第325話 バタリオンの許可

 地上に戻った俺は、冒険者ギルドへ向かった。ギルドに到着すると、すぐに支部長室へ案内される。支部長が話があり、俺に連絡を取ろうとしていたらしい。


 挨拶して、鳴神ダンジョンの十一層について話す。

「なるほど、スフィンクスに十一層への階段があったんだな」

「ええ、そこの入り口から通路に入ると、三体の蒼銀ゴーレムが階段を守るようにうろついていたんです」


 支部長は頷いて考えるような顔をする。

「蒼銀ゴーレムか。どれくらいの間隔でリポップするかが、問題だな」

「どういう意味です?」


「蒼銀ゴーレムは強敵だ。A級のグリム君は確実に倒せるかもしれんが、C級は難しいかもしれん」

 C級の魔装魔法使いだと、伝説級の魔導武器を持っていないと倒せないかもしれないという。


「それにヒビ割れだらけの天井というのも、気に食わんな。攻撃魔法使いが派手な魔法を使うと、天井が崩落するかもしれんのだろう?」


「ええ、ダンジョンの罠のように感じました」

「それだけの情報が有れば十分だ。後は各自で考えるだろう。それにしても、十一層で遭遇したのが、アリゲーターフライとランニングスラッグとは……」


「どうかしたんですか?」

「アリゲーターフライとランニングスラッグのドロップ品が、霊薬ソーマの材料となるのだ」

 ドロップ品を目当てに、その二種類の魔物を専門に狩る冒険者も居るらしい。


 支部長が意味有りげな視線を俺に向ける。

「何です?」

「霊薬ソーマを作るには、シルバーオーガの角とアリゲーターフライとランニングスラッグのドロップ品が、必要なのだ」


 支部長は俺がシルバーオーガを倒したので、その角を持っているんじゃないかと思ったようだ。大正解である。だが、俺は正直に教えるつもりはない。


 霊薬ソーマは数ある魔法薬の中でも特別であり、シルバーオーガの角を手に入れてから調べたのだが、その材料の価値もスペシャルなものだった。


 手に入れた時は数十億円と考えていたが、そんなものじゃないらしい。でも、アリゲーターフライはそれほど強い魔物ではない。アリゲーターフライのドロップ品なら数多く有るのではないかと思った。


「アリゲーターフライは、それほど強い魔物じゃありませんよ。そのドロップ品なら……」

「いや、アリゲーターフライのドロップ率は、一万匹倒して一回ドロップするという確率らしいぞ」


 かなりハードだ。一日三十匹倒したとしても、一年間くらい倒し続けなければならない。

「俺は無理だな。ランニングスラッグも同じようなドロップ率なんですか?」

「アリゲーターフライよりはマシだが、誤差の範囲だ。それよりランニングスラッグは仕留めるのが面倒なのだ」


 大爆発する魔法で吹き飛ばすとか、強烈な熱で水分を蒸発させると死ぬらしい。それを聞いて『バーニングショット』の追加効果で発生する熱で仕留められないかと考えたが、ストッパーが働いてもランニングスラッグを貫通してしまいそうだ。


 そうなると、俺が持っている生活魔法の中で有効そうなのは、『クラッシュボールⅡ』『ダイレクトボム』『トーピードウ』『デスクレセント』くらいだろうか?


 この四つの魔法は魔力消費が多いものばかりだ。ランニングスラッグの群れを全滅させるとなると大変だろう。


「そう言えば、俺に連絡を取ろうとしていたようですが、何でしょう?」

「バタリオンの件だ。許可が下りたよ」

「本当ですか。ありがとうございます」


 礼を言われた支部長が笑う。

「私は何もしておらんよ。だが、バタリオンの役目は後進の育成だぞ。グリム君は早いんじゃないか?」

「しかし、目標であるA級にもなったし、次の目標となると生活魔法の普及なんですよ。それにはバタリオンを設立して指導するのが一番だと思ったんです」


「元が教師だったからか、教育には熱心だな。若者ならA級のランキングで二十位以内になって、特級ダンジョンを探索したいとかいう意欲はないのかね?」


 特級ダンジョンというのは、日本に一つ世界でも七つしかないダンジョンで、一層からドラゴンが出るという超難関ダンジョンである。この特級ダンジョンに挑戦できるのは、ランキングで二十位以内になった冒険者だけだ。


 俺はジロリと支部長を見た。

「日本の特級ダンジョンというと、出雲ダンジョンでしょ。あそこはヤバイと聞いていますよ。A級が三人も死んだというじゃないですか」


「本当に特級ダンジョンを目指せとは言っておらんよ。もっと高みを目指そうという意欲がないのか、と言っているだけだ」


 俺のランキング順位は、シルバーオーガを倒した事が評価され百八十二位になった。このまま頑張れば、二十位以内にというのも夢じゃないかもしれない。


 でも、リスクが高そうだ。特に特級ダンジョンに興味が有るという訳でもないし、二十位以内を目指すというのはパスだ。


「特級ダンジョンに何かあるんですか?」

「そうだな。魔法才能を上げる『才能の実』が一層に有るそうだぞ」

 『才能の実』は上級ダンジョンにも存在するが、かなり深い層にあるらしい。


「それで一層には、どんな魔物が居るんです?」

 支部長が渋い顔をする。

「バジリスクだな。それにベヒモスも居るかもしれないそうだ」


 見詰めるだけで人を石にできる邪眼を持つバジリスク、それに圧倒的な巨体で冒険者を押し潰そうとするベヒモスなどとは戦いたいと思わない。


 支部長と少し雑談をしてバタリオン設立を祝ってパーティーを開く事になった。


 その数日後、屋敷にアリサたちや亜美やタイチ、鉄心などの冒険者、ギルドの近藤支部長やマリア、魔法学院の鬼龍院校長やカリナなどを呼んで盛大に行った。


「おめでとう。それにしても凄い数のシャドウパペットだな」

 支部長が部屋のあちこちに居るシャドウパペットを見て言った。

「いろいろと試していたら、こうなったんです」


「バタリオン設立、おめでとう」

 鉄心がビールを片手に持って近付き、俺のコップに注いだ。

「ありがとうございます。鉄心さんはC級になれそうですか?」

「ああ、着実に実績を上げているから、なれると思う。これもグリム先生の御蔭だよ」


 アリサたちや亜美もお祝いの言葉を口にする。カリナが傍に来て祝ってくれた。

「しかし、凄いわね。数年でバタリオンを設立するほどの大物になるなんて」

「大物じゃないですよ。運が良かったのと、生活魔法が素晴らしかったんです」


「私も生活魔法は素晴らしいと思う。でも、生活魔法の修業だと言って、アリサさんたちにアイアンゴーレムの群れと戦わされた時は、死ぬかと思った」


 アリサたちはカリナと亜美、それに鉄心をアイアンゴーレム狩りに連れて行ったらしい。その御蔭でカリナの魔法レベルが『10』、亜美と鉄心が『9』になったようだ。


「おめでとうございます」

 背後で声がした。タイチが笑顔で立っている。

「ありがとう。タイチはアイアンゴーレム狩りに行かなかったのか?」

「シュンと一緒に、オークナイト狩りに行っていたんです」


 三橋師範とシュンは用があって来れないので、タイチが代わって祝いの言葉を伝えてくれた。皆から祝福されて、幸せな気分だ。俺の人生の中で、こんな時間が持てるようになるとは思ってもみなかったので、涙が出そうになる。


 アリサたちが来て、俺の周囲が華やかになる。

「トシゾウの事は、アリサから聞いていましたけど、凄いですね。それにハクロも可愛いです」

 金剛寺の指示で働いているトシゾウを見た天音が言った。自分の家にも欲しいと思う者が、大勢居るんじゃないかと言う。


 ハクロはタア坊と一緒に遊んでいる。ハクロがタア坊の頭をガシッと掴んで飛ぼうとしたが、無理だったようだ。タア坊が熊語で何か言っているようだが分からない。


 俺たちは、バタリオンの発展を祈りながら楽しい時間を過ごした。


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