第8章 ランキング編
第326話 名古屋の生活魔法使い
魔法才能に関して生活魔法が『C』で攻撃魔法が『D』だという事実も理由の一つである。根津は名古屋の魔法学院で攻撃魔法を習っていたのだが、三年生の時に生活魔法の記事を読んで生活魔法の勉強も始めた。
地元のダンジョンで魔法学院時代の友人たちとチームを組んで活動を始めたのだが、チームが解散してしまった。原因は単純に稼げなかったからだ。
根津はどうしたらいいか分からなくなり、冒険者ギルドの待合室で覇気のない顔をして天井を見上げていた。
「そんな顔をして、どうしたんだ?」
根津が前を向くと、この冒険者ギルドの支部長が
「チームが解散したんです。こんな顔にもなりますよ」
「ふん、一人になったのなら、ソロで活動を続ければいいだろう」
「僕はレベルの低い生活魔法使いなんですよ。ソロなんて無理です」
「何を言っている。生活魔法使いで初めてA級冒険者になったグリム先生は、ずっとソロで活動しているぞ」
根津が溜息を吐いた。
「A級のグリム先生と比べないでくださいよ」
支部長は少し考え助言した。
「やはり本物の生活魔法使いが、どんなものなのか知る必要が有るんじゃないか?」
「僕が本物じゃないという意味ですか?」
「グリム先生が居る渋紙市では、生活魔法使いがどんどん増えていると聞いている。本場の渋紙市へ行って修業するのがいいと思ったのだ」
そう言われた根津は、一理あると思い渋紙市へ行ってみる事にした。電車を乗り継いで渋紙市に到着した根津は、取り敢えず宿を決めて一週間ほど部屋を確保した。
その日は疲れたので早めに寝て、次の日に冒険者ギルドへ向かう。この町の冒険者ギルドは故郷のギルドより活気が有るようだ。
受付に行って、どんなダンジョンが有るのか確かめる事にする。
「中級ですか? それとも初級?」
「中級です」
「それですと水月ダンジョンになります。場所は……」
場所を教えてもらった根津は、資料室で水月ダンジョンの一層と二層の情報を仕入れて、ダンジョンへ向かう。
ダンジョンハウスで着替えて外に出るとダンジョンに入った。目の前に広がる草原をキョロキョロと見ていると、後ろから来た冒険者に声を掛けられた。
「水月ダンジョンは、初めてなんですか?」
振り返って声を掛けた者を確かめると、同年代と思われる女性、いや少女の冒険者だ。
「そうなんだ」
「目的の魔物が、どこに居るか教えましょうか?」
「いや、特定の魔物を狙っている訳じゃないんだ。ただ少し稼ごうと思って」
「そうなんですか。それじゃあ、五層の洞穴に居るリザードソルジャーがいいと思いますよ」
根津はリザードソルジャーと聞いて、ビビった。一人では倒した事のない魔物だからだ。
「僕は冒険者になったばかりで、まだリザードソルジャーはきついと思う」
その少女が首を傾げる。
「失礼ですが、得意な魔法は?」
「一応生活魔法使いだけど、攻撃魔法も使える」
「へえー、私と同じですね。
根津は慌てたように自己紹介を始める。
「僕は根津信一郎だ」
「根津さんは、生活魔法の『プッシュ』や『コーンアロー』が使えるんですよね?」
根津はちょっとムッとした表情になって頷いた。その二つは魔法レベル1で習得できる魔法だ。使えないはずがない。
「だったら、リザードソルジャーなんて楽勝ですよ。あっ……もしかして、魔法レベルが『3』になっていないんですか?」
「失礼だな。ちゃんと魔法レベル4だ」
亜美が口を押さえて謝る。
「ごめんなさい。それなら大丈夫ですよ」
根津は何が大丈夫なのか分からなかった。
「慈光寺さんは、魔法レベルがいくつなんだ?」
「私の魔法レベルは『9』です」
それを聞いた根津は、そっと溜息を漏らす。
「それじゃあ、五層の洞穴へ案内します」
亜美が歩きだし、根津は後を追った。すぐにゴブリンと遭遇したが、亜美がトリプルアローで瞬殺する。それを見た、というか見えなかった根津は驚く。
「今、何をしたんだ?」
「トリプルアローですよ」
根津もトリプルアローなら使える。だけど、亜美のトリプルアローは、信じられないほど発動が早かった。これが本場の生活魔法というものなのだろうか?
「今のトリプルアローは、発動が早かったけど、何かコツでも有るんですか?」
思わず言葉遣いが丁寧になっていた。それを聞いた亜美は、首を傾げる。
「私は特に早撃ちは得意じゃないんで、普通だと思いますけど」
「早撃ちというのは?」
「生活魔法の第一人者であるグリム先生は、早撃ちを重要視しているんです。先生の指導で一日に一時間ほどは早撃ちの練習をしているんですよ」
「えっ、慈光寺さんはグリム先生の弟子なんですか?」
亜美が嬉しそうに頷いた。
「一応そうです。グリム先生から生活魔法とシャドウパペットについて、教わっています」
根津はグリム先生の弟子だという少女が羨ましくなった。そんな事を考えていると、角豚が襲ってきた。
「今度は、お願いします」
亜美に言われて、トリプルプッシュを発動してD粒子プレートを角豚に叩き込む。その衝撃で角豚がよろよろしているところに、狙い澄ましてトリプルアローを放つ。その一撃で角豚が消えた。根津はホッとする。
「あれっ、根津さんは早撃ちの練習はしていないんですか?」
「生活魔法使いが早撃ちの練習をするなんて、初めて知ったよ」
「早撃ちは重要ですよ。……だから、リザードソルジャーに対して、自信がなさそうにしていたんですね」
亜美は早撃ちに関するコツを根津に教えた。
「後は、毎日練習するだけです」
亜美は根津を五層の洞穴まで案内した。それは三本の巨木がある場所で、その巨木の根本に入り口があった。二人は用心しながら一緒に足を踏み入れる。
亜美が『ライト』を発動すると、光の玉が現れ周りを照らし出す。
「リザードソルジャーが現れたら、私がトリプルプッシュをぶつけます。根津さんがクワッドアローで仕留めてください」
「分かった」
その後、リザードソルジャーを相手に何度も戦った。八匹目のリザードソルジャーを倒した後、根津が地面に座り込んだ。
「どうしたんです?」
亜美が平気な顔で尋ねた。
「済みません、ちょっと疲れたみたいです」
亜美は頷いて戻ろうと言う。根津は同意して戻り始めた。地上に戻るとまだ夕方にもなっていない。着替えて冒険者ギルドへ行くと、リザードソルジャーの赤魔石<小>を換金した。
その金を二人で分けても、名古屋で冒険者をしていた時の半月分以上の収入になった。根津は冒険者が儲かると初めて実感する。
「慈光寺さん、グリム先生に紹介してもらえますか?」
「グリム先生の都合を聞いてから、返事をさせてもらっていいですか?」
「もちろんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます