第369話 ランキング順位

 支部長が生死を確かめるために今沢のところへ走った。今沢は鼻血を出して意識がないようだ。

「生きているか?」

 地面に片膝を突いて今沢の顔を覗き込み、介抱している斎藤に尋ねる。


「体中に軽い傷がありますが、気を失っているだけです」

「はあっ、顔面から落ちたように見えたが……顔面を防御する特別な魔法でも有るのか?」

 斎藤がジト目で支部長を見る。本気で言っているのかという目だ。支部長が咳払いをして立ち上がり、冒険者たちにドロップ品を探すように指示する。


 アンキロドンのドロップ品として見付かったのは、中級治癒魔法薬五本、風の短剣、雷の盾だった。短剣は魔導武器で、盾は魔導装備である。


「さて、トドメを刺した根津君には、ドロップ品の中から一つを所有する権利がある。どれにする?」

 こういう共同での討伐では、そういう決まりが有るのだ。根津は風の短剣を選んだ。プッシュ系の魔法が有るので、雷の盾は使わないと思ったのだ。


 短剣を渡された根津は、鞘から剣身を抜く。蒼銀製の短剣のようだ。魔導武器らしいが、たぶん覇王級だろう。『風の』とか『光の』という短剣は覇王級だと聞いた事がある。


「D級の昇級試験を受ける資格は、十分に有ると認める。根津君が試験を受けられるように手配しておこう」

 支部長の言葉を聞いた根津は、飛び上がって喜びの声を上げた。


「ところで、D級の今沢さんたちが、アンキロドンを倒せなかったのは、なぜです?」

「あれは戦術を間違っているからだ。本来なら、魔装魔法使いがアンキロドンのターゲットとなって、注意を惹き付けたところに、攻撃魔法使いの強力な魔法で仕留めれば良かったのだ」


 三人はアンキロドンの防御力の高さを過小評価して、魔装魔法を使えば蒼銀製の剣でアンキロドンを斬れると考えたところが間違いだったらしい。


 根津は故郷で評判を上げた。だが、小さな冒険者ギルド内だけの事である。周りに居る師や先輩たちを見れば、自分が未熟だという事が分かっている。まだまだ頑張ろうと決意する根津だった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺はバジリスクゾンビを倒して、『知識の巻物』とバジリスクゾンビの爪、『ヘラクレスの指輪』を手に入れた。


 せっかく京都に来たので観光しようと思い、観光スポットを見て回る。だが、何かが足りない気がする。

「そうか、一人で観光するのが物足りないんだ」

『でしたら、エルモアに化粧して、一緒に観光しましょうか?』


 メティスの提案は断る。尻尾を隠しきれないので、騒ぎになるかもしれないからだ。

『なるほど、アリサさんを誘えば良かったですね』

「い、いや、決して、そういう意味じゃないぞ」

 俺が慌てて言うと、メティスが笑ったような気がした。


 俺は京都のお土産を買って、渋紙市に戻った。お土産を配り、近藤支部長にはバジリスクゾンビを倒した事を報告する。


「よくやってくれた。これで南禅ダンジョンの探索活動も正常に戻るだろう。ところで、『奉納の間』が拡張するという報告が確認されて、ボーンドラゴンを倒した件と一緒にグリム君の実績になる事が決まったよ」


「へえー、誰が『奉納の間』に挑戦したんだろう?」

「A級の不動君が挑戦して、サンダードラゴンを倒したようだ。彼は雷鎚『ミョルニル』を手に入れた」


「神話級の魔導武器でしょうか?」

「ドラゴンを倒して手に入れたものだ。少なくとも伝説級……いや、雷鎚ミョルニルとなると、神話級である可能性が高いだろう」


「凄いな。一発で神話級なんて」

 近藤支部長が俺に鋭い視線を向ける。

「何を言っているんだ。京都の冒険者ギルドから報告書が回って来たが、光剣クラウ・ソラスでトドメを刺したそうじゃないか。あれは神話級だろう」


 俺も神話級の魔導武器を手に入れているのだから、羨ましがる必要はないと言いたいらしい。だけど、俺の場合はいろいろ苦労したからな。


「光剣クラウ・ソラスは、ちょっと複雑なんですよ」

 俺は光剣クラウ・ソラスが生まれるまでの経緯いきさつを近藤支部長に話した。支部長がちゃんと記録に残しておきたいと言うからだ。後世に情報を残す事は重要だと言うのだ。


 俺も資料室で念入りに調査して、探索に活かす方なので自分の場合だけ記録に残さないというのは、自分勝手なような気がして承知した。


 考えてみるとA級冒険者のほとんどは、どんな魔導武器を持っているか知られている。後世の事を考えて記録に残しているのだろう。


 支部長が光剣クラウ・ソラスの写真を撮りたいと言うので、訓練場へ向かう。訓練場では多くの冒険者が訓練していたのだが、支部長と俺の姿を見て何事だろうと集まってきた。


 受付嬢であるマリアがカメラを持って来る。

「支部長、何を撮るんですか?」

「グリム君の光剣クラウ・ソラスだ。記録に残しておこうと思ったのだよ」


 カメラのセッティングが終わり、俺が光剣クラウ・ソラスを取り出すと、見物していた冒険者たちがざわついた。


 剣身が二本もある剣というのが珍しかったのだ。

「こ、これが光剣クラウ・ソラスなのかね?」

 支部長が珍しく興奮している。伝説となっている剣が目の前にあるからだろう。


「ええ、ご覧のように光剣クラウとソラスが合体した剣です。ですが、これは本当の光剣クラウ・ソラスの姿ではありません」


 マリアがカメラのシャッターボタンを押したようだ。カシャッという音とフィルムを巻き上げるウィーンという音が聞こえる。


「本当の姿とは、どういうものなんです?」

 マリアが尋ねた。俺は光剣クラウ・ソラスに魔力を注ぎ込んだ。二つの剣身の間に光が生まれ、それが五メートルほどの光の剣身へと成長する。


 見物していた冒険者は、口を開けたまま顔が固まっている。マリアは興奮して忙しくカメラのシャッターを切り始めた。


 俺が魔力の注入をやめると、光剣クラウ・ソラスが元の姿に戻った。それを仕舞うと支部長が感謝する。

「いいものを見せてもらったよ」

 それを聞いた周りの冒険者たちが一斉に頷く。


 後日、支部長が記録した光剣クラウ・ソラスについての報告書は、外部にも広まり週刊冒険者も特集を組んだ。光剣クラウ・ソラスの本当の姿に驚いた冒険者も多かったようだ。


 話を戻して、光剣クラウ・ソラスの写真を撮影した後、支部長室で話の続きを始めた。

「『奉納の間』の拡張とボーンドラゴン討伐の実績が評価された事で、グリム君のランキング順位が、百三十四位に上がるだろうと予想されている」


「百三十四位ですか。今度のバジリスクゾンビ討伐の実績でどれくらいになるでしょう?」

「もしかすると、百位以内に入るかもしれんぞ。そうなれば……楽しみだ」


 何が『楽しみ』なのだろう。モンタネールもやけに百位にこだわっていたが、百位以内だと何かあるのだろうか?


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