第324話 鳴神ダンジョンの十一層
俺はエルモアとハクロを影に潜らせてから、ピラミッドの外に出て『ウィング』を発動する。D粒子ウィングに跨った俺は、スフィンクスへ向かった。
自分の目で見たスフィンクスは、歴史を感じさせる古いものだと感じた。但し、鳴神ダンジョンが出来てから二年ほどしか経過していないので、初めから古びたスフィンクスとして創られたのだろう。
スフィンクスの前に着地すると、メティスがエルモアを影から出した。
『蒼銀ゴーレムの一匹は、私が足止めします』
メティスが『足止め』と言ったのは、トリシューラ<偽>では蒼銀ゴーレムにトドメを刺せないと考えたからだろう。
トリシューラ<偽>は覇王級の魔導武器である。その貫通力は<貫穿>の特性を付与した魔法と同じ程度。エルモアの剛力で蒼銀ゴーレムを突いたとしても深い穴を開けるのは難しい。
この覇王級の三叉槍は衝撃波を放ってダメージを与えるという武器だが、その穂先が敵に深く食い込んだ状態で衝撃波を出さないと大きなダメージを与えられないのだ。
俺とエルモアは並んで通路を進み始める。遠くから蒼銀ゴーレムたちの足音が聞こえ始めた。俺は武器を持たずに慎重に進む。
「そうだ。魔導鉄甲に『クラッシュボール』の魔法を込めて、エルモアに持たせれば良かったか」
それを聞いたメティスが反論する。
『練習もせずに、即実戦というのは厳しいです』
当然の事を言われて、溜息を漏らす。
身長三メートルほどの蒼銀ゴーレムが見えた。ここは先制攻撃だと思い、『クラッシュボール』を連続で発動する。複数のD粒子振動ボールが三体の蒼銀ゴーレムに向かって飛ぶ。
D粒子振動ボールは二体の蒼銀ゴーレムに命中したが、急所ではなかったようだ。
「『クラッシュボール』ではなく、『デスクレセント』が良かったか」
『いえ、ここの通路はかなり脆くなっています。『デスクレセント』だと天井が崩落するかもしれません』
メティスの言葉を聞いて、上に目を向ける。そこにはヒビ割れがいくつもある天井があった。これはダンジョンが仕掛けた罠なのだろう。
威力の有る魔法を発動させると、自滅するように造られているのだ。蒼銀ゴーレムは俺とエルモアに気付き、凄まじい足音を響かせながら、こちらに迫って来る。
先頭の蒼銀ゴーレムに対して七重起動の『ライトニングショット』を発動しD粒子放電パイルを放った。その攻撃は蒼銀ゴーレムの胸に命中したが、鋼鉄よりも頑強な蒼銀の塊はD粒子放電パイルの先端を五センチほど食い込ませて耐えた。
その後に追加効果の雷撃が蒼銀ゴーレムを襲ったが、大したダメージを与えられない。それを確かめて、思わず顔をしかめる。
「はあっ、まるで歩く戦車だな」
エルモアが蒼銀ゴーレムたちの背後に回り込み、最後尾の蒼銀ゴーレムと戦い始めた。残りの二体は、俺に向かって来る。
胸に穴が開いた蒼銀ゴーレムが迫っていた。俺は五重起動の『ティターンプッシュ』を発動しティターンプレートを蒼銀ゴーレムの胸に向かって放つ。
命中したティターンプレートは、トン単位の重量がある蒼銀ゴーレムを弾き飛ばした。通路の床をゴロゴロと転がった蒼銀ゴーレムは、もう一体の味方を薙ぎ倒す。
俺は倒れている蒼銀ゴーレムに近付き、胸の中央を狙ってセブンスクラッシュランスを発動する。D粒子ランスが蒼銀で出来た胸の中央を抉る。それがトドメとなった。
もう一体も立ち上がろうとしていたので、近付いてセブンスクラッシュランスを発動。その胸に穴が開き倒れて動かなくなる。
残ったのはエルモアと戦っている蒼銀ゴーレムだけである。俺はその背後から近付き、急所にD粒子ランスを叩き込んで仕留めた。
危険になったら『韋駄天の指輪』を使おうと思っていたが、そんな必要はなかったようだ。
全ての蒼銀ゴーレムが消えた。残ったのは、赤魔石<大>が三個とゴーレムコアが三個である。
通常、ゴーレムコアがドロップされる確率はアイアンゴーレムなら十体に一個、蒼銀ゴーレムなら四、五体に一個らしいが、今回は初めてスフィンクス内の蒼銀ゴーレムを倒した特典という事だろう。
アイアンゴーレムのゴーレムコアは銀色だったが、蒼銀ゴーレムのゴーレムコアは青みを帯びた銀色だ。何か違うのだろうか?
『小さな宝箱を発見しました。開けてもよろしいですか?』
「ああ、開けてくれ」
エルモアが宝石箱のような宝箱を開けた。中には何かの装置が入っていた。大きさは粉末状の洗剤が入った箱ほどの大きさである。
鑑定モノクルで調べてみると、『魔法回路刻印装置』と表示された。この魔法回路刻印装置は魔法回路をゴーレムコアに刻み込む事ができる装置のようだ。
分析魔法の『トレース』で魔導吸蔵合金に保存した魔法の魔法回路だけをゴーレムコアにコピーできる事を、アリサが発見した。そのゴーレムコアにコピーされる魔法回路は魔法陣とは違うものだった。
『面白いですね。アリサさんに手伝ってもらって、研究してみてはどうです?』
「そうだな」
魔法回路刻印装置によって刻まれた魔法回路と分析魔法の『トレース』でコピーされたものに違いが有るのか、気になった。アリサに協力してもらって調べてみよう。
蒼銀ゴーレムを撃破した俺は、通路の先へと進んだ。そして、階段を発見する。その階段を下りると、十一層に辿り着いた。
初めて目にした十一層には、広大な草原が広がっていた。所々に森と呼ぶには規模が小さい林がある。
空を見ると何かが飛んでいる。近付いてみると、その正体が分かった。トンボを巨大化して頭を
大口を開けたアリゲーターフライが滑空してきたので、それを避ける。全長が二メートルほどあり、鰐の頭だけがミスマッチだ。
アリゲーターフライが旋回してから、また襲ってきた。俺は五重起動の『サンダーバードプッシュ』を発動し、稲妻プレートを鰐頭に叩き付ける。
高速で叩き付けられた稲妻プレートが電流をアリゲーターフライに流し込み、その体を弾き飛ばした。クルクルと回転したアリゲーターフライがポトリと地面に落下。
俺は近付いてトリプルクラッシュランスを発動しD粒子ランスを、その頭に叩き付けてトドメを刺す。
『あれは何でしょう?』
エルモアの目を通してメティスが何かを発見して警告する。エルモアが見ている方向に視線を向けると、草原の奥に何かが動いている。
巨大なナメクジの群れだった。走る巨大なナメクジと言われる『ランニングスラッグ』である。全長三メートルほどの巨大ナメクジでかなりの速さで移動する事ができるらしい。
その群れがこちらに近付いてきた。ナメクジなのに速い。人間が走る速度に近いのではないだろうか。
「何か、怖いな」
『大きいだけのナメクジですから、怖いというのは変です』
そう言われても、何だか不気味な感じがするのだ。俺は試しに『クラッシュボール』で攻撃してみる事にした。いくつかのD粒子振動ボールがランニングスラッグに向かって飛翔し命中する。
「あれっ、命中したのに、平気な顔で進んでくるぞ」
俺は『クラッシュボール』でもう一度攻撃した。だが、空間振動波が巨大ナメクジの体に穴を開けても、それがすぐに塞がってしまうようだ。
『訂正します。ランニングスラッグは大きいだけのナメクジではありませんでした』
俺たちは逃げ出す事にした。ランニングスラッグの事を調べてから出直そうと思ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます