第348話 二人目の外国人A級冒険者

「誰か、救急車を呼んでください」

 亜美が声を上げると、学生の一人が大学の方へ走って行った。それを見届けた亜美は、周りからの視線を感じる。


「変に目立っちゃった」

 亜美が困ったような顔をする。それを見て沙雪が、

「亜美ちゃんは、私たちの命の恩人よ」


 その声を聞いた周りの学生たちが、亜美にお礼を言い始めた。

「あれはシャドウパペットなんですか?」

 興奮している様子の男子学生が質問した。

「ええ、熊型シャドウパペットです」


「あの大きさは凄いです。普通は二十キロほどまでだと聞いたんだけど、どうやって手に入れたんです?」

「パゥブは、私の作品です」

「まさか、フランスでもできない事なのに」


 それを聞いて亜美が不満そうな顔をする。

「シャドウパペット製作法を発見したのは日本人ですよ」

「えっ、フランス人だと思っていた」

 最近フランスからシャドウパペットが輸入される事もあるので、勘違いしている者も居るのである。


 亜美は軽トラックに視線を向ける。車の前の部分がオーガプレートによって破壊されているが、運転席は大丈夫である。運転者は気を失っているようだが、何が原因で気を失ったかまでは分からない。


 救急車より先にパトカーが来て、警官に事情を聞かれた。魔法とシャドウパペットによって暴走トラックを止めたと言い、パゥブを見せると納得してくれる。


 やっと解放されて、授業に参加。その授業が終わると、沙雪が話し掛けてきた。

「亜美、私でも生活魔法を覚えられると思う?」

「大丈夫だと思うけど、勉強する気になったの?」


 沙雪が頷いた。亜美が生活魔法を使うのを見て、習得したいと思ったらしい。

「それじゃあ、今度の土曜日に初級ダンジョンへ一緒に行こうよ」

「でも、装備とかないよ」


「大丈夫、私の古い装備を貸して上げる」

 沙雪は生活魔法について亜美から教わり、準備を整えて初のダンジョン探索に行く事になった。


 次の土曜日、亜美が崖下ダンジョンに到着すると沙雪が待っていた。ダンジョンハウスで初めて鎧やアームガード、脛当てを装備した沙雪は動き難そうである。


「これが武器の戦棍よ」

 亜美は予備の戦棍を渡す。先端に複数の棘が付いた戦棍は、凶悪な武器だった。沙雪は恐る恐る握る。


「ここのダンジョンは、弱い魔物しか居ないから、大丈夫よ」

「でも、血吸コウモリや大蜘蛛、ゴブリンも居るんでしょ」

「あんなのは、魔法が使えなくても倒せる相手だから」


 そう言った亜美は、一緒にダンジョンに入った。初級ダンジョンの中には冒険者でなくとも、冒険者が一緒なら入れるダンジョンもある。この崖下ダンジョンもその一つだ。


 一層は起伏の激しい地形をしており、血吸コウモリと大蜘蛛が居る。

「魔物を普通の生き物だと思っちゃダメよ。魔物はダンジョンが作ったもので普通の生き物とは違うんだから」


 亜美は容赦せずに全力で攻撃するように教えた。

 最初に遭遇したのは、血吸コウモリである。亜美は『ロール』を使って回転させて落とすと、トドメを刺すように指示する。


 沙雪は顔を強張らせて何度も戦棍を振り下ろしてトドメを刺す。死んだ魔物が光の粒に分解して消え、地面に魔石が残った。魔物は普通の生き物ではないと亜美が言っていた意味を、沙雪は感じた。


 数匹の魔物を倒すと、沙雪は何かを傷付けるという事に対する嫌悪感が消えた。魔物は特別なんだと思い始めたのである。


 二層に下りて鬼面ドッグを倒した時、沙雪の魔法レベルが『1』になった。亜美と沙雪は手を取り合って喜んだ。目的を達成した二人は地上に戻り、冒険者ギルドへ行って沙雪が冒険者になった。


 と言っても、G級なので初級ダンジョンしか入れない。それでも沙雪は喜んだ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 渋紙市に二人目の外国人A級冒険者が来た。アメリカ人のクレイグ・サムウェルである。ランキング四十三位のサムウェルは、魔装魔法使いであり神話級魔導武器『レヴァティーン』を所有している。


 渋紙市の冒険者ギルドに現れたサムウェルは、近藤支部長に会うと鳴神ダンジョンの十一層の様子を尋ねた。


「前回、長瀬君が行った時には、五個しか採取できませんでした。ダンジョンであっても、蟠桃が熟すには時間が掛かるようです」


 モンタネールが蟠桃の森に行った後、ソロの長瀬がナメクジ草原を突破した。その時は石橋チームの真似をして、即席装甲車を使ったようだ。ただ長瀬は魔装魔法使いなので遠距離攻撃できないはずだが、前方に回り込んだランニングスラッグをどうやって始末したのだろうと話題になった。


 近藤支部長は、長瀬が何らかの遠距離攻撃手段を持っていると考えている。


 支部長との話が終わり、サムウェルが帰ろうとした時、何かに気付いた様子で訓練場の方へ視線を向ける。

「A級の誰かが来ているのかね?」

「たぶん、モンタネール氏が訓練場で練習しているのでしょう」


 それを聞いたサムウェルは、訓練場に向かう。支部長の予想通り、訓練場ではモンタネールが剣の練習をしていた。


 その訓練場に進み出たサムウェルが、モンタネールに声を掛ける。

「久しぶりだね」

 モンタネールはサムウェルの顔を見て、不機嫌そうな顔になる。


「ああ、前回会ったのはインドだから、二年前になる」

「あの時は、私が先に『賢者の石』を手に入れて、君は手ぶらで戻ったんだったね」


 サムウェルがそう言った直後、モンタネールの身体から闘志と一緒に魔力が溢れ出す。それに反応してサムウェルの身体からも闘志と魔力が溢れ出し、サムウェルの後を付いてきた支部長は息苦しく感じた。


 その溢れ出た魔力は冒険者ギルド全体に影響を与え、受付の前にある待合室に居た冒険者たちが訓練場へ集まってきた。


「や、やめてくれ。ここは冒険者ギルドなんだぞ」

 支部長が力を振り絞って大声を出すと、二人の身体から溢れ出ていたものが止まった。


 野次馬たちがガヤガヤと騒ぎ始める。

「今のは、A級二人から溢れ出た魔力だったのか、おれはドラゴンが現れたのかと思った」

「ああ、凄まじい魔力量だ。A級は半端ないんだな」


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