第349話 砂漠エリアの砂巨人
A級冒険者二人がギルドで起こした騒ぎを、俺は根津から聞いた。根津は魔石を換金に行った時に、他の冒険者から聞いたようだ。
「A級二人の身体から魔力が溢れ出したのは、どういう事なんでしょう?」
「それは戦いを予感した二人が、ウォーミングアップを始めたんだよ」
根津が首を傾げた。
「戦いのウォーミングアップというのは何です?」
「大量の魔力を体内で動かして、脳や筋肉をクリアにしているんだ。魔力を体内で動かすと脳が活性化する事は教えただろ。あれを大量の魔力でやると脳だけでなく筋肉も最高の状態になる。魔装魔法使いは『クリアにする』というらしい」
もちろん、普通の魔装魔法使いがウォーミングアップを始めても、身体から魔力が溢れ出すという事はない。だが、A級ほどの強者がウォーミングアップをすると、膨大な魔力を体内で動かす事で魔力が溢れ出すようだ。
「グリム先生もできるんですか?」
「できるけど、ちょっと変な事になるから、普通はやらない」
根津は、変な事と表現したのを騒ぎになると解釈したようだ。
「それよりレベリングは順調?」
「はい、やっと魔法レベル7になりました」
「魔法レベル7というと、『サンダーアロー』と『オーガプッシュ』が習得できるな。『オーガプッシュ』は、中級ダンジョンの中層で戦術の基礎になるから、早撃ちの練習を十分にするように」
「分かりました」
根津との話を終えた俺は、冒険者ギルドへ行った。鳴神ダンジョンの十一層に関する情報を得るためである。その冒険者ギルドでは、十二層への階段が発見されたとざわついていた。
「十二層への階段が見付かったくらいで、何で騒ぎになっているの?」
俺は受付のマリアに質問した。
「十二層は砂漠エリアだったらしいのですが、そこに砂の巨人『サンドギガース』が棲み着いているらしいのです」
サンドギガースは冒険者たちに嫌われている魔物である。その体が砂で出来ており、攻撃しても致命傷を与える事が難しかったからだ。
但し、サンドギガースを倒すと魔石リアクターをドロップする事があり、それを狙ってサンドギガースを倒そうとする冒険者も居る。ただ倒すにはサンドギガースの体内にあるサンドハートと呼ばれるゴルフボール大の水晶のようなものを壊さなければダメだという。
そのサンドハートは体内のどこにあるかが不明で、倒すには全身を吹き飛ばすしかない。ランニングスラッグの対処法と似ているが、急所となる場所が特定されていない事と身長五メートルという体の大きさで、ランニングスラッグより倒すのが難しいそうだ。
「魔石リアクターは欲しいな」
ダンジョンで手に入る魔石リアクターは、黄魔石を魔力か電気に変換する機能が有る。様々なものに使えるので、俺は欲しいと思っていた。
これは早い者勝ちかもしれない。リポップした魔物のドロップ率は下がるので、ダンジョンが発生した時に誕生した魔物を倒した場合の方が、ドロップ品を手に入れやすいのだ。
俺はダンジョンに行く準備をして、鳴神ダンジョンへ向かった。
一層の転送ルームから十層へ移動して、十一層に行く。ナメクジ草原を観察してから、ホバービークルを取り出した。魔力バッテリーは魔力充填済みなので往復に十分なはずだ。
影からエルモアを出すと一緒にホバービークルに乗り込み浮上させ、エアジェットエンジンを起動する。ゴーという音を響かせて、ホバービークルが進み始める。
『どのくらいでナメクジ草原を突破できるでしょうか?』
「俺としては、一時間ほどで突破したい」
『ホバービークルの性能を考えると、大丈夫でしょう』
間もなくランニングスラッグの群れと遭遇。前方の草原に広がっていたランニングスラッグが、ホバービークル目掛けて走り始めた。
俺が左に操縦桿を倒すと、ランニングスラッグたちも一斉に左へ進路を変える。ホバービークルの方が速いのだが、ランニングスラッグの群れから逃げるのは難しい。
もちろん、後進すれば逃げられるのだが、それでは意味がない。俺は横に並んだランニングスラッグたちを見て、一番間隔が開いている場所に居るランニングスラッグを目指して進み始めた。
ランニングスラッグの一匹一匹がはっきり見えるようになると、俺は『ガイディドブリット』を発動。進行方向に居るランニングスラッグの頭にロックオンしてD粒子誘導弾を放つ。
D粒子誘導弾がランニングスラッグの頭を消し去った。倒したランニングスラッグが開けた穴を、別のランニングスラッグが埋めようと寄って来る。
『ぶちかましボタン』を押して、背伸びしたランニングスラッグにホバービークルを体当りさせた。衝撃は感じず、双方の運動エネルギーを叩き返されたランニングスラッグが縦回転しながら宙を飛ぶ。
「いいぞ。これなら短時間でナメクジ草原を突破できそうだ」
『これをオークションに出せば、凄い高値で落札されそうですね』
「これで商売するつもりはないよ」
それから三つのランニングスラッグの群れと遭遇したが、ホバービークルのスピードを活かして突破した。ナメクジ草原を突破した俺たちは、蟠桃の森とは反対方向に向かう。そちらに階段があるのだ。
階段を下りて十二層に到着。そこは砂だらけの場所だった。
「暑いな。体力を消耗しそうなところだ」
エルモアは砂漠を見詰めていたが、急に腕を上げて指差した。
『あれはサンドギガースではないですか?』
エルモアが指差した方向を見ると、何かが動いている。
「確かめよう。ホバービークルで行く」
俺はホバービークルを出して、エルモアに操縦させた。練習してできるようになっていたのだ。
ホバービークルが動いている物体に近付くと、それがサンドギガースだと分かった。砂粒が何かの力で塊となり、巨人の姿を形成している。
俺は試しに『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを砂の胸に向かって放った。D粒子振動ボールが胸に命中して空間振動波が穴を開けたが、平然と俺に向かって来る。
「ダメージゼロみたいだな」
『厄介な魔物のようです』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます