ねる。

「魔法レベルはいくつで習得できるのですか?」

「魔法レベル19だ。この中ではアリサしか習得できないだろう」

 生活魔法の才能が『B』以上でないと習得できない魔法だった。使える者はかなり限定されるだろう。


「この魔法は、バジリスクゾンビ用に作ったような魔法だから、習得する必要はないよ」

 千佳たちがガッカリしたような顔をしたので、慰めるように言った。

「先生が自分の魔法レベルに合わせて、魔法を創るようになると、ほとんどの人が習得できなくなりますね」


 千佳の言葉が胸に響いた。最近手強い魔物を倒すためだけに魔法を創っているが、俺の目的は生活魔法を広めようというものだったはずだ。


「そうだな。これからは魔法レベル10以下でも習得できる魔法を創るように頑張ろう」

 俺が登録した生活魔法の中で、『ノーズクリーン』が世界中で爆発的に売れている。それだけ鼻に問題を持つ人が多いという事だが、そういう生活魔法の開発を行いたいと思った。


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