第334話 新バージョンのエルモア

 屋敷にアリサたちと亜美、それに鉄心が集まった。鉄心は前回作製を手伝ったエルモアが新バージョンになるというので興味を持ったようだ。


「今日はエルモアの新しい身体を作る。協力してくれ」

 亜美が手を挙げた。

「エルモアの新しい顔はどうするんですか?」

「元のままがいいそうだ。この顔こそが、エルモアだと言っている」


 言っているのはメティスなんだが、モアイ顔に慣れてしまっているし、他の顔にするメリットもないらしい。シャドウパペットにとっては、顔など区別できれば良いようだ。


 作業部屋に移動し、エルモアの魔導コアに停止を命じる。その後、エルモアの身体を解体し、使っていたソーサリー三点セットや魔導コア、収納リング、魔力バッテリーなどを回収する。


 俺はD粒子を練り込んだシャドウクレイ百五十キロを取り出して、作業台の上に載せる。最初は千佳と鉄心が協力して大体の形を整えた。こういう作業は魔装魔法でパワーアップした者に任せるのが一番だ。


 それから微調整しながら形を整えていく。顔は亜美と由香里に任せる。この二人が一番器用なのだ。俺は腕の内側に魔法回路コアをセットするコア装着ホールを作る。


 コア装着ホールは、魔法回路コアを着脱可能なように作った。戦う相手を判断して使える魔法を変えるという方が実戦的だと考えたからである。


 形が出来上がると、高速戦闘対応ソーサリーアイ、ソーサリーイヤー、ソーサリーボイス、魔導コア、収納リング、魔力バッテリーを組み込む。


「色はどうするんです?」

 天音が尋ねた。その事について、メティスに希望を聞くとトシゾウのような感じで良いそうだ。メティスはエルモアに化粧をさせて、買い物に行きたいらしい。


 髪の毛と眉毛、尻尾をマスクしてから、シャドウパペット用のスプレー塗料を吹き付けた。塗料が乾いてから最後の仕上げをする。俺はエルモアの新しい身体に魔力を注ぎ込んだ。


 エルモアが目を開け動き出す。まずエルモアに服を着せてから、地下練習場へ行ってエルモアの動きを確認しなければならない。基本的に同じ体形にしたので、動きには問題ないようである。


「さて、高速戦闘モードでテストしてみよう」

 俺が指示すると、丸太が五本ほど立ててある場所に近付いたエルモアが、一度目を閉じてから菊池槍を取り出し、高速で動き始めた。


 丸太の間を動き回り槍の穂先を丸太に突き刺した。細かいステップを繰り返しながら、身体の向きを変え丸太に菊池槍を突き刺す。その動きがところどころで消えるように見え始める。


「うわっ、動きが速えぇ」

 鉄心が思わず声を出した。エルモアが、これほど素早い動きを戦闘時にしたことはない。この動きにソーサリーアイの性能が付いて来れずに目が見えないまま動くという事になってしまっていたからだ。


「グリム先生、エルモアはどれほど速いんですか?」

 天音が質問した。

「そうだな。素早さ六倍というところかな。元々パワータイプだから。これくらいが限界なんだ」


「よし、終了だ」

 俺の指示でエルモアの動きが止まった。俺はエルモアの身体をチェックしたが、不具合はないようだ。


 その後、魔法回路コアを一度だけ使わせてみた。トリプルクラッシュランスを使わせると、エルモアの手の先からD粒子ランスが飛び出し、コンクリートプロックに命中した。


 魔法回路コアを使えば、シャドウパペットでも多重起動ができると確認できた。但し、メティスが制御しているから成功したのだと思う。


「これだけのシャドウパペットを作れるのなら、欲しがる者が大勢居るだろうな」

 鉄心が言い出した。

「これで商売をするつもりはないから」

 俺がそう言うと、鉄心が『勿体ない』と言う。


「俺の代わりに、弟子がシャドウパペットで商売すると言っているから、それでいいだろ」

 亜美がニコッと笑う。

「鉄心さんなら、安くしておきますよ」

「いやいや、俺だって生活魔法を使えるんだ。自分で作れるよ」


 亜美が肩を竦めた。このバタリオン内部では商売にならないだろう。

「そう言えば、鳴神ダンジョンのナメクジ草原を、石橋さんたちが突破したらしいぞ」


 石橋はC級の攻撃魔法使いだが、先にバタリオンを設立した先輩でもある。

「どうやって突破したんだろう?」

「四輪駆動車に装甲を貼り付けて、ランニングスラッグに追い付かれないように駆け抜けたらしい」


「進行方向に居るランニングスラッグは、どうしたんです?」

「サンルーフから身を乗り出して、攻撃魔法でぶっ飛ばしたと言っていたよ」

「うわっ、豪快だな」


 ソロだと難しい方法だ。いや、俺かエルモアが自動車の運転を覚えれば良いのか。だけど、他人と同じ事をしても成功するとは限らない。攻撃魔法は射程が長い魔法が多いので、生活魔法とは違うかもしれない。


「そのナメクジ草原を突破すると何があるんですか?」

 天音が尋ねる。

「蟠桃の木の森があったそうだ」

 蟠桃というのは平たい扁平形で真ん中が少しくぼんだ形の桃である。孫悟空の物語に西王母が管理する蟠桃園の話が出て来て、その桃を食べると不老長寿となったり仙人になるという設定になっている。


 ダンジョンの蟠桃は、西王母の蟠桃と異なり不老長寿になるというような効果はないが、食べると硬化したり傷付いたりしている血管を再生させる効果が有るらしい。


「そんな桃を持ち帰ったのなら、石橋さんは大儲けしたんじゃないか?」

 鉄心が苦笑いする。

「それが蟠桃の森の番人みたいな魔物が居るそうなんだ」


「へえー、どんな魔物?」

「カメレオンとハリネズミを混ぜたような魔物で、蟠桃の木に近付く者を毒針で攻撃するらしい」

 その魔物『ニードルカメレオン』は、体色を自由自在に変えて、蟠桃の木と同化して発見し難いという。不用意に近付く冒険者は、毒針を飛ばされて痛い目をみる。


「その桃、食べてみたいですね」

 由香里が言うと、他の皆も頷いた。ちなみに、石橋は十六個の蟠桃を持ち帰ったようだ。ダンジョンの蟠桃は木を切り倒したり、桃の実が地面に落ちると腐り始めるという変な性質を持っているので、魔法で回収するというのは難しいらしい。


 アリサたちは七層まで到達しているらしいので、もう少し頑張れば十一層まで行けそうだ。ナメクジ草原をどうやって突破するかは問題だが、生活魔法使いらしいやり方が有るはずだ。


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