第9章 封鎖ダンジョン編

第371話 樹海ダンジョンと才能の実

 俺は屋敷の作業室でボーッと外を眺めながら考えていた。


 『知識の巻物』を手に入れて、どう活用するか迷っていたのだ。前回『知識の巻物』を使った時、その時点で知りたいと思っていた<手順制御>・<ベクトル制御>・秘蹟文字・魔法文字・魔力法陣・シャドウパペットの六つが選択肢に挙がり、その中から秘蹟文字を選んだ。


 現時点だと<手順制御>・<ベクトル制御>・魔法文字・シャドウパペットについては、ある程度の知識を得ているので知りたいとは思っていない。もしかすると、選択肢から外れているかもしれない。


 そうなると、残っている選択肢は、魔力法陣だけになる。魔力法陣について調べたのだが、これは魔法陣とは違うらしい事だけが分かった。しかし、なぜ魔力法陣が選択肢の中に入っているのかが分からない。魔力法陣について知りたいと思った事はなかったからだ。


「魔力法陣とは、何なんだ?」

 俺の独り言だったのだが、メティスが耳にして答える。

『さあ、私にも分かりません。『知識の巻物』で選んでみますか?』


「それはちょっと無謀だろう。役に立たないものだったら、『知識の巻物』が無駄になる」

『でしたら、どういたしますか?』

「無理やり選択肢を増やそうと思う」


『どういう意味でしょう?』

「役に立ちそうな事を調べて、それを知りたいと思うんだ」

『例えば、どういう事です?』

「そうだな。D粒子とは何かとか、白魔石が何に使えるのかとか、どんな魔導装備が存在するかなどだな」


『それでしたら、宇宙の真理とか、長生きする方法とかはどうです?』

「んん……宇宙の真理とかだと漠然としすぎているかな」

 俺とメティスは、それらの謎について話し合い、選択肢に挙げられるように頑張ってみた。初めての試みなので、試行錯誤するしかないのだ。


 その後、『知識の巻物』を取り出して使用した。俺の頭に選択肢の項目が並ぶ。

『どんなものが、選択肢に挙がったのです?』

「魔力法陣・白魔石利用法・魔導装備一覧・細胞活性化魔力循環・空間構造が選択肢に挙がっている」


『白魔石利用法と空間構造が気になります。どうしますか?』

「どれを選んでいいか迷うな」

『細胞活性化魔力循環とは何でしょう?』

「長生きする方法に関係するんじゃないかと思う」


 迷った末に白魔石利用法を選んだ。その瞬間、俺の頭の中に新しい通路が生まれ、巨大な何かと繋がっているような感覚が生まれる。意識がダンジョンアーカイブの新しい領域と繋がったようだ。


 膨大な情報の集合体であるダンジョンアーカイブの小部屋みたいな場所に繋がった俺は、白魔石利用法に関する情報を読めるようになった。


『白魔石は、何に利用できるのですか?』

「素粒子の吸蔵と付与ができるようだ」

『素粒子と言うと、D粒子も含まれるのですか?』

「そうらしい。生活魔法使いが使う場合、D粒子を吸蔵させる事になるだろう」


『もしかして、D粒子収集器には白魔石が使われているのでしょうか?』

「そうかも知れない。でも、白魔石の機能は素粒子の吸蔵だけでなく、魔法的な何かを白魔石に付与すると、吸蔵した素粒子にも付与したものをコピーする機能があるようだ」


『それは生活魔法の特性も付与できるという事ですか?』

「そのようだ。興味深いだろ」

『ちょっと待ってください。もし、白魔石に<爆轟>の特性を付与した場合、D粒子を吸蔵させると危険じゃないですか?』


「いや、白魔石に吸蔵された状態のD粒子は、特性や他の魔法効果も発揮できないらしい。つまり白魔石に吸蔵されている状態では、どんな特性が付与されていても安全だという事だ」


『なるほど、それなら安全ですね。しかし、どう使うのです?』

「そこが問題だな。天音たちの知恵を借りようかと考えている」


 生活魔法使いだけの知恵では、良いアイデアが浮かばなかったので四人の弟子たちの知恵を借りる事にした。


『ところで、樹海ダンジョンというのは、どういうダンジョンなんですか?』

「まだ五層までしか探索が進んでいない上級ダンジョンで、植物系の魔物が多く棲み着いているらしい」


『封鎖された原因は?』

「一層に繁殖している植物だ。この植物は幻覚剤のような作用があるガスを放出しているそうだ。それが一年の中で一ヶ月だけガスを放出しない時期があるという事だ」


『ガスならガスマスクか何かで防げないのでしょうか?』

「無理だったらしい。皮膚からもガスが体内に入るようなんだ」

『そうなると、空気ボンベを背負って完全装備で入らないとダメなようですね』


「危険なダンジョンだが、ほとんどの人々が欲しがるようなものもある」

『何です?』

「才能の実が生る木が有るんだ。年に一粒だけ実をつける小さな木らしい」


 才能の実というのは、食べると魔法才能を上げる効果がある。但し、才能の実は色によって効果が分かれるようだ。赤色の実は攻撃魔法の才能を上げ、黄色は魔装魔法の才能を上げるという具合である。


 生活魔法は水色の実で、過去に四回ほど回収されたという記録が有るという。

『その才能の実をつける木は、一本しかないのですか?』

「五層の奥に一本だけ生えているらしい。だから、今年は何色の実が生っているかは、五層まで行かないと分からない」


 この樹海ダンジョンでも、『中ボス狩りバトル』の時のように競争になるようだ。

『才能の実を手に入れても、それが生活魔法の才能の実だったら、どうしますか?』

「食べたらどうなるだろう?」

『グリム先生は、制限なしの『S』ですから変化なしだと思います』


 俺は肩を竦めた。それより樹海ダンジョンに棲み着いている魔物が、厄介だった。デビルサボテンと呼ばれる歩くサボテンは毒針を放つので要注意だし、才能の実が生る木がある手前には、ツリードラゴンと呼ばれる化け物が居るという。


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