第343話 天音の蒼銀採掘

 天音とリザードソルジャーの戦いを見ていた前島が溜息を漏らす。

「母里さんの生活魔法は凄いと聞いていたが、本当に凄いな。僕も生活魔法を習得しようかな」


「生活魔法は、ダンジョンの外でも使えるものがありますから、便利ですよ」

「へえー、どんな魔法なんだい?」

「『ノーズクリーン』『イヤークリーン』『Dジャッキ』『Dクリーン』です。あっ、最近、『パペットウォッシュ』という生活魔法が魔法庁に登録されたんですが、便利ですよ」


「ふーん、掃除関係の魔法? と何かを持ち上げる魔法か。『パペットウォッシュ』というのは、もしかしてシャドウパペットを洗う魔法?」


「そうです。シャドウパペットを洗う魔法なんですが、人も洗えるんですよ。野営の時には便利です」

 ユリアは羨ましそうな顔をした。


「ところで、前島さんは生活魔法の才能が有るんですか?」

「僕は『D』なんだ。魔装魔法の才能も『D』だったんで、魔法学院では魔装魔法を勉強したんだよ」


 前島が魔法学院に通っていた頃は、生活魔法の基礎を一年の時だけ習うだけだったはずだ。魔装魔法を選んだのは仕方ないだろう。


 九層の中ボス部屋で野営する事になり、天音はマジックバッグから、自分の野営道具を取り出した。

「やっぱり、それはマジックバッグだったんだ」

 マジックバッグだという事はユリアにしか言っていなかったが、前島たちは推測していたようだ。ダンジョンに中途半端な大きさのショルダーバッグを持ってくる者は少ないからだろう。


 普通は大型のリュックのようなものが定番である。今回は蒼銀のような重いものを持ち帰るのだから、当然、他の三人はリュックを背負っている。


 最後に猫型シャドウパペットのハンクを影から出した。ユリアと前島が寄って来る。

「シャドウパペットは、どれくらいで買えるんだろう?」

 前島は自分のシャドウパペットが欲しいようだ。

「安いものでも、数百万を超えます。ソーサリーアイやソーサリーイヤーを使いますから、高額になるんです」


 ソーサリーアイを作れる魔導職人の数も少ないので、どうしても高額になるらしい。それに日本ではシャドウパペットを作製できる者が少ないので、余計に高額になる。

「はあっ、無理だな」

「材料を自分で調達して、自分で作れば安くなりますよ」


 前島が肩を竦める。

「まだソーサリーアイは、作れないよ。母里さんは魔導職人を目指しているの?」

「冒険者をやりながら、技術を磨こうと思っているんですが……将来は決めていません」


 三谷教授のゼミに入ったのは、教授がソーサリーアイの研究者だからである。ソーサリーアイを作るには、付与魔法の魔法レベルを上げて、『フォトンエレメント』という付与魔法を習得する必要が有る。


 これは魔法レベル12で習得できるものなので、魔法レベル7の天音も頑張って上げる必要があった。


 問題なのは付与魔法の魔法レベルを上げる方法だった。その方法は一つしかなく、魔法を付与した武器で魔物を倒すというものだ。


 魔装魔法にも武器を強化する魔法があるが、付与魔法による武器への付与は魔装魔法と原理が違うようだ。魔装魔法は武器を魔力で覆い切れ味を強化したり貫通力を上げたりするものだが、付与魔法は魔物に打撃が当たった瞬間に相手の防御力を下げる効果を発揮するものが有名である。


 武器自体を強化する付与魔法も存在するのだが、それは魔法レベルが『10』以上に上がらないと習得できない。


 夕食を食べ付与魔法について話した後、大型の猫のようなハンクを見張り番として天音たちは眠った。起きると天音の横に添い寝するようにハンクが寝そべっており、天音が起きたのを見て身体に顔を擦り寄せる。


「何もなかったみたいね」

 起きた天音は、お湯を沸かし始めた。その気配を感じて、他の皆が目を覚ます。

「おはようございます」


 天音が声を上げると、三人が挨拶を返した。そして、朝食を食べて出発する。十三層までは順調に進み、十三層の砂漠エリアを見回した天音たちは、相談を始めた。


「生活魔法使いは、こういう砂漠をどう進むの?」

 ユリアが尋ねた。

「魔法レベル8以上なら、『ウィング』を使って飛びます」

「やっぱり飛ぶのね。便利過ぎる」


「一緒に飛びましょうか?」

「できるの?」

「『フロートボックス』という魔法がありますから、それを使いましょう」

 天音は自分も歩きたくなかったので、『フロートボックス』を提案した。御蔭で楽に砂漠エリアを通過する。


 十四層の湖エリアは、前島が安いゴムボートを用意したようだが、天音がアリサたちと共同で購入した冒険者用ゴムボートを使う事を提案する。


「そのボートだと、マーマンの槍の攻撃で沈みそうで不安です」

「安物なので仕方ないけど、これでも少しくらい突かれても大丈夫なように作られているんだよ」


 結局、天音が用意した冒険者用ゴムボートを使う事になった。このゴムボートはボートの外側をブラックゲーターの革で覆っており、マーマンやブラックゲーターは攻撃しないと言われている。それに高性能な電動船外機を使って推進するようになっていた。


 冒険者用ゴムボートは、魔物に攻撃される事なく湖エリアを渡りきった。ちなみに、このボートは魔力を消耗したくない時に使う予定だったものだ。


 その日のうちに十九層まで到達。目の前に広がる雪と岩のエリアを見て、全員が防寒着を着る。少し進んだ時にスノーレオパルトと遭遇し、天音が警告の声を上げる。


「うわっ、気付かなかった」

 前島が驚く。雪のように白い豹は、周りが白いと発見するのが難しくなる。天音が発見できたのは、D粒子センサーに反応したからだ。


 一度発見すれば倒すのは難しくない。四人で協力して倒すと、蒼銀の鉱床へ進んだ。鉱床に到着した四人は蒼銀の鉱石を掘り出す。この採掘の作業さえなければ、天音一人で来た方が効率が良かった。


 ある程度鉱石が溜まってから、天音が『ピュア』を使って蒼銀を抽出する。砂のような蒼銀の粒が三キロほどになった。


「このくらいでいいだろう。予定より多い量が確保できた」

 前島が声を上げる。予定では一キロほどを採掘するつもりだった。片付けてから、十九層から戻り十八層を通過して十七層に上がる。


 階段の前に二匹のキュクロープスが待ち構えていた。この巨人の魔物とは戦わないというのが、ベストな選択なのだが、階段の前に居座られると避けて通れない。


 三谷教授はこういう状況のために天音に同行して欲しかったらしい。天音ならキュクロープスくらいなら集団でも倒せると分かっていたからだ。そうでなければ、C級を名乗る資格はなかった。


「自分がキュクロープスを惹き付けますから、その隙に十六層へ上がる階段へ向かってください」

 ユリアが心配そうな顔をする。

「大丈夫なの?」

「心配要りません」


 そう言うと、階段から飛び出し左の方へ向かった。それに気付いたキュクロープスが追い掛け始める。ユリアたちは、その隙に逃げ出す。


 キュクロープスが戦っている最中に仲間を呼び始めた。天音は顔をしかめ、『クラッシュボール』を連続で発動してD粒子振動ボールを撒き散らす。


 巨大な上に動きが鈍いキュクロープスは、避ける事ができずに胸や頭に被弾して命を落とす。一撃で倒すだけの攻撃力が有れば、単眼の巨人など問題ではないと思った時、キュクロープスより一回り大きな巨人の姿が目に入る。


「キュクロープス? じゃないよね」


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