第331話 二度目の御神籤

 上条の魔装魔法は咆哮を浴びた拍子に解除されたようだ。その動きが元に戻っている。

 アイアンドラゴンが移動し、上条が手放したグレートソードの上に足を乗せ踏み潰す。十二トンほどの体重にグレートソードは耐えられなかったらしく、ポキリと折れてしまう。


「ああっ!」

 上条が声を上げた。あのグレートソードは大金を出してオークションで落札したものだったのだ。


 アイアンドラゴンが上条に向かって迫る。上条は七重起動の『クラッシュランス』を発動し、D粒子ランスをドラゴンの腹に向かって放つ。


 『クラッシュボール』ではなくセブンスクラッシュランスを選んだのは、スピードを重視したようだ。D粒子ランスはアイアンドラゴンの腹に命中し深さ九十センチの穴を開ける。


 ドラゴンが痛みを感じて叫び声を上げた。上条は後退してアイアンドラゴンと距離を取ってから、もう一度魔装魔法を発動する。


 今度の魔装魔法は素早さを重点的に上げる魔法だったようだ。脇差を左手に持って、凄い速さで動き始めた。アイアンドラゴンは上条の姿を見失った瞬間、口を大きく開き始める。また咆哮を放つつもりなのだ。


 上条はドラゴンの後ろ足に向かって『クラッシュボール』を連続で発動する。D粒子振動ボールが次々に放たれ、アイアンドラゴンの下半身へ向かって飛翔。


 それが危険だと感じたアイアンドラゴンは、全身をクルッと回転して尻尾でD粒子振動ボールを弾き飛ばした。衝撃で空間振動波を放射したD粒子振動ボールだったが、強制的に軌道を変えられておりドラゴンの肉体には損傷を与えられなかった。


 上条はそれを予期していたかのように、回転したアイアンドラゴンの足元に跳び込んだ。至近距離で『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを後ろ足の付け根に叩き付ける。


 これだけ至近距離で放たれたD粒子振動ボールは避けられない。空間振動波はアイアンドラゴンの腰に穴を開ける。アイアンドラゴンの咆哮は、叫び声となって大気を震わせただけに終わった。


 ドラゴンの巨体がゆっくりと傾き始める。空間振動波が関節部分を砕いたのだ。上条は素早さを上げた状態で倒れる方向を見極め、頭が地面に叩き付けられる場所から少し離れた位置に移動する。


 スローモーションで見ているようにドラゴンが腰から血を噴き出しながら倒れ、待ち構えていた上条がD粒子振動ボールを、その巨大な頭に叩き付ける。


 空間振動波が放射されてアイアンドラゴンの頭に穴が開く。その一撃で仕留められるとは限らないので、角度を変えて、もう一度D粒子振動ボールを放つ。


 上条の動きを見ていた俺は、納得したように頷いた。横を見ると増田が、口を開けたまま驚いた顔で倒れたアイアンドラゴンを見詰めている。


 興奮して何か叫んでいるようだが、その声が変質して聞こえるので意味が分からない。『韋駄天の指輪』の効果が聴覚にも及んでいるので、音声でのコミュニケーションが難しくなっているのだ。


 倒れたアイアンドラゴンが細かく分解され消えていく。俺は『韋駄天の指輪』への魔力供給を切った。


「はあはあ……やった」

 上条は額から噴き出した汗をタオルで拭った。俺は上条に近付いて声を掛ける。

「おめでとう。B級昇級試験は合格です」


「グリム先生の御蔭だよ。『クラッシュボール』を習得していなかったら、危なかった」

「あのグレートソードは残念だったけど、あれは上条さんに合っていなかったから、これで良かったのかもしれないね」


「良くないぜ。壊されなかったら、売る事もできたんだ」

 上条は壊れたグレートソードのところに行って、真っ二つになったグレートソードを回収した。


「はあっ、仕方ない。ドロップ品に期待しよう」

 上条が溜息を吐いてからドロップ品を探し始める。今回のドロップ品は、白魔石<小>だけが見付かった。


「おかしいな。魔石だけって事はないはずだ。よし、『マジックストーン』を使ってみよう」

 俺の提案を聞いた上条が首を傾げる。


「白魔石が見付かっているのに、なぜ『マジックストーン』?」

「『マジックストーン』は、D粒子を多く含んでいるものなら、魔石でなくても集められるんですよ」


 俺が『マジックストーン』を発動すると、五メートルほど離れたところから、指輪が飛んできた。それをキャッチして上条に渡す。


「本当に飛んできた。凄いな」

 上条は少しの間、指輪を見詰めていたが、何の指輪か分からないようだ。

「鑑定モノクルで調べましょうか?」


「このまま冒険者ギルドに戻るまで待つのも嫌だから、頼むよ」

 俺は指輪を受け取って、鑑定モノクルで調べた。その結果『装甲の指輪』だと分かった。この指輪に魔力を流し込むと、使用者の身体に魔力の膜のようなものが張り付き、使用者を守るらしい。


 その結果を上条に知らせ、指輪を返す。上条は嬉しそうな顔をする。

「魔導装備としては上等な方だな」

 俺はニヤリと笑い、聖域の方を指差す。

「次は聖域だ」


 俺たちは鳥居のような門を潜って聖域に入った。そして、選択の間に向かう。

「誰からくじ引きを引く?」

 話し合って、増田・俺・上条の順番になった。


 まず増田が選択の間に入って、白い壁に貼られている紙を一枚選ぶ。

「ああっ、末吉だ」

 増田が握っていた紙が、布マスクに変わった。増田がガックリと肩を落とす。


 念のために鑑定モノクルで調べてみると、空気以外を通さない布マスクという表示が出た。これは凄いのではないだろうか。オークションに出せば、高額で落札されるかもしれない。


 それを聞いた増田が笑顔を見せた。次は俺の番だ。選択の間に入って紙を選ぶ。

「吉だ。これって二番目に良いはずだよな」

 紙が消えて、一本の短剣が現れた。


 鑑定モノクルで調べてみると、『光の短剣』と表示された。アンデッドに有効な魔導武器のようだ。短剣でも覇王級の魔導武器らしい。


 微妙なものが出てしまったな。俺には光剣クラウが有るからアンデッド用の武器は要らないんだけど。……『光の短剣』かと考えていると閃いた。


 短剣を見ながら考え込んでいる俺に気付いた増田が、

「何でそんな顔をしているんです? 末吉の私よりは、ずっとマシです。それより上条さんの番ですよ」


「おう」

 上条は時間を掛けて選び、その結果は『大吉』だった。上条が右手を上に突き上げて喜ぶ。

「よっしゃ―!」

 その紙が消えて、魔導武器らしい日本刀が現れた。


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