第323話 飛竜型シャドウパペット

 魔導職人の桐生に頼んだソーサリーアイの中で、最初に小型飛竜用のものが完成した。次にエルモア用のものの作製を始めるが、高速戦闘に対応したものという注文なので時間が掛かるらしい。


 俺は飛竜型シャドウパペットを作製するために、亜美に手伝いを頼んだ。次の土曜日に亜美とアリサが屋敷に来る。


「どうして、アリサも?」

「私は論文を書き上げて、魔法庁に提出した事を報告に来たんです」

 魔法に関する論文は魔法庁に提出する事になっている。魔法庁に所属する学者たちが査読して、正しく価値が有ると認められたら、魔法庁が刊行する月刊誌に載る事になるのだ。


「グリム先生、今日はどんなシャドウパペットを作るのですか?」

 俺は手伝ってくれと頼んだが、どんなシャドウパペットを作るのか言わなかった事を思い出した。

「飛竜型のシャドウパペットだ」


「飛竜型……それは飛べるのですか?」

「分からない。今日試してみようと思っている」

「私も手伝います」

 アリサも飛竜型シャドウパペットに興味が有るようだ。俺たちは作業部屋に行って、リントヴルムから手に入れたシャドウクレイにD粒子を練り込んだものを使って、シャドウパペットを作り始めた。


 シャドウクレイは三キロほどで大きさは鷹ほどになると思う。通常の鳥より重いが、飛べるのだろうか? そんな心配をしながら、亜美とアリサに手伝ってもらいシャドウクレイを加工する。


 アリサと亜美は実物を見ていないので、魔物写真集に載っているリントヴルムを見ながら手伝う。骨格や筋肉は分からないので外見から想像する事になった。


 このシャドウパペットで一番難しいのは、翼の部分である。そのために俺は特注の台を作らせて用意していた。広げた翼を置く台である。


 慎重に加工していき、飛竜の足や顔の部分を作り上げる。眼と耳、それに頭頂には穴が開いている。そこにソーサリーアイとソーサリーイヤー、魔導コアを埋め込む。最後に魔力バッテリーを腹部に埋め込んだ。


「ふうっ、形はできたな」

 アリサが俺に顔を向ける。

「色はどうするんですか?」

「全部、白にしようかと思っているんだ。こいつは偵察用のシャドウパペットなんで目立たない色がいいんだが……白か黒の二択だからな」


 ダンジョンの天井部分は、白っぽい光を放っている場合が多いので、黒より白の方が目立たないのだ。

「でも、森の中だと白は目立ちますよ」

 亜美は反対意見のようだ。


「場所によるのは分かっている。だけど、白竜だぞ。運が良くなりそうな気がするじゃないか」

 それを聞いていたアリサに笑われた。

「アリサは反対なのか?」

「いえ、白でいいと思います。ただ、理由が運が良くなりそうだから、というのがおかしくて」


 という事で、シャドウパペットを白く塗装した。乾いた後、仕上げの魔力を注ぎ込む。すると、粘土の塊でしかなかったものが、生命を宿し動き始める。


 よたよたと歩き回る姿は、何だか可愛い。時々翼を動かすが、まだ飛べないようだ。飛べるようになるには訓練が必要だろう。


「可愛い」「本当に可愛い」

 アリサと亜美は弱々しく動き回るシャドウパペットを可愛いと感じたようだ。亜美は弱々しいシャドウパペットを撫でながら、きゃあきゃあと声を上げて喜んでいる。シャドウパペットが好きだという事が感じられる。


「名前は決めているんですか?」

 亜美が質問した。

「そうだな。『ハクロ』にしよう」

 朝の光に白く輝く露の事を『白露』というのだが、飛竜型シャドウパペットの白い色が、そんな感じに見えたのだ。


 その日からハクロの訓練が始まった。一週間ほどで自由に動けるようになったが、まだ飛べず。それから五日で何とか飛べるようになった。


 コツは魔力を翼に流し込み、翼で空気を掴むように羽ばたく事だったようだ。ハクロは気持ちよさそうに屋敷の上空を飛び始めた。


 俺が呼ぶと、ハクロは翼を畳んで急降下し、地面に近付いたところで翼を広げて滑空を始め俺の腕に着地する。


『リントヴルムは、ブレスを吐くはずですが、ハクロは吐けませんね』

 メティスはエルモアの目を通して、ハクロの観察をしていたようだ。

「無理言うなよ。リントヴルムのブレスというと火炎ブレスだろ。何か体内に仕掛けが有るんだと思うんだ」


『魔法だった場合、何の仕掛けも必要ないと思いますが』

「魔法が使える魔物のシャドウ種が発見されて、そのシャドウパペットを作ったら、魔法が使えるようになるんだろうか?」


 メティスにも分からなかった。ハクロが飛べるようになったので、ダンジョンへ行って感覚共有機能付きのソーサリーアイのテストをしようと思い、鳴神ダンジョンへ向かう。


 鳴神ダンジョンの一層から十層へ移動すると、中ボス部屋へ行って隠し階段みたいなものがないか調べる。中ボス部屋に十一層へ下りる階段があると思っていたのだが、シルバーオーガを倒した時には見付けられなかったのだ。


『階段は、どこにあるのでしょう?』

 エルモアが空のまま置かれている宝箱を持ち上げて調べた。何もない。部屋中を隈なく調べても見付けられなかった。


「この部屋にはないという事か。だとすると、外だな」

『ハクロの感覚共有機能を使って、調査してはどうですか?』

 俺は頷いてハクロを影から出した。そして、ハクロに組み込んだ感覚共有機能付きソーサリーアイに意識を同調させる。その瞬間、俺の頭の中にハクロが見ている景色が現れる。


 ハクロは指示に従い外に飛んでいった。ピラミッドの出口から外に飛び出すと、翼を羽ばたき急上昇する。


 眼下にピラミッドが見え、その周りに砂漠が広がっている。ピラミッドを中心に旋回していると、五キロほど離れた地点にスフィンクスが見えた。


 近付くとスフィンクスの胸のところに入り口がある。ハクロは降下して入り口の前に着地。ハクロを慎重に進ませ入り口から中に入る。


 そこは通路になっていて、広さは幅四メートル、高さ五メートルほどだろうか。そのままハクロを進ませると、ドシンという振動が伝わり、俺が見ている映像が揺れる。


 何だろうと思っていると、通路の奥に三体の蒼銀ゴーレムが動き回っている姿が見えた。俺はハクロを通路の壁際に移動させ、蒼銀ゴーレムを観察させる。


 メタリックブルーの重そうな体が動いている様子は、ゴーレムというよりロボットに見える。そこまで確かめてハクロに戻るように命じた。ハクロは中ボス部屋に戻ってきて、俺の腕に止まる。


『何か分かりましたか?』

 メティスの質問に、俺は頷いた。

「ここから五キロほど先にスフィンクスがある。そこに蒼銀ゴーレムが棲み着いている通路があった」


『その通路の先に階段があるのでしょうか?』

「まだ分からないが、その可能性もある。確かめてみよう」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る