第359話 光剣クラウ・ソラスの威力

 雷神ダンジョンから地上に戻った俺は、近くにある冒険者ギルドへ行って奉納の間で起きた事を報告した。出て来る魔物によって部屋が拡張されるというのは、初めての事だったからだ。


 その報告を聞いた支部長が、驚いた顔をする。

「そ、それは本当なのかね?」

「間違いないです。奉納の間にボーンドラゴンが出てきたんです」


 俺は証拠として、ボーンドラゴンの魔石を取り出して見せた。

「白魔石を残す魔物と言えば、ドラゴンクラス。本当にボーンドラゴンが出たようですな」

 こんな事で嘘を言っても意味がないので、支部長は信じてくれたようだ。


 但し、この事が本当かどうかを確かめるために、ある程度腕の立つ冒険者チームを使って、再現して確かめるんじゃないだろうか。そうして、初めて俺の実績として記録されるはずだ。


 部屋の広さが拡張するかどうかを確かめるためだから、出てきた魔物を倒さないでエスケープボールで脱出するという手もあるが、かなり高価な奉納品は戻って来ないので冒険者ギルドは大赤字になる。どうするんだろう?


 気になったので、それを尋ねる。

「こういう場合は、同じ事象がもう一度起きるまで待つ事になる。光の短剣などという高価な魔導武器など、用意できないからな」


 冒険者ギルドが身銭を切って確認するという事はしないらしい。未確認情報として、こういう事象があったと公示して、同じ事象が起きたら報告させるという事になるようだ。


 報告を終えて帰ろうとした俺に、支部長が質問した。

「覇王級の魔導武器である光の短剣を奉納して、召喚したボーンドラゴンを倒し、何を得たのか興味が有るのだが、教えてくれないか。もちろん、これは任意の質問なので、答えなくともいい」


「凄い魔導武器です。それ以上は秘密にしておきます」

 二つの伝説級魔導武器が融合した光剣クラウ・ソラスは、間違いなく神話級の魔導武器だ。但し、まだ正しい使い方を見付け出していないような気がする。


 冒険者ギルドを出た俺は、屋敷に戻ってメティスと話し始めた。

「光剣クラウ・ソラスで、バジリスクゾンビを倒せると思うか?」

『バジリスクゾンビの『エナジードレイン』が、聖光エネルギーを吸収できるかどうかです。アンデッドとは相反あいはんするエネルギーですから、大丈夫だとは思うのですが』


 光剣が発する光は、ただの光ではなく聖光と呼ばれるものだ。たぶんバジリスクゾンビに有効だと思われるが、『エナジードレイン』が聖光エネルギーも吸収した場合、敗北という事もある。もう一つ攻撃手段が欲しかった。


 他の攻撃手段を考える前に、光剣クラウ・ソラスの威力を確かめる事にした。

 翌日、鳴神ダンジョンへ行った俺は、五層の山岳エリアへ向かう。この山岳エリアには、あちこちに巨岩がある。俺が目指しているのは、全長二十メートルほどの巨岩がある場所だった。


 ちょっとした丘を登り、その天辺まで来ると目的の巨岩が目に入る。黒い色をした花崗岩らしい。かなり丈夫で硬い岩だ。


『この岩で、光剣クラウ・ソラスの威力を試すのですか?』

「そうだ。ちょうどいい大きさだと思う」

 光剣クラウ・ソラスを取り出し両手で構え、魔力を注ぎ込み始める。二本の剣身の間に光が生まれ、それが剣の形になって伸び始める。


 五メートルまで伸びた光の剣は、眩しく輝き脈打つように感じられた。俺は光剣クラウ・ソラスを振り上げ、巨岩に向かって振り下ろす。


 二本の剣を融合したものなので重いのだが、扱えないほど重くはなかった。光の剣身が巨岩に当たると、ヴォンという音を響かせて、岩の粒が聖光の圧力で弾け飛び斬り裂いていく。


 地面にまで食い込んだ光剣クラウ・ソラスの周りに、粉塵が舞い上がる。俺は飛び退いて、舞い上がった粉塵が消えるのを待つ。少しして深さ四メートルほどの傷が刻み込まれた巨岩が姿を見せた。


『凄まじい切れ味というか、威力ですね』

 メティスが感想を言った。俺も頷き同意する。


 しかし、重くなった事により扱い難くなっているので、光剣クラウが持つ能力の一つである『浮身ふしん』が使えないか試してみた。


 風に舞う花びらをイメージしながら光剣クラウ・ソラスに魔力を注ぎ込むと、剣が風に舞うほど軽くなった。


 その状態で巨岩に何度か振り下ろし薙ぎ払う。その斬撃により巨岩が切り裂かれ、いくつかに分割される。

「この威力なら、ドラゴンも切り刻めそうだ」

『ええ、できると思います』


 十分に威力を確かめられたので、地上に戻って屋敷に向かう。屋敷に戻った俺は、作業部屋でメティスと他の攻撃手段について話し始めた。


「前にレールガンの事を話しただろ。膨大な魔力とD粒子を確保すれば、開発できると思う?」

『試してみないと、何とも言えません』

「……そうか、試してみよう」


 俺は賢者システムを立ち上げて、『レールガン』の魔法が開発できないか試してみた。長い砲身をD粒子で形成し、D粒子一次変異の<放電>とD粒子二次変異の<堅牢><分散抑止>を付与する。


 レールガンは並行な二本のレールとなる電極棒に金属を乗せて電流を流し、電磁気力で加速させて射出するものだ。威力を上げるためには大電力が必要となるので、D粒子を一気に電気に変換しなければならない。


 そのためには膨大な魔力が必要であり、あまり効率が良い魔法とは言えなかった。それでも開発を続け、音速を超える初速を得るためには、全魔力量の半分ほどが必要と判明して諦めた。


「レールガンは、完成したとしても実戦的じゃない。D粒子をエネルギー源として<ベクトル加速>で速度を上げた方が効率的だ」

『それだと『エナジードレイン』で魔法が崩壊します。初速を上げるための工夫が必要なのだと思います』


 『エナジードレイン』が問題だった。集めた情報によるとバジリスクゾンビに十五メートルまで近付くと『エナジードレイン』の効果が発生するらしい。


 思っていた以上に、『エナジードレイン』の効果範囲が広いのも、バジリスクゾンビを倒す障害になっている。


『長瀬さんがバジリスクゾンビ討伐に名乗り出たみたいですが、倒せるでしょうか?』

 冒険者ギルドで小耳に挟んだ情報だった。

「魔装魔法使いがバジリスクゾンビと戦うとすると、一気に接近して魔導武器の一撃を入れて離脱するという事を、繰り返すような戦い方になると思う」


『繰り返すのですか……アイデアが浮かびました。レールガンはダメでしたが、磁気を使うという考えは使えると思うのです』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る