第344話 巨人のドロップ品

 通常のキュクロープスは身長五メートルほどだが、目の前に居る化け物は身長が八メートルほど有りそうだ。しかも大きな盾と剣を持っている。


 単眼で巨人という共通点は有るのだが、その他は違っているように感じる。その化け物が天音に向かって巨大な剣を振り下ろす。天音は剣に向かってセブンスオーガプッシュを発動し、オーガプレートを打ち上げた。


 『サンダーバードプッシュ』も使えるのだが、咄嗟の場合は使い慣れた『オーガプッシュ』の方が出てしまう。


 オーガプレートは剣と衝突し、軌道を逸らした。天音は跳ね返せると思っていたのだが、予想以上に化け物のパワーは凄まじいようだ。


 剣が地面にめり込んで止まる。天音は『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを化け物の胸に向かって飛ばす。それに気付いたようで、盾を突き出して弾いた。


 弾かれたD粒子振動ボールは、空間振動波を放射して盾に穴を開けるが、化け物の巨体を傷付ける事はなかった。それを見た天音は、クイントカタパルトで身体を右上に投げ上げる。


 空中で魔法が解除され、クイントコールドショットを発動しD粒子冷却パイルを化け物の頭に放つ。頭を狙ったのだが、少し逸れて耳を貫通したD粒子冷却パイルは、ストッパーが開いて耳を引き裂いた。


 その痛みで化け物が叫び声を上げる。それが音圧となって天音の鼓膜を痛め付けた。『エアバッグ』を使って着地した天音は、顔をしかめて移動する。


 それを化け物が追い掛けてきた。殺気を感じて後ろを振り向くと、剣で天音の身体を薙ぎ払おうとしている。もう一度クイントカタパルトで真上に身体を放り投げる。


 五重起動の『バーストショットガン』を発動し、三十本の小型爆轟パイルを化け物の頭から胸に掛けて放つ。化け物は巨大な盾で防ごうとしたが、剣を薙ぎ払った体勢で盾を振り上げようとしたのでバランスを崩す。


 そこを三十本の小型爆轟パイルが襲う。バランスを崩したせいで狙いが逸れたが、肩から胸に掛けて小型爆轟パイルが突き刺さり爆発した。


 これくらいでは仕留められないと直感した天音は、『クラッシュボール』を連続で発動しD粒子振動ボールをばら撒く。その一個が化け物の胸に命中。


 空間振動波が化け物の胸を貫通する。

「ここでトドメを刺さなきゃ」

 『エアバッグ』を使って着地した天音は、五重起動の『ブローアップグレイブ』を発動。巨大なD粒子の武器が形成され、その刃を巨大な首を目掛けて振り下ろす。


 深い傷を負った化け物は、その速さに対応できなかった。西洋の薙刀であるグレイブに似た刃が化け物を袈裟懸けに斬り裂いた。その刃が肺の辺りまで食い込んで止まり爆発する。


 化け物の身体が二つに分かれバラバラになって消える。

「はあはあ……この化け物はなんだったの?」

 キュクロープスが集まってくるかもしれないので、急いでドロップ品を探す。キュクロープスの魔石と化け物の魔石、それに指輪と本を発見して回収する。


「もしかして、魔導書? そうだったら……いけない、こんな場所で本を読み始めたら、危険よ」


 天音はドロップ品を仕舞うと前島たちに急いで追いつこうと思い、『ウィング』を発動しD粒子ウィングが形成されると手早く鞍を装着して跨がり飛び上がった。


 前島たちが進んだと思われる進路を辿って飛ぶ。階段までの半分ほどを飛んだ時、前島たちの姿が見えた。天音は前に回り込んで着地した。


「良かった。無事だったのね」

 ユリアが駆け寄って天音の手を取ると喜びの声を上げる。前島たちも喜んでくれた。

「キュクロープスは倒したのか?」


「ええ、全部倒しました。ただキュクロープスより一回り大きな巨人が出て来て、そいつには手子摺てこずったんですよ」


 前島たちが首を傾げる。

「そんな化け物が、十七層に居るなんて、聞いた事がないけど宿無しかな」

「そうかもしれません」

 天音たちは地上へ戻り始めた。途中で二回野営して地上へ戻ると、冒険者ギルドへ向かう。あの化け物の事を報告しようと思ったのだ。


 天音が受付で報告すると支部長に呼ばれた。支部長室へ行くと近藤支部長と加藤が待っていた。

「見た事がない巨人と戦ったと聞いたが、どんな魔物だったのかね?」

 天音が詳しく説明すると、支部長が頷いた。


「そいつは、ポリュペーモスだな。ギリシャ神話に出て来る巨人にちなんで名付けられたのだが、珍しい魔物のはずだ。倒したのなら、ドロップ品も凄かったんじゃないか?」


 答える必要はなかったが、魔導書の魔法を魔法庁に登録すれば気付かれる事なので、報告する事にした。天音は指輪と本を取り出す。

「それは魔導書なのか?」

 支部長が驚いた顔をする。


 地上に戻ってからチラッと中身を確かめたのだが、魔導書だった。天音は嬉しそうに笑う。

「ええ、付与魔法の魔導書でした。こっちの指輪を鑑定してもらえますか?」

 天音は指輪を加藤に渡す。加藤は『アイテム・アナライズ』で鑑定した。


「この指輪は『不動明王の指輪』です。パワーを六倍にする効果があります」

「凄い魔導装備だな」

 支部長が言う。確かに凄いが、使い勝手がいいか確かめてみないと分からないと天音は思った。


 報告を終えて、前島たちのところに戻ると、不要な魔石の換金が終わったところだった。付与魔法で使用する魔石は研究室に持って行く事にして、黄魔石などは換金したようだ。


「天音ちゃん、支部長との話は終わったの?」

 ユリアの質問に、天音が頷く。

「終わりました。そうだ、蒼銀は渡しておきます」

 天音は革袋に入った蒼銀を前島に渡した。この量だとゼミで使う三年分になるらしい。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 天音が水月ダンジョンから戻った翌日、俺が屋敷でのんびりしているとアリサたち四人が訪れた。

「先生、魔導書です。魔導書を手に入れたんです」

 興奮した様子の天音から説明を受けて、水月ダンジョンでポリュペーモスという巨人の魔物を倒して、指輪と魔導書を得た事を知った。


 天音は魔法文字を読めないので、俺とアリサが協力して翻訳する事になった。アリサは大学で魔法文字を勉強して読めるようになったらしい。

「天音は運がいいな」

 由香里が羨ましそうに言った。アリサと千佳も頷く。


「そんな大物と戦った感想は?」

 俺が尋ねると、天音が考えてから、『カタパルト』の移動距離が少なくて戦い難かったと答えた。


 その件については、俺も考えていた。『カタパルト』の移動距離は十メートルだが、大型の魔物と戦う時には不足なのである。


「それについては、新しい魔法を考えてみよう」

「グリム先生は、何をしていたんですか?」

「蟠桃を取りに行った後は、水陸両用の乗り物について研究していた」


 アリサがジッと俺の顔を見る。

「もちろん、食べたんですよね。全然、変わらないように見えますけど」

「食べた時に熱が出たけど、若いと外見は変わらないようだよ。ただもの凄く美味しい桃だった」


 アリサたちが顔を見合わせた。美味しいと聞いて、取りに行く気になったようだ。

「取りに行くには、ナメクジ草原が問題ですね」

 アリサの言葉に、俺は頷く。

「それで水陸両用の乗り物について、考えていたんだよ」


 聞いていた天音が、魔導書を研究すれば水陸両用の乗り物に利用できる魔法も有るかもしれないと言い出す。十分考えられる事なので、俺とアリサは先に魔導書の翻訳を進める事にした。


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