第336話 清水VSアイアンゴーレム

 崖下に下りた鉄心とタイチは、清水のところへ行った。

「おい、大丈夫か?」

 鉄心が尋ねると、清水が憮然とした顔をしている。


「当たり前だ。さあ、行くぞ」

 清水は無理に平気な顔をして進み始めた。鉄心とタイチは、その後を追い掛ける。

「鉄心さん、清水さんとはどういう知り合いなんですか?」


「清水は魔法学院時代の同級生だ」

「あれっ、鉄心さんは大工から冒険者になった、と聞いていたんですけど」

「魔法学院を中退して、大工見習いになったんだが、結局冒険者になる事を諦められなかったんだ」


 鉄心は冒険者になるために苦労したようだ。

「鉄心さんは、C級の昇級試験を目指すんですよね?」

「まあ、そうだ」

「だったら、僕と一緒にファイアドレイクを狙いませんか?」


 鉄心は渋い顔になる。

「ファイアドレイクか、ちょっと荷が重いな」

「もちろん、すぐにという訳ではないです。グリム先生に鍛えてもらって、もっと強くなってからファイアドレイクを狙うんです」


「おれとタイチの二人でか?」

「そうですね。カリナ先生や亜美、シュンも一緒にチームを組んでもいいです」

「ほう、そこまで考えているのか。もっと強くなってから、と言っていたが、その目安は?」


「アリサ先輩たちは、魔法レベル14になってから、ファイアドレイク狩りを行いました。僕たちもそれくらいまで強くなる必要があると思っています」


「待ってくれ。おれの魔法才能は『D』だから、魔法レベル10までしか上げられないぞ」

「鉄心さんやカリナ先生は、地上で待機して落ちてきたファイアドレイクを仕留める役目になります。これには『クラッシュボール』が使えれば十分です」


 鉄心は納得して頷いた。それを聞いていた清水が鼻を鳴らす。

「ふん、自分たちならできると思っているようだが、ファイアドレイクは、そんな生易しい相手じゃないぞ」

 タイチが清水に視線を向ける。


「清水さんは、ファイアドレイクと戦った事が有るんですか?」

「ああ、私は四人の攻撃魔法使いとチームを組んで、ファイアドレイク狩りをした。その最中に一番勇敢だった二人が死んで、残りで倒したんだ。それほどファイアドレイク狩りはリスクが高いんだぞ」


 タイチが首を傾げる。

「狩りに危険が有るのは、いつもの事です。ファイアドレイク狩りだけが特別じゃない。そのリスクを小さくするために、どれだけ準備をするかが大事だと、グリム先生から教わりました」


 鉄心は頷いた。

「まあ、その通りだ。但し、グリム先生が、それを実行できているかは怪しい。時々、感情と直感で突っ走る事も有るからな」


「それは認めますけど、グリム先生の直感は正しい事がほとんどです」


 タイチの言葉を聞いた清水が、面白くなさそうな顔をする。

「そのグリム先生というのは、A級になった生活魔法使いの事か?」

 鉄心が清水に顔を向ける。

「そうだ。おれたちに生活魔法を教えてくれた恩人だ」


「若くしてA級になったほどの天才なら、真似なんかしない方がいいぞ」

 その口ぶりからして、真似をして痛い目に遭ったらしい。そのせいでひねくれたのだろうか。


 鉄心が溜息を漏らす。

「おれたちは初めからグリム先生の真似なんかするつもりはないさ。グリム先生は一人でファイアドレイクを仕留めたんだぞ」


 それを聞いた清水の顔が強張った。

「嘘だ。あのファイアドレイクを一人で倒すなんて」

「嘘じゃない。これまでにアースドラゴン・アクアドラゴン・シルバーオーガを一人で倒しているんだぞ。真似なんてできるもんか」


「だったら、どうしてファイアドレイクを倒そうという話をしているんだ?」

「ファイアドレイクを倒せたのは、グリム先生だけじゃない。弟子の四人組チームも無傷で倒しているんだ。それだけの戦力を生活魔法使いのチームで編成できる」


「信じられないな。生活魔法が発展を始めたのは、ここ数年の事だろう。攻撃魔法使いより上だとは思えない」


 生活魔法と攻撃魔法に上下関係が有る訳ではない。冒険者の技量と戦術により実力差ができるだけだと鉄心は思っていた。清水の言う事など気にしないで進もうと鉄心は思う。


 それから二十層と三十層で野営して、まず三十一層でダークキャット狩りをする事にする。鉄心とタイチは、ダークキャット狩りを行い、それぞれがシャドウクレイ二十キロほどと十数個の影魔石を手に入れた。


 その後、三十二層に行った鉄心たちは、洞穴へ行ってアイアンゴーレムの群れを見付ける。

「ほら、希望していたアイアンゴーレムだ。思う存分狩りを楽しんでくれ」


 鉄心に言われた清水は、三十体ほどのアイアンゴーレムを見詰める。

「ちょっと待て、本当に三十体以上居るじゃないか」

「冒険者ギルドの資料にも書いてあっただろ」


「生活魔法使いのチームが殲滅したと書かれていたから、今はもっと少ないかと思っていた」

 群れを討伐した後、リポップは一斉に起きる訳ではなく少しずつ増えるのが普通だった。清水もそう思っていたようだ。だが、ここのアイアンゴーレムはすぐにリポップして、元の数に戻るようである。


 あの洞穴の奥に秘密が有るようだが、中は高温過ぎて調べに行けない。

「どうする。おれたちも手伝おうか?」

 清水がジロリと鉄心を睨む。

「不要だ。これくらいなら、私一人で十分だ」


 鉄心は強がりを言っているような気がして、もう一度確かめる。

「本当に大丈夫なのか? 無理をしない方がいいぞ」

「五月蝿い。大丈夫だと言っただろ」


 清水はアイアンゴーレムに向かって進み出た。

 その後ろで鉄心とタイチは見守っている。タイチが鉄心に話し掛けた。

「清水さんは、どういう魔法でアイアンゴーレムを倒すと思いますか?」


 鉄心が考えてから口を開く。

「そうだな。『デスショット』で胸の弱点を狙うか。爆発系の魔法を使うんじゃないかな」


「広範囲を焼き尽くす『フレアバースト』はどうでしょう?」

「爆発の中心部なら、鉄を溶かすほど高温になると聞いた事が有るが、それは中心の直径十メートルほどだけだそうだ」


「ダメか。『クラッシュボール』のような魔法はないんですかね?」

「さあ、そこまで詳しくないからな」


 そんな事を話していると、清水とアイアンゴーレムの戦いが始まる。初めは『デスショット』で一体ずつ倒していたのだが、アイアンゴーレムを倒す速度よりアイアンゴーレムが集まる速度が速く、清水は追い詰められていった。


「ちょっとまずいんじゃないですか?」

 タイチが心配そうな顔で言う。それを聞いた鉄心が首を傾げる。

「C級冒険者なんだから、これくらいじゃ大丈夫だろう」


 清水が何か魔法を使った。その身体の周りに白い膜のようなものが現れ、第二の皮膚のように張り付いた。

「あれは『ホワイトアーマー』だな。攻撃魔法としては珍しい防御系の魔法だ」


「防御力を高めてから、何をするつもりでしょう。まさか『フレアバースト』という事はないですよね?」

「『フレアバースト』はないだろう。どうして『フレアバースト』なんだ?」

 タイチが照れたように笑う。

「僕はまだ一度も見た事がないんです」


 鉄心が苦笑する。

「なんだ、見たいだけなのか。それだったら、『フレアバースト』はダメだと叫んだらどうだ。あいつは天の邪鬼だから、『フレアバースト』を使うかもしれないぞ」


 鉄心は冗談で言ったのだが、タイチが張り切って声を上げ始める。

「慎重に戦って、一気に決着をつけようと大技はダメです。特に『フレアバースト』はダメですよ」

 何度も『フレアバースト』はダメですと叫んだタイチの声が、清水に届いたらしい。


 清水の身体から膨大な魔力が溢れ出す。タイチが目を輝かせて注目する。アイアンゴーレムたちの真上に巨大な火の玉が現れ、輝きを放ち始める。そして、その火の玉が隕石のように落下。


 着弾した地点で炎が膨れ上がる。タイチたちは念のために『プロテクシールド』を発動して、D粒子堅牢シールドの後ろに隠れた。


 膨れ上がり始めた炎は次々にアイアンゴーレムを飲み込みながら、さらに膨れ上がる。タイチたちのところまで熱気が届いた頃、炎の膨張が止まる。


 『フレアバースト』でアイアンゴーレム十体ほどが鉄の塊に変わったようだ。だが、十数体のアイアンゴーレムは、灼熱の輝きを放ちながらも動きを止めていなかった。


 清水はガクッと膝を折り、地面に手をついた。

「魔力が尽きたのかな。だから、ダメだって言ったのに」

 タイチの言葉を聞きながら、鉄心は苦笑し後片付けをするために前に進み出た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る