第332話 ワーウルフの群れ

 上条が手に入れた魔導武器は、刀身が八十センチ弱の打刀だった。魔導武器としての機能は、『魔力斬』というものである。魔力を注ぎ込んだ分だけ切れ味が上がるらしい。


「良かったじゃないですか」

 俺がそう言うと上条が微妙な顔をする。嬉しいのだろうけど不満も有りそうな感じである。

「私が得意なのは小太刀術なんだがな」


「それは贅沢ですよ。これは伝説級の魔導武器です。剣術を習えばいいだけじゃないですか」

 魔装魔法使いは使っている武器に合わせて技術を習得し、実力を上げるものなのだ。それは手に入る魔導武器を好きに選べないのだから仕方ない。


「そうだな。一から頑張るか」

 不満そうな顔をしていた割に、上条はすぐに考えを切り替えた。さっさと日本刀を仕舞うと戻ろうと言い出す。


 俺たちは十層へ向かって出発した。途中の荒野エリアでワーウルフの群れと遭遇する。ワーウルフは身長が二メートルほどだが、レッドオーガ並みのパワーを持つ魔物として知られている。遭遇したワーウルフは頑丈そうな鎧を身に纏い、手には戦鎚を持っていた。


「何だこれ! 反則じゃねえか」

 上条が思わず声を上げる。ワーウルフが八匹も居る。こんなワーウルフの群れを見たのは、俺も初めてである。


 横に居る増田は顔が青くなっている。

「グリム先生、四匹ずつでいいか?」

 上条が四匹ずつ倒そうと提案してきた。だが、上条は疲れているはずだ。

「いや、あの群れは俺が倒すよ。上条さんたちは、ここで待っていてくれ」


 上条は俺の顔を見て、納得したように頷いた。俺は上条とアイアンドラゴンの戦いを見て刺激を受けたのだと思う。心の中で思い切り力を出して戦いたいと思っていたのだ。


 朱鋼製の戦鎚を持った狼男たちが、俺たちを見付けて走り出した。俺は『韋駄天の指輪』に魔力を流し込み、素早さを七倍ほどに上げる。


 ワーウルフは素早いと思っていたが、その素早さは人間の三倍ほどに相当するようだ。


 地面を蹴ると飛ぶような勢いで走り出す。俺の後ろには土煙が舞い上がり、それをD粒子センサーで感知する。一瞬でワーウルフと殴り合えるほどまで接近した。


 背後で魔力を感じる。上条が魔装魔法を使ったようだ。俺は先頭のワーウルフに近付き、クイントクラッシュランスを発動してD粒子ランスを叩き込む。


 そのD粒子ランスがワーウルフの頭に命中して、まず一匹を仕留めた。方向転換するためにスピードを緩めた瞬間、近くに居たワーウルフが気付いて戦鎚を振り下ろす。


 だが、その戦鎚もスピードが遅くゆっくりと落ちてくる。ステップしてギリギリで躱しワーウルフの足首を薙ぎ払うように下段蹴りを放つ。この動きは『疾風の舞い』の応用だった。


 足を払われたワーウルフがゆっくりと倒れ、セブンスブレードを発動し、その首を刎ねる。高速戦闘だと『ブレード』が使いやすいようだ。


 血が噴き出す前に離脱した俺は、三匹目の胸にD粒子振動ボールを放つ。至近距離でD粒子振動ボールを食らったワーウルフは、胸に穴を開けられて倒れる。


 四匹目のワーウルフが俺に気付いて戦鎚で薙ぎ払う。胸に向かって迫ってくる戦鎚を上半身を倒して避け、セブンスブレードでそいつの両足を切断する。


 別のワーウルフが背後から襲ってきたので、クイントクラッシュランスを発動して胸に向かってD粒子ランスを放つ。


 足を切断したワーウルフが地面に倒れた瞬間、その首をセブンスブレードで切断しトドメを刺す。至近距離まで近付けるので、敵の急所を狙って斬れる。


 D粒子ランスで胸に穴を開けられたワーウルフが痛みに苦しみながら戦鎚を振り回し始める。地面を蹴って後ろへ跳躍する。暴れているワーウルフから距離を取った俺は、そいつに向かってセブンスオーガプッシュを発動、オーガプレートを毛むくじゃらの足を狙って放つ。


 綺麗に足を掬われたワーウルフが空中に体を投げ出す。その頭に向かってクイントクラッシュランスを発動。頭に穴が開いてトドメとなった。


 残るのは二匹だけ、その二匹が一斉に襲い掛かってくる。五メートルの距離まで近付いた瞬間、セブンスブレードを発動して、D粒子ブレードを薙ぎ払うように振る。


 まず右側のワーウルフが身に纏っている鎧に命中し、それを中身と一緒に切断して左側のワーウルフへ向かう。D粒子ブレードがワーウルフの胴体を半分ほど切断したところで力尽きて消える。


 胴体を半分ほど切断されたワーウルフは地面に倒れ藻掻き苦しむ。俺はクイントクラッシュランスで頭を撃ち抜きトドメを刺した。


 『韋駄天の指輪』に注ぎ込んでいた魔力を止めて普通の状態に戻ると、『マジックストーン』で魔石を集めた。


 上条と増田が近付いてくる。

「八匹のワーウルフを倒して、息も切れていないなんて、凄まじいな。それにしても、いつ魔装魔法を習得したんだ?」

「魔装魔法じゃなくて魔導装備ですよ」

 上条が納得したように頷いた。


 地上に戻った俺たちは、冒険者ギルドへ行って上条が間違いなくアイアンドラゴンを倒した事を報告した。上条は正式にB級冒険者となる。


 上条は別のバタリオンに所属しているらしいので、自分のバタリオンには誘わなかった。但し、上条が所属するバタリオンの中で、生活魔法を広めると約束してくれたので、試験官を引き受けた甲斐はあった。


「ところで、グリム先生の作ったバタリオンは、通り名が付いたのか?」

 バタリオンが活動を始めると、周りから通り名が決められる。自分たちで決めるのではなく、周りの人間が評価して決めるものらしい。


 俺が作ったバタリオンは、まだ活動を始めたばかりなので、通り名というのは決まっていない。

「私が付けてやろうか。『生活防衛隊』というのはどうだ?」

「却下」


 上条がいたずら小僧のような笑いを浮かべて言ったので、即座に却下する。

 その日の夜は、上条の飲み友達と一緒にB級昇級試験合格を祝って、飲み会に参加した。楽しい夜を過ごした俺は、夜遅くに屋敷に戻る。


 金剛寺は帰り、トシゾウが迎えてくれた。風呂の用意をさせて、影からシャドウパペットを出す。

『くじ引きの結果は、ちょっと残念でしたね』

「そうでもない。光の短剣だったから、最初は光剣クラウとかぶったと思ったが、こいつを『奉納の間』で奉納すれば、もしかすると光剣クラウの片割れが手に入るかもしれないと思っているんだ」


 光剣クラウの片割れというのは、兄弟剣の光剣ソラスの事である。この二本の兄弟剣が揃えば、強大な魔物も倒せたという話を聞いていたので、興味が有る。


『しかし、光の短剣は覇王級の魔導武器です。どんな魔物が現れるのか予想が付きません』

「そうなんだよな。シルバーオーガみたいな魔物が出てきたら、また厳しい戦いをする事になる。もうちょっと腕を上げてから、『奉納の間』に行こうと思っている」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る