第320話 シルバーオーガのドロップ品
気持ちが落ち着いてから、ドロップ品を探し始める。最初に白魔石<中>を拾い上げた。相変わらず白魔石の利用方法は分からないが、白魔石<中>ならばアクアドラゴンと同じ魔石だ。
エルモアが床からシルバーオーガの角を拾い上げる。
『シルバーオーガの角がドロップしていました』
「へえー、その角は何に使えるんだ?」
鑑定モノクルを取り出して調べてみると、そこに表示された結果は驚くべきものだった。
この角を粉末にしたものが霊薬ソーマの材料となるようなのだ。霊薬ソーマは病気を治すという効果もあるが、一番の効果は寿命を延ばすというものだった。
どうやって寿命を延ばすのかは分からないが、若返るという訳ではなく一定年月の間は老化がストップするらしい。オークションに掛ければ、最低でも数十億円という値段が付くのではないだろうか。
他に何かないか調べてみると、中ボス部屋の隅に宝箱を発見した。エルモアに開けてもらう。罠はないようで、中を確認すると、
紫金鋼は『生きている金属』と呼ばれており、朱鋼よりも頑丈で傷付いても時間が経てば直るという特徴がある。その貴重な金属が五キロほど入っていたのだ。
『また金属なのですか。朱鋼も使っていないのに、それより貴重な紫金鋼とは』
朱鋼に関しては、武器に加工して売り払うつもりだったのだが、高速戦闘の練習にのめり込んで全然進んでいない状況だった。
たぶんシルバーオーガを倒したので、武器を作製する余裕も出て来るだろう。
「屋敷の改装や地下練習場の建設で、預金が少なくなったから、金策するためにも武器を作る事にするよ」
『それなら、シルバーオーガの角をオークションへ出した方が早いのでは?』
シルバーオーガの角は、本当に二度と手に入らないかもしれない。ここは売り急ぐ必要はないだろう。
「シルバーオーガの角は、しばらくは保留だな。どうしても金が必要だという時に、オークションに掛ける事にする」
シルバーオーガの角だけでは霊薬ソーマは作れないので、自分で使うという選択肢はなかった。巻物は屋敷に戻ってから確かめる事にして、俺は地上に戻った。
ダンジョンハウスに居た冒険者ギルドの職員に、十層の中ボス部屋で『鉄の誓い』チーム全員が死亡した事を伝える。その職員は急いで支部長へ連絡したようだ。
近藤支部長が詳しい状況を聞きたいというので、冒険者ギルドへ行った。
冒険者ギルドに到着し支部長室へ行くと、支部長とA級の長瀬、それに西條が待ち構えていた。西條は北海道のダンジョンで、三つの頭を持つ犬『ケルベロス』という中ボスを倒してB級冒険者となっている。
「長瀬さんたちとの話が終わっていないのなら、外で待ちましょうか?」
「二人は共同でシルバーオーガを倒す特訓をしていたのだ。グリム君の話がシルバーオーガに関係すると聞いて、一緒に話を聞きたいというのだが、構わないかね?」
支部長に話した事は公表されるから、二人に聞かれても構わないだろう。
「いいですよ」
そう言ってから、『鉄の誓い』チームの攻撃魔法使いが中ボス部屋の外からシルバーオーガを攻撃したという話をする。
それを聞いた近藤支部長は、顔を歪め弱々しく首を振る。
「あいつら、魔法学院で習ったはずなのに……」
長瀬が俺に視線を向ける。
「その時、君は何をしていたんだ?」
「シルバーオーガの様子を確かめたら、帰るつもりだったので、四人に背を向けて戻ろうとしていたんだ」
ダンジョンの禁止事項を破った事による巻き添えで、俺も中ボス部屋に放り込まれたと話すと、支部長がテーブルをドガッと叩いた。
「済まない。そこまで非常識な奴らだと気付かなかったのは、私のミスだ」
西條が俺を睨むように見る。
「それでシルバーオーガとの戦いはどうなった?」
俺はまず『鉄の誓い』チームとシルバーオーガとの戦いを説明した。それを聞いた支部長が、
「ふむ、四人が死んだ時点で、少しだけダメージを負った素手のシルバーオーガとグリム君との戦いとなった訳だな」
そう言って首を傾げた。
「グリム君がここに居るという事は、シルバーオーガに勝ったという事なのだろうが、驚くしかないな」
支部長の言葉を聞いた西條が頷いた。
「絶対におかしい。シルバーオーガは、魔装魔法使いにしか倒せないと言われているんだぞ」
支部長が何かを思い出して声を上げた。
「そうか、『奉納の間』でドラゴニュートを倒して、素早さを上げる魔導装備を手に入れたんだな」
『奉納の間』でドラゴニュートを倒した事は報告してあるので、その事を思い出したらしい。
「ええ、素早さを上げる魔導装備を手に入れていたので、シルバーオーガにも勝てました」
西條が悔しそうに俺を睨んでいる。そんな顔で見るなよ。獲物を横取りする形となったけど、俺には責任ないからな。
長瀬が首を振る。
「信じられない。例え素早さを上げる魔導装備を所有していたとしても、シルバーオーガを倒すには、ハイスピード戦闘術を身に付けていないと無理なはずだ」
魔装魔法使いたちは、高速戦闘に『ハイスピード戦闘術』という名前を付けているらしい。
「生活魔法にも、ハイスピード戦闘術のようなものが有るんだ」
「本当か? 『鉄の誓い』チームの連中を囮にして、シルバーオーガを仕留めたんじゃないのか?」
西條が難癖を付け始めた。そして、違うのなら、自分と模擬戦をして実力を見せろと言い放つ。
西條、獲物を横取りされて悔しいのは分かるが、ちゃんと状況を説明しただろ。人の言葉が真実かどうかを見抜く目も大切だぞ。そんな事を考えてから返事をする。
「素手の模擬戦なら、受けて立とう」
一度実力を見せないと、西條は納得しないようだ。支部長が困ったという顔をしている。
「グリム君はシルバーオーガと戦って疲れているだろう。それに素手の模擬戦と言っても、ハイスピード戦闘術を使うのなら、危険じゃないのかね?」
俺が大丈夫だと言うと、西條が鼻で笑う。
「ちゃんと手加減はしますよ」
模擬戦を行う前に、『鉄の誓い』チームの遺体を渡したいと言うと、ギルドの一番奥にある部屋に案内され、そこにある台に四人の遺体を置く。長瀬が遺体を調べ、シルバーオーガの攻撃で死んだ事を確かめたようだ。
それから俺たちは訓練場に向かった。支部長が訓練場で練習していた冒険者たちに近付かないように警告する。
「何だ? 何が始まるんだ?」
練習していた冒険者たちが集まって来る。その中に鉄心も居た。
「グリム先生、何が始まるんだ?」
俺の雰囲気が変わったと言われ始めた頃から、鉄心も『グリム先生』と呼び始めた。俺の何が変わったというのだろう。
「シルバーオーガを倒したら、西條が難癖を付けてきたんだ。それで模擬戦をして実力を証明する事になった」
鉄心が目を丸くする。
「マジか、A級の長瀬さんが倒せなかったシルバーオーガを、倒したのか。凄いな」
鉄心は西條の方へ目を向ける。西條はニヤニヤ笑いながら準備運動をしていた。それを見て鉄心は不安になったらしい。
「大丈夫なのか? 西條はB級だけど、長瀬さんとハイスピード戦闘術の特訓をしていたという噂だぞ」
「俺だって、三橋師範のところで高速戦闘の特訓をしているよ」
俺と鉄心が話していると、長瀬が声を上げる。
「さあ、始めよう。審判は私が務めよう」
西條と組もうとしていた長瀬が審判というのは気になるが、ノックアウトすれば問題ないだろう。俺は訓練場の中央へ進み出た。
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