第319話 シルバーオーガの高速戦闘
この馬鹿野郎たちは魔法学院を卒業したらしいから、中ボス部屋の外から中ボスを攻撃すれば、どういう事態を招くのか、教えられたはずだ。覚えていないのは、真剣に聞いていなかったからだろう。
そんな事より非常事態だ。俺は指に嵌めている『韋駄天の指輪』に魔力を流し込み素早さを七倍に上げる。
素早さ七倍だと勝てるかどうか分からない。戦うとしたら素早さを八倍に上げられるようになってから、と思っていたのに。
俺のD粒子センサーがシルバーオーガが動き出した事を捉えた。同時に『鉄の誓い』チームの魔装魔法使い二人が素早さを上げる魔装魔法を使ったらしい気配がする。
ただ攻撃魔法使いらしい二人は、動きがスローのままだ。あの二人は絶望的だろう。シルバーオーガが『鉄の誓い』チームに迫っていた。
俺は『超速視覚』も働かせていたので、シルバーオーガの動きが見えている。目では追い切れない速さで迫ったシルバーオーガは、攻撃魔法使いに向かって槍を突き出そうとしている。
俺はエスケープボールを取り出して、起動させようとした。だが、エスケープボールの表面にヒビが入って砕け散った。脱出できない。これは禁じられた事をした者たちへのペナルティらしい。
その間にシルバーオーガの槍が突き出され、攻撃魔法使いの胸を抉る。その胸からは血が噴き出さなかった。攻撃魔法使いの身体が反応できない速さなのだ。
仲間が刺されたのを見た魔装魔法使いが、魔導武器である剣をシルバーオーガに向かって振り下ろす。その剣をシルバーオーガの槍が受け流し、蹴りが魔装魔法使いの胸に叩き込まれた。
魔装魔法使いが蹴り飛ばされ、それを庇うように、もう一人の魔装魔法使いが戦鎚を分厚い胸に叩き込もうとする。だが、見切られて躱され槍の柄で叩かれる。
俺は生活魔法を撃ち込もうとするが、魔装魔法使いたちが邪魔で攻撃できなかった。彼らは必死で戦っているのだが、二人掛かりでもシルバーオーガが優勢だ。
槍を突き立てられた攻撃魔法使いは、今になって血を噴き出してゆっくりと倒れ始める。もう一人の攻撃魔法使いは、無駄とは知らずにエスケープボールを取り出したところだった。この二人だけがゆっくりした時間の中で生きているみたいだ。
シルバーオーガが離れた距離から突きを放つ。それは火炎弾を撃ち出すトリガーとなっているらしい。高速の火炎弾が撃ち出され、エスケープボールを持った攻撃魔法使いに命中して爆発。
魔装魔法使い二人が狂ったように、シルバーオーガに攻撃を仕掛け始める。だが、銀色に輝く角を持つ鬼は、余裕で躱す。この二人は魔装魔法の『ヘルメススピード』を使えるが、高速戦闘には慣れていないのかもしれない。
二人が邪魔で攻撃ができない俺は、不変ボトルを取り出し万能回復薬を飲んだ。このタイミングでないと飲む時間がないと判断したのだ。『韋駄天の指輪』は魔力消耗が激しいので魔力を回復しておきたかったのである。
シルバーオーガが回転しながら槍を突き出す。その動作で高速の火炎弾が二人の魔装魔法使いと俺に撃ち出された。二人の魔装魔法使いは大きく跳んで避ける。それを見たシルバーオーガがニヤッと笑ったように見えた。
俺はギリギリで躱し『パイルショット』を発動。飛翔したD粒子パイルがシルバーオーガに向かう。だが、それはギリギリで躱され、俺に向けてもう一度火炎弾が放たれる。
それをチャンスだと思った魔装魔法使いの一人が、高速で飛び込んで剣で突き刺そうとした。その剣からバチッという火花放電が起きたので、雷撃の剣だと判明。
しかし、シルバーオーガは雷撃の剣を上半身を捻る事で躱した。躱すと同時に槍を突き出しカウンター攻撃で魔装魔法使いの首を狙う。その槍の穂先が首を貫通して致命傷を負わせた。
俺は飛んできた火炎弾をギリギリで躱して、七重起動の『サンダーバードプッシュ』を発動し稲妻プレートをシルバーオーガの胸に向かって放つ。高速で空気を押し退ける凄まじい風切り音が響くが、感覚が高速化している俺には、変な音に聞こえる。
シルバーオーガは稲妻プレートを避けようと横に跳躍した。だが、一瞬だけ稲妻プレートが速く敵の脇腹に命中。盛大な火花放電が鬼の全身を襲った。
最後に残った魔装魔法使いが戦鎚を振り上げて襲い掛かる。渾身の力を込めた一撃は太い腕が握る槍によって防がれたが、戦鎚は槍を跳ね飛ばした。
魔装魔法使いは、武器無しになったシルバーオーガにもう一度戦鎚を振り下ろした。ところが、一撃で決めようとした振りは大振りとなり隙を作る。
シルバーオーガは手を
俺は唇を噛み締める。誰も助けられなかった。なぜだ? 俺が弱いからなのか? この時、強烈に強さを求める気持ちが湧き上がる。
シルバーオーガが手に付いた血を舐め、俺の顔を見て笑う。ゾッとするような笑いだ。俺は接近戦を挑む決心をした。今日まで鍛え続けた『疾風の舞い』を実戦で使おうと思ったのだ。
距離を取れば生活魔法を楽に放てるが、シルバーオーガも躱す余裕が生まれる。<ベクトル制御>と<衝撃吸収>を付与した服を信じて、戦う事に決めたのだ。
素手で構えた俺は、シルバーオーガに近付く。凶悪な貫手が突き出された。俺は上半身を左に振って躱し、その貫手に交差するように右手を振り出しながらクイントクラッシュランスを発動する。
D粒子ランスに気付いたシルバーオーガが左腕でガードするが、命中した瞬間に空間振動波が放出されシルバーオーガの左腕に穴を開ける。
シルバーオーガが初めて吠えた。俺も叫び返す。何と叫んだのかも意識していないが、自分に気合を入れるためだ。
シルバーオーガの攻撃速度が上がる。床を蹴って前進する時に床に爪痕が刻まれ、超速視覚を使って動きが分かっても反応できないほどのスピードになる。
避け損ねて左肩に貫手が命中するが、魔力を注ぎ込んだ衝撃吸収服は衝撃を吸収してくれた。『ティターンプッシュ』のように衝撃をそのまま返すという機能は付いていないので、シルバーオーガにダメージはない。
その代わりにカウンターでクイントクラッシュランスを発動して、D粒子ランスを飛ばしシルバーオーガの胸に叩き込む。
分厚い胸に穴が開いた。シルバーオーガの口から血が零れ出す。それでも俺に攻撃を叩き込もうとするので、後ろに跳びながら、『クラッシュボール』を連続で発動しD粒子振動ボールを何個も放った。
飛翔したD粒子振動ボールの三個だけが命中し、空間振動波がシルバーオーガの肉体に穴を開ける。それがトドメとなった。
シルバーオーガが消えた後、『韋駄天の指輪』と衝撃吸収服に供給していた魔力を止める。その時、身体がふらついた。どうやら魔力が切れかかっていたようだ。
俺は不変ボトルを出して飲んだ。身体に魔力が充満していく感じが気持ち良い。
「そうだ」
俺は四人の生死を調べ、全員が死んでいる事を確認した。俺の口から溜息が零れ出る。そして、四人の遺体を収納アームレットに仕舞う。
影からエルモアが出て来た。
『これが冒険者という仕事ですから、仕方ありません』
「そうだけど。やっぱり目の前で人が殺されると、落ち込んで嫌な気分になる」
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