第361話 ランキング九十六位
『プロジェクションバレル』の試しを終えた俺は、回復の泉へ行って不変ボトルの万能回復薬を補充した。それから地上に戻ると、冒険者ギルドへ行く。
近藤支部長にバジリスクゾンビ討伐の件で情報がないか尋ねた。
「長瀬君が京都へ行った事は聞いたと思うが、まだ、南禅ダンジョンへは潜っていないようだ」
「なぜです。A級だから優先して案内してくれるんじゃないんですか?」
「長瀬君はバジリスクゾンビを倒すための武器を、手に入れようとしているらしい」
まだ神話級の魔導武器を手に入れていなかったようだ。
「京都に神話級の魔導武器が手に入る場所があるんですか?」
「ああ、京都の嵐山ダンジョンの四十層に居るダンジョンボスを倒すと、『
南禅ダンジョンではなく、中級ダンジョンである嵐山ダンジョンのダンジョンボスを倒しに行ったのか。ダンジョンボスとバジリスクゾンビを比べると、どっちが手強いのだろう。
それを支部長に尋ねる。
「難しいところだな。嵐山ダンジョンのダンジョンボスは、獣系の魔物の中で最強と言われているフェンリルだ。素早さならシルバーオーガを超えると言われている」
シルバーオーガより素早いとなると、素早さを十倍にすると言われる『ヘルメススピード』を完全に使い熟せるほどの技量がないと勝てないだろう。
俺は勝てる戦術を思い付かなかった。長瀬なら勝てるのだろうか?
「長瀬さんは、フェンリルに勝てるんでしょうか?」
「分からんな。スピードが互角だとすると、長瀬君の武術の技量が勝敗を分けるだろう」
支部長はフェンリルと長瀬のスピードが互角だと考えているようだ。パワーに関してはフェンリルが上だろうから、そのパワーを使った攻撃を躱して仕留めるという事になる。
バジリスクゾンビとフェンリルのどちらと戦うか、という選択を迫られるような状況になったら、間違いなく俺はバジリスクゾンビを選択する。
その時、支部長のデスクにある電話が鳴った。支部長が受話器を取ると、
「分かった。支部長室に通してくれ」
と言って俺の方へ視線を向ける。
「お客さんなら、俺は帰ります」
俺が支部長室を出ようとした時、モンタネールが入ってきて英語で話し始めた。
「支部長、鳴神ダンジョンに転送ゲートが有るというのは、本当なのか?」
「ええ、本当です」
モンタネールが不機嫌な顔になる。
「なぜ、それを知らせなかった?」
「転送ゲートを使うには、転送ゲートキーが必要です。それを持たないモンタネール氏には、意味のない事です」
「だが、その転送ゲートキーを持っている冒険者が、この渋紙市には居るのだろ。その転送ゲートキーを貸すように頼んでくれ」
モンタネールは転送ゲートキーがタトゥーだとは知らないようだ。
「それは無理です。その冒険者も転送ゲートキーを使っていますから」
モンタネールが眉間にシワを寄せる。
「ギルドができないのなら、私が直接交渉する。転送ゲートキーを所有している冒険者の名前を教えろ」
支部長が不機嫌な顔になった。
「教える事はできません」
「A級ランキング九十六位の私が、頼んでいるんだぞ」
頼んでいるというより、命令しているようにしか見えないが、支部長も大変だな。俺が部屋から出て行こうとすると、モンタネールが俺の腕を掴んだ。
「お前でもいい、名前を教えろ」
「転送ゲートキーが欲しいのなら、宿無しを倒せばいい。A級なんだからできるだろう」
俺の言葉が気に入らなかったようだ。モンタネールがウォーミングアップを始めた。すると、モンタネールの身体が膨れ上がり巨大化したように感じる。俺を威圧するためにウォーミングアップを始めたようだ。
俺もウォーミングアップを始めた。それを感じて、モンタネールが馬鹿にするように鼻で笑う。
「ふん、面白い。九十六位の俺と競うと言うんだな」
こいつ、何度も九十六位と言っているが、ランキング順位が絶対だと思っているんだろうか? 以前に何か有って、
「さっきから九十六位がどうのと五月蝿いな。ランキングで本当の強さが分かる訳じゃないのに」
それを聞いたモンタネールが体内を循環させる魔力を増やす。それに対抗して、俺も魔力を増やした。
「やめてくれ」
近藤支部長が声を上げた。それを聞いて、俺はウォーミングアップをやめた。それに気付いたモンタネールもやめる。まだ身体から魔力が溢れ出す前だったので、俺の魔力が変な現象を起こさずに済んだ。
「役に立たない連中だ」
そう言い残してモンタネールが去った。支部長が俺に顔を向ける。
「何で対抗しようとしたのだ?」
俺は肩を竦めた。あの魔力を近くで感じたら、対抗するしかないと思ってしまったのだ。それは理屈ではなく本能みたいなものだった。
「冒険者なら、あの反応になります。そうでないと、威圧されてましたよ。……それにしても、九十六位というだけで偉そうでしたね」
支部長が苦笑する。
「ランキング百位以内に入るという事は、それだけ大変な事でも有るんだよ。ただグリム君がバジリスクゾンビを倒すと百位に近付くかもしれん」
シルバーオーガを倒して百八十二位になったばかりのはずだ。
「俺は百八十二位だったはずですよ。バジリスクゾンビ討伐は、そんなにポイントが高いんですか?」
「バジリスクゾンビ討伐のポイントが高いのは事実だが、それだけではなくバタリオンの運営を始めた事もポイントになっている」
後輩の指導を行うバタリオンの運営は、冒険者ギルドにとって重要なのでポイントが高いらしい。それが評価されてポイントが入り、俺は百四十八位になっているという。
ちなみに百五十位~百八十位は、それほど差がなかったようだ。マラソンで団子状態になっている時に、少しだけスピードを上げたら、団子状態から抜け出したみたいな感じらしい。
この時初めて百位という順位を意識した。バジリスクゾンビ一匹倒したくらいで百位に近付くというのなら、百位という価値も大した事がないのか? いや、バジリスクゾンビがそれだけ手強いという事なのかもしれない。
俺は冒険者ギルドを出て屋敷に戻ると、シャドウパペットたちを影から出して『プロジェクションバレル』について考え始めた。
一つ目の問題は、砲弾が砲身である磁力発生バレルに接触するというものだ。しばらく考えたが良いアイデアが浮かばない。メティスにも尋ねたが、まだアイデアはないという。
メモ用紙に所有している特性を一つずつ書き出して、特性を使ってどうにかできないか考え始める。
「ん、<反発(水)>……そうだ。これを使えば解決しそうだ」
俺が思い付いたアイデアは、砲弾の中に水を詰めるというアイデアだ。その砲弾なら、磁力発生バレルに<反発(水)>を追加付与する事で、砲弾と磁力発生バレルの接触をなくせそうだった。
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