第335話 C級冒険者の清水
エルモアの作製を手伝った鉄心は、自分もシャドウパペットが欲しいと思うようになった。
「大きなシャドウパペットは難しいようだから、猫型にするか。そうなると、水月ダンジョンの三十一層でダークキャット狩りをしなきゃならねえな」
鉄心チームで行こうと思ったが、今回の探索は私的な目的なので鉄心一人で行く事に決める。三十一層までに遭遇する魔物について復習し、目的のダークキャットについて調べる。
資料室でダークキャットの資料を読んでいると、魔法学院時代の同級生が入ってきた。清水健介という攻撃魔法使いで、魔法学院をトップの成績で卒業し東京へ行った冒険者だ。
「小野鉄心だろ、久しぶりだな」
鉄心は清水の顔を見て、顔を曇らせる。苦手な男だったのだ。
「清水か、東京へ行ったんじゃないのか?」
「まあな。目的が有って戻ってきたんだ。小野はまだ水月ダンジョンでもたもたしているのか。新しい上級ダンジョンが発生したそうじゃないか」
「将来は鳴神ダンジョンで活動するつもりだ」
「ふーん、D級になったのか、まさかE級のままじゃないだろうな」
鉄心は嫌な奴に絡まれたと感じて、溜息を漏らす。
「D級だ。実績が溜まったら、C級の昇級試験を受けるつもりだ。清水はC級になったんだよな。鳴神ダンジョンに潜るのか?」
清水が首を振る。
「いや、水月ダンジョンの三十二層へ行く。アイアンゴーレム狩りだ」
それを聞いて鉄心は納得した。ゴーレムコアを集めに来たのだ。アリサが発表した論文の影響だろう。
「小野はどこで狩りをするんだ?」
「三十一層だ。ダークキャット狩りをする」
「ほう、シャドウパペットの関係か。それなら一緒に行こうじゃないか。その方が安全だろう」
「いや、おれは一人の方が気楽でいい」
「そう言うなよ。水月ダンジョンには不案内なんだ。昔の友人を助けると思って付き合ってくれよ」
「それなら、おれの指示に従うのか?」
そう言われた清水がムッとした顔をする。指示には従いたくないらしい。
「C級冒険者が、D級に従うのはおかしいだろう。仕方ない別の案内役を探すよ」
案内役を雇っても指示に従わないのなら意味がないと鉄心は思ったが、清水の事などどうでも良い。ダークキャットの事を調べて資料室を出た。
翌日、鉄心は一人で水月ダンジョンへ向かった。ダンジョンハウスで着替えて外に出ると清水がダンジョンに入るところだった。
「一緒に来る事にしたのか?」
「残念ながら違う。偶然、出発が一緒になっただけだ」
清水と一緒に居るのは、なぜかタイチだった。
「タイチ、何で清水と一緒なんだ?」
「何でと言われても、冒険者ギルドの紹介なんです」
三十一層に用が有って行くつもりだったタイチを、冒険者ギルドが清水に紹介したらしい。
「三十一層というと、もしかしてダークキャットか?」
「そうです。アリサさんたちのシャドウパペットを見て、僕も欲しいと思ったんです」
「タイチもかよ」
鉄心は自分も同じだと伝える。
「それなら一緒に行きましょうよ」
「清水は案内役の指示には従わないと言ったんだぞ」
タイチが清水に視線を向ける。
清水はそれがどうしたという顔で、鉄心に言った事をタイチにも言う。それを聞いたタイチは顔をしかめたが、割り切った。
「いいじゃないですか。こちらの指示に従わずに、何かあっても自己責任ですよ。案内役であって護衛役じゃないんですから。それより鉄心さんも一緒に行きましょうよ」
それを聞いた清水はタイチを睨んだが、タイチは平気な顔をしている。それを見て、鉄心は清水たちと一緒に行く事にした。
「君たちはC級に対する尊敬の念というものはないのかね?」
清水が文句を言う。鉄心が代表して答える。
「尊敬して欲しければ、実戦で実力を示してくれ」
不満そうな顔の清水は、ダンジョンに入った。鉄心とタイチも入る。タイチは下層への最短ルートを案内した。途中で遭遇したオークやリザードマンは、鉄心とタイチが生活魔法で倒した。
「なぜ、鉄心が生活魔法を使っているんだ?」
清水が不思議に思ったようで尋ねる。
「生活魔法は習得するだけの価値がある、と思って勉強しただけだ」
タイチと鉄心は、『プッシュ』と『コーンアロー』だけで魔物を倒している。魔力消費を抑えるためだが、清水はそれを見て生活魔法は発動が早いが、威力は大した事がないと思ったようだ。
その日は九層の中ボス部屋で一泊し、二日目は順調に進み十三層の砂漠エリアまで到着した。砂漠を目にした鉄心は二人に確認する。
「この砂漠、どうやって渡る」
「歩くと大変ですよ。僕が『フロートボックス』を使います」
「『フロートボックス』? 何だそれは?」
清水は生活魔法について、ほとんど知らないようだ。タイチたちがアーマーボアを『ハイブレード』で倒した時には、こんな威力が有る魔法も有るのか、と驚いていた。
タイチが『フロートボックス』を発動し、空中に浮かぶ箱型のD粒子フロートボックスが現れると、清水が不安そうな目で見る。その清水を乗せて飛び十三層を通過する。
十四層の湖を清水所有の船で渡り、十八層の峡谷エリアに到着。
「ここの道は、ムサネズミが出るので、俺たちは崖下まで飛ぶ事にしているんだが、『フライ』はできるんだよな」
清水が魔法レベル13で習得できる『ソードフォース』でキュクロプスを倒したのを見ている鉄心は、魔法レベル12で習得できる『フライ』は習得しているだろうと考え確認した。
「当たり前だ。だが、ムサネズミくらいを怖がってどうする。堂々と崖際の道を下りればいい」
『『フライ』を習得しているのなら止めないが、任せるよ』
「ふん、ムサネズミごときに突き落とされる訳はないだろ」
鉄心とタイチは、『ウィング』を使って空中に飛び出した。残った清水は崖を削って造られたような坂を下り始めたが、その崖に開いた穴からムサネズミがいきなり飛び出して体当りしようとするのには驚いたようだ。
ムサネズミ自体は、強い魔物ではない。清水の『ショットガン』で簡単に仕留められる。但し、穴から飛び出すムサネズミに反応できなければ、大変な事になる。
鉄心たちはD粒子ウィングに乗って、清水の行動を見守っていた。穴から飛び出したムサネズミを避けてホッとしたところに、別のムサネズミが飛び出して清水を崖から突き落とす。
「うわああー!」
清水が叫び声を上げ、もう少しで地面というところで『フライ』を発動させる。それを見ていたタイチが鉄心に視線を向けた。
「清水さんは面白い人ですね。昔からこうだったんですか?」
タイチは『やめろ、やめろ』と注意されても、やってしまうお笑い関係の人に似ていると思った。
「昔はカッコ良かったんだが、東京で暮らしている間に、面白い冒険者に変わったようだ」
清水は東京での冒険者生活に限界を感じて、故郷に戻ってきたのかもしれないと、鉄心は思った。清水にはC級冒険者となるのが、早すぎたのかもしれない。
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