第360話 問題の多い魔法
「そのアイデアというのは、具体的にどういうものなんだ?」
『電磁投射砲の一種でコイルガンというものがあります。電磁石が金属を引き付ける力を利用して金属の投射体を加速させ撃ち出すものです。それを真似すれば、高速で金属を撃ち出す事ができると思うのです』
「どういう事? 確かに電磁石は金属を引き付けるけど、通り過ぎたら引き戻そうとするから、結局は加速しないよね」
『通り過ぎた瞬間、その電磁石の電源を切るのです。そして、切った電磁石の前方にある電磁石の電源を入れ、その磁力で投射体を加速させる。それを繰り返せば、理論的には光速に近い亜光速まで加速できるはずです』
「電気を磁力に変えて、投射体を加速させるとなると、エネルギーロスが多そうだ」
『いえ、生活魔法だとD粒子を直接磁力に変換できるので、ロスは少ないはずです。それに電源のオンオフも<ベクトル制御>で解決できるので、割とシンプルな魔法になると思います』
メティスの説明を聞いて納得した。<ベクトル制御>で磁力を後方にしか働かないようにすれば、電源のオンオフは必要なくなる。投射体が磁力の発生源を通過しても引き戻そうとする磁力が、<ベクトル制御>の効果で存在しないからだ。
「作って試してみよう」
もう一度賢者システムを立ち上げて、ライフルの銃身のようなものをD粒子で形成する。その銃身にD粒子一次変異の<磁気制御>とD粒子二次変異の<ベクトル制御>と<分散抑止>を付与して、磁力発生バレルとする。
その磁力発生バレルの十箇所から磁気が発生し、それがバレル内部の後方にだけ効果を発揮するように調整した。
そこまで作り込んでから、地下練習場へ向かう。投射体は五寸釘にした。十五センチほどの釘である。
地下練習場のコンクリートブロックを的にして、試射する事にする。新しい魔法を発動すると、空中に七十センチほどの磁力発生バレルが浮かび上がる。
すでに磁力が発生している磁力発生バレルに五寸釘を入れた。その瞬間、鋭い金属音がして磁力発生バレルの先端から五寸釘が飛び出す。
五寸釘は十メートルほど離れたコンクリートブロックまで飛んで、その先端が五センチくらい突き刺さる。
『十箇所から磁気を発生させた場合で、これだけの威力ですか。今度は磁気発生箇所を倍に増やして見ましょう』
メティスの提案で、磁気発生箇所を二十箇所にした磁力発生バレルを作り、試してみた。
先ほどと同じように、形成された磁力発生バレルに五寸釘を入れると、目に見えないほどの速さで撃ち出されてコンクリートブロックに 突き刺さる。
今度は釘の頭部までコンクリートに食い込んだ。
「オークくらいなら、倒せるんじゃないか」
『これではダメです。相手はバジリスクゾンビなんですから』
「まあ、そうだな。この磁力発生バレルをどれくらい拡張すればいいと思う?」
『そうですね。長さを五メートル、内径が八センチの磁力発生バレルとしましょう』
「いいだろう。磁気発生箇所は三百箇所にしよう」
『そうなると、専用の砲弾が必要になります』
俺は知り合いの工場で作ってもらう事にした。材料は鉄で形状は砲弾型、三百五十ミリリットルのペットボトル程度の大きさに決める。
数日後、砲弾と新しい磁力発生バレルが完成したので試射するために、鳴神ダンジョンへ向かう。二層の峡谷エリアへ到着した俺は、冒険者もあまり行かないエリアの隅で試射する事にした。
その辺りは小さな小山がいくつも存在するところで、大威力の魔法を試しても他の冒険者を巻き込む心配がない場所だと判断したのだ。
俺の横では、エルモアが周囲を警戒している。ワイバーンと遭遇する場合が有るからだ。
『付近に魔物の姿はありません』
「よし、試してみよう」
新しい魔法を発動すると外径十センチ、内径八センチで長さ五メートルの磁力発生バレルが出現した。ちょうど肩の高さに浮かぶ磁力発生バレルは、D粒子の密度が濃いためか氷で出来たパイプのように見える。
実際に目に見えるほどD粒子の密度を上げたのは、それほど大量のD粒子を消費するからである。この磁力発生バレルの三百箇所から強力な磁力を発生させるためには、それだけのD粒子が必要なのだ。
俺は空中に固定されている磁力発生バレルを少し動かして、近くの小山に狙いを付けた後、鉄で作られた砲弾を入れてから磁気を発生させた。甲高い金属音が響いたと同時に砲弾が発射される。
磁力発生バレルの先端付近から衝撃波が生まれて、周囲に広がり俺とエルモアを吹き飛ばした。
「うわっ」
地面を転がって起き上がろうとした時、狙った小山で爆発が起きる。二百メートルほど離れた場所の土砂が爆発して空中に舞い上がった。
「何で爆発したんだ?」
火薬も入っていない砲弾が命中しただけで爆発が起きた事にびっくりした。
『隕石が落下した時に起こる爆発と同じです。超高速で衝突した時に凄まじい圧力と高温が発生して、爆発を引き起こしたようです』
爆発の規模は直径十五メートルほどのクレーターが出来た事で推測できる。十分な威力が有りそうだ。
『磁力発生バレルが消えています』
「時間が経って、自然消滅したんじゃないのか?」
『<分散抑止>を付与しているので、まだ消える時間ではありません』
メティスと議論して原因が推定できた。砲弾を撃ち出す時に発生した甲高い金属音は、砲弾が磁力発生バレルの内側を擦りダメージを与えた時に発生したのだという結論だ。ダメージを負った磁力発生バレルは形を維持できなくなり消えたのである。
磁力発生バレルは連続で数発ほど発射できるように考えていたのだが、これは予想外の事象だった。
「砲弾が磁力発生バレルに接触しないようにするのは難しそうだな」
『それに発射時に発生する衝撃波も対策が必要です』
俺は溜息を吐いた。この魔法は軍艦などに設置される兵器並みの威力を持つ、それだけに扱いが難しいようだ。
『魔力の消費はどうですか?』
メティスに質問された俺は、魔力カウンターを取り出して計測した。
「総魔力量の二割というところだな。レールガンほどじゃないけど、消費魔力が多い」
完成した訳ではないが、そろそろ名前を決めようという事になり、『プロジェクションバレル』と名付ける事にした。
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